コラム
2017年06月08日

不動産業へのブロックチェーンの応用可能性~不動産テックの動向とブロックチェーンの応用例~

金融研究部 主任研究員 佐久間 誠

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1――不動産テックへ高まる期待

1不動産テックとは
不動産テック(Real Estate Tech)とは、不動産(Real Estate)とテクノロジー(Technology)をかけあわせた造語で、IT技術と不動産の融合による技術革新を目指す取り組みのことである。金融分野で注目を集めるフィンテック(Fintech)に数年遅れ、昨年あたりから日本でも関心が高まっている。

不動産業においてIT技術を活用しようという動きは、今に始まったことではない。リクルート社の「SUUMO」やLIFULL社の「HOME'S」、アットホーム社の「at home」などの不動産情報サイトは、すでに身近なサービスとなっている。しかし、IT技術の活用は特定の業務領域にとどまり、不動産業全体に浸透したと言える状況ではない。不動産業でIT化が遅れている理由としては、不動産がIT化しにくい商品であることや、不動産業が他の業界と比較して保守的であることが指摘されている。

不動産テックの機運がさらに高まり、不動産業に変革をもたらすのだろうか?

昨今のIT技術の進歩には目を見張るものがある。先進的なIT技術を武器に、新興企業が中心となって、幅広い業務領域で革新的な不動産サービスがリリースされ始めている。しかし、どこまで普及するかは、現段階では未知数である。

日本の不動産業の課題として、IT化の遅れは長年指摘されてきた。不動産テックによりIT化が進めば、情報の非対称性や取引の煩雑さなど、不動産業の課題が解決される可能性もある。また世界と比較しても低いとされる、日本の不動産業の労働生産性が向上していくとの期待も大きい1
 
1 厚生労働省(2015)「平成27年版 労働経済の分析」によれば、2000年代の日本のIT資本投入は米国の10%程度の水準である。また日本の不動産業の労働生産性は米国の40%程度である。
2不動産テックの類型
不動産テックにおける主要な不動産サービスは、以下4つに分類できる。
 
  1. マッチング
    取引相手の情報などを収集・提供するなどして、買い手や売り手などを結びつける機会を創出するサービスである。「SUUMO」や「HOME'S」、「at home」などの不動産情報サイトはここに分類できる。最近の不動産テックでは、不動産の売買・賃貸のみならず、リフォームやリノベーションなど不動産に関する幅広い分野のマッチング・プラットフォームが誕生している。また米TenSource社は、オフィス・商業ビルのオーナーが入居テナントを探すことのできるサービスを提供している。これまで一般的だったテナントが仲介会社を通してビルを探していたプロセスを逆転させる面白いサービスと言える。また仲介会社を介さずに直接取引できるP2P(Peer to Peer)のマッチング・プラットフォームの検討も進んでいる。
     
  2. 不動産情報提供
    不動産情報を収集・加工・分析し、提供するサービスである。特に不動産テックでは、AIやビックデータを活用して不動産価格を推計することで、情報の非対称性を改善しようというサービスが多い。米Zillow社は世界的な不動産テックの先駆者とされるが、同社の「Zestimate」は、不動産登記情報や統計データを元に不動産価格を推計するサービスである。また日本でも、マンション価格を推計するマンションマーケット社の「マンションマーケット」や投資用不動産価格を推計するリーウェイズ社の「Gate.」などのサービスがある。
     
  3. 小口化
    権利や資金などの形や大きさを変えることで、新たな流動性を創出するサービスである。不動産のシェアリングサービスやクラウドファンディングなどがこの分類にあたる。例えば民泊サービス大手である米Airbnb社(エアビーアンドビー)は、1ヶ月単位の契約が一般的だった賃貸借契約を1日単位に小口化することで、持ち家や賃貸住宅を宿泊施設に変えた。またクラウドファンディング大手の米Fundrise社は、不動産の資金調達を小口化することで、少額資金からの不動産投資を可能にした。2001年の米国同時多発テロで倒壊した世界貿易センターの再建プロジェクトにおいて、同社のクラウドファンディングを通じて一部の資金を調達したことで話題となった。日本の例を挙げると、不動産のシェアリングサービスであるスペースマーケット社の「スペースマーケット」や駐車場シェアリングサービスであるakippa社の「akippa」、クラウドファンディングを提供するロードスターキャピタル社の「OwnersBook」などがある。
     
