2020年06月15日

「大阪・名古屋オフィス市場」の現況と見通し~新型コロナウィルスの感染拡大を踏まえて見通しを改定

金融研究部 主任研究員   吉田 資

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1. はじめに

大阪と名古屋のオフィス市場では、まとまった空室を確保することが困難な状況が続いている。逼迫した需給環境を反映し、公表されている統計数値等を見る限り、募集賃料は上昇傾向で推移している。一方、新型コロナウィルスの感染拡大に伴う外出自粛要請並びに緊急事態宣言の発令は、民間消費や建設投資、設備投資など経済活動に対して広範囲にわたって甚大な影響をもたらしている。本稿では、大阪と名古屋のオフィスの現況を概観した上で、新型コロナウィルスの感染拡大がオフィス市況に及ぼす影響を踏まえて、2024年までの賃料と空室率の見通し1を改定する。
 
1 吉田資「「大阪オフィス市場」の現況と見通し(2020年)」(ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2020年3月23日)、
「名古屋オフィス市場」の現況と見通し(2020年)」(ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2020年4月3日)
 

2. オフィス市場の現況

2. オフィス市場の現況

2-1. 大阪オフィス市場の現況
三幸エステートによると、大阪市の空室率(全体)は2014年以降、低下傾向で推移しており、2020年5月時点で2.6%となった。大阪のオフィス市場では、まとまった空室を確保することが困難な状況が続いている。空室率を規模別にみると、全ての規模1で低下傾向が継続している。特に、大規模ビルの空室率は、2016年以降急速に改善が進んでおり、1.4%まで低下した(図表-1)。募集賃料は、需給の逼迫を受けて、上昇傾向で推移しており、2020年5月時点で11,500円/月・坪となった(図表-2)。現状、空室率と募集賃料に新型コロナウィルス感染拡大の影響はみられないが、拡張移転や増床の計画を一旦見直すテナントが増えている模様だ。
図表-1 大阪オフィスの規模別空室率/図表-2 大阪オフィスの募集賃料と空室率
 
1 三幸エステートの定義による。大規模ビルは基準階面積200坪以上、大型は同100~200坪未満、中型は同50~100坪未満、小型は同20~50坪未満。
2-2. 名古屋オフィス市場の現況
名古屋市の空室率(全体)は2010年をピークに低下傾向で推移しており、2020年5月時点で2.7%まで低下した。空室率を規模別にみると、全ての規模で低下基調が続いている。特に、大規模ビルの需要は一段と強く、空室率は1.2%まで低下した(図表-3)。募集賃料も上昇傾向で推移しており、2020年5月時点で10,900円/月・坪となった(図表-4)。名古屋オフィス市場でも、空室率と募集賃料に新型コロナウィルス感染拡大の影響は今のところみられないが、足元では、テナントが賃料の一時的な減額や猶予を依頼する事例が出ている模様である。
図表-3 名古屋オフィスの規模別空室率/図表-4 名古屋オフィスの募集賃料と空室率