  4. 業務効率化
    IT技術を活用することで、不動産会社の業務を効率化するものである。米View The Space社の賃貸仲介やアセットマネジメント向けの業務を支援するクラウドサービスは、不動産ポートフォリオの状況をリアルタイムでモニタリングしたり、パフォーマンスレポートを作成するなど幅広い業務を自動化・効率化できる。日本では、物件確認の自動応答サービスであるイタンジ社の「ぶっかくん」や、VRを活用して現地に赴くことなく物件を内見できるナーブ社の「VR内見」などがある。
 
以上のように、日本における不動産テックで注目を集めているのは、今のところマッチングや不動産情報提供に関連したサービスである。また活用されているIT技術も、AI(人工知能)、ビッグデータ、VR(仮想現実)、スマートフォンなどが多い。しかし今後、不動産テックにおいて注目されるのは、ブロックチェーンという技術の活用である。不動産業の労働生産性を大幅に向上させる可能性を秘めているからだ。

2――ブロックチェーンの不動産への応用

1ブロックチェーンとは
ブロックチェーンとは、資産や権利などの情報を、インターネット等を通じて複数の参加者で共有しながら、記録・保管する技術である。これまで重要な情報は、特定の管理者が巨額のコストをかけたデータサーバーなどで集中管理することで、正確性や安全性を担保してきた。しかし、ブロックチェーンでは、管理者がなくても、正確性や安全性の確保が可能となる。これがブロックチェーンの画期的な点である。というのも、特定の管理者が特定の場所で保管することで情報の信頼性を担保するという構造は、情報を紙で管理していた時代から、電子化された現代においても、変わっていなかったからだ。そのため、ブロックチェーンは、パソコンやインターネットに匹敵する技術革新だとの声もある2

ブロックチェーンを活用することで、セキュリティが高く、ダウンすることのないシステムを低コストで実現することが可能だと言われる。現在は管理者が巨大なデータサーバーに保管し、何重もの対策を施すことで、システムの安全性や安定稼動を保証しているが、ブロックチェーンではこれらが不要となる。複数の参加者がデータを共有しているため、1ヶ所が止まってもシステムを稼動し続けることが可能だ。また、参加者間でデータが共有されることで、複雑な事務プロセスを簡素化することができ、事務コストを削減できるメリットもある。システムコストよりも事務コストの削減効果が大きいとの見方もある。

また、ブロックチェーンはコストを削減するだけでなく、今後の産業構造を変える可能性があるとも言われる。ブロックチェーンと親和性が高いとされる分野は多岐にわたるが、経済産業省の報告3では有望な分野として以下の例を挙げている。
 
  1. 価値の流通・ポイント化プラットフォームのインフラ化(地域通貨、電子クーポン、ポイントサービス)
  2. 権利証明行為の非中央集権化の実現(不動産登記、電子カルテ、各種登録)
  3. 遊休資産ゼロ・高効率シェアリングの実現(デジタルコンテンツ、チケットサービス、C2Cオークション)
  4. オープン・高効率・高信頼なサプライチェーンの実現(小売り、貴金属管理、美術品等真贋認証)
  5. プロセス・取引の全自動化・高効率化の実現(遺言、IoT、電力サービス)
 
2 ネットスケープ社を創業したマーク・アンドリーセン氏は、2014 年時点のブロックチェーンを「1975 年のパーソナル・
コンピュータ、1993 年のインターネットに匹敵する技術」と述べている(New York Times 紙、2014 年 1 月 21 日)。
3 経済産業省(2016/4/28)「平成27年度 我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(ブロックチェーン技術を利⽤したサービスに関する国内外動向調査)報告書」

(2017年06月08日「研究員の眼」)

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金融研究部   主任研究員

佐久間 誠 (さくま まこと)

研究・専門分野
不動産市場、金融市場、不動産テック

経歴
  • 【職歴】  2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行)  2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX)  2015年9月 ニッセイ基礎研究所  2019年1月 ラサール不動産投資顧問  2020年5月 ニッセイ基礎研究所  2022年7月より現職 【加入団体等】  ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター  ・日本証券アナリスト協会検定会員

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