3. 新型コロナウィルスの感染拡大がオフィス需要に及ぼす影響

3. 新型コロナウィルスの感染拡大がオフィス需要に及ぼす影響

大阪と名古屋のオフィス市場では旺盛な需要が新規供給を上回り、空室率は低下傾向で推移してきた。こうしたオフィス需要を牽引する要因として、(1)就業者数の増加、(2)働き方改革を背景としたオフィス環境の改善に対する意識の高まり、(3)大型イベント開催およびインフラ整備の経済波及効果への期待、等が挙げられる。以下では、新型コロナウィルス感染拡大がこれらの要因にどのような影響を及ぼすのか、考察したい。
(1)就業者数の増加
大阪府の就業者数は、2015年以降増加傾向で推移しており、2019年には471.4万人(対前年+15.7万人・+3.6%)となった(図表-5)。また、愛知県の就業者数も2016年以降増加傾向で推移している。2018年には400万人を超え、2019年の就業者は419.1万人(対前年+11万人・+2.7%)に達した(図表-6)。こうした就業者数の増加がオフィス需要を下支えしてきた。
図表-5 大阪府の就業者数/図表-6 愛知県の就業者数
しかし、新型コロナウィルス感染拡大の影響を受けて、雇用環境は悪化している。厚生労働省「職業安定業務統計」によれば、2020年4月の大阪府の有効求人倍率は、4か月連続で悪化して1.25(前年同期比▲0.30)となった(図表-7)。また、愛知県の有効求人倍率は12カ月連続で悪化して1.35(前年同期比▲0.53)となった。愛知県は41年連続で工業製品出荷額が全国トップであり、雇用環境は、自動車産業をはじめとする製造業の景況感に左右される。2020年第1四半期の業況判断DI(自動車)は▲6となり、14四半期ぶりにマイナスに転じた。自動車産業は、米中貿易摩擦や中国景気減速の長期化に、新型コロナウィルス感染拡大の影響が加わったことで、生産活動は広範囲にわたって停滞しており、今後も、雇用環境の悪化は避けられない見通しである。一般財団法人アジア太平洋研究所「関西経済の現況と予測」によれば、関西の就業者は1033.5万人(2019年度)から1026.8万人(2021年度)へと減少し、失業率は2.6%(2019年度)から4.0%(2021年度)へ上昇すると予測されている。また、公益財団法人中部圏社会経済研究所「新型コロナウィルス感染症が全国・中部圏の産業別の雇用に与える影響について」によれば、愛知県の就業者数は▲18.2万人(2019年比▲4.4%)減少すると予測されている(図表-8)。就業者の減少数を産業別にみると、「製造業」が▲5.4万人と最も多く、次いで「卸売・小売業」▲4.8万人、「宿泊・飲食・サービス業」▲3.2万人となる見通しである。

したがって、これまでオフィス需要を支えてきたオフィスワーカー数は減少に向かう可能性が高いと考えられる。
図表-7 有効求人倍率
図表-8 新型コロナウィルス感染症が雇用に与える影響産業別就業者の減少数と減少率(愛知県)
(2) 働き方改革を背景としたオフィス環境の改善に対する意識の高まり
1) オフィス環境改善の取り組み
2016年より始まった「働き方改革」に多くの企業が積極的に取り組んでいる。デロイトトーマツ「働き方改革の実態調査」によれば、「働き方改革を推進中」もしくは「実施した」を回答した企業の割合は、約9割に達した。「働き方改革」の一環でオフィス環境の整備に取り組む企業は多い。従業員満足度の向上、人材採用時の優位性確保などを目的に、リフレッシュルームなどの共用部や充実した打ち合わせスペースを備えるオフィスへの移転を検討する企業は増えていた。

財務省財務総合政策研究所「法人企業景気予測調査」によれば、企業の景況感が前期と比較して「上昇」と回答した割合から「下降」の割合を引いた「企業の景況判断BSI」(2020年第1四半期時点)は、大阪府で▲19.4、愛知県で▲19.9となり、景況感が急速に悪化している(図表-9)。
図表-9 企業の景況判断BSI
また、賃料の支払いが大きな負担となっている事業者が増えている模様だ。大阪府商工労働部・政策企画部「新型コロナウィルス感染症による経済等への影響調査」によれば、「最も負担の大きな経営課題」として、「人件費の支払い」(33%)との回答が最も多く、次いで「賃料の固定費の支払い」(17%)との回答が多かった(図表-10)。

前回の世界金融危機時には、景況感が大きく後退した後に企業業績が低迷し、オフィス市況も悪化に向かった。足元では、新型コロナ感染拡大を受けて企業の事業環境が悪化しており、先行き不透明感が強まっている。今後、売上が伸び悩み、収益が厳しくなることが予想される中、お金をかけてまでオフィス環境を改善しようとする動きはひとまず鈍化する可能性が高い。
 
図表-10 最も負担の大きい経営課題
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

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