2020年06月08日

2020・2021年度経済見通し-20年1-3月期GDP2次速報後改定

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1.2020年1-3月期の実質GDPは前期比年率▲2.2%へ上方修正

6/8に内閣府が公表した2020年1-3月期の実質GDP(2次速報値)は前期比▲0.6%(年率▲2.2%)となり、1次速報の前期比▲0.9%(年率▲3.4%)から上方修正された。1-3月期の法人企業統計の結果が反映されたことにより、設備投資が前期比▲0.5%から同1.9%へと大幅に上方修正されたことがその主因である。その他の需要項目では、住宅投資(前期比▲4.5%→同▲4.2%)が上方修正される一方、民間消費(前期比▲0.7%→同▲0.8%)、民間在庫変動(前期比・寄与度▲0.0%→同▲0.1%)、公的固定資本形成(前期比▲0.4%→同▲0.6%)は下方修正された。

2020年1-3月期の成長率のマイナス幅は2019年10-12月期の前期比年率▲7.2%から縮小したが、消費税率引き上げの影響で大きく落ち込んだ後であることを踏まえれば、経済の実態は見た目以上に厳しい。
(緊急事態宣言後の経済動向)
日本経済は、消費税率引き上げ後の落ち込みから徐々に持ち直しつつあったが、新型コロナウィルスの感染拡大を受けた2/26の安倍首相による自粛要請の影響で3月に大きく落ち込んだ後、4/7の緊急事態宣言発令により、4月にはそのペースが大きく加速した。

景気との連動性が高い鉱工業生産指数は、3月の前月比▲3.7%の後、4月は同▲9.1%の急低下となった。生産指数の単月の落ち込み幅は東日本大震災時(2011年3月)の前月比▲16.5%よりは小さかったが、リーマン・ショック後の前月比▲8.9%(2009年1月)を上回った。4月の生産指数は87.1(2015年=100)となり、東日本大震災が発生した2011年3月(87.3)を下回る低水準となった。特に、輸出の落ち込みやサプライチェーン障害の影響で工場の操業停止を余儀なくされた自動車は前月比▲33.3%の大幅減産となった。

また、外出自粛の影響で3月の時点で大幅減少となっていた外食、旅行関連指標は4月には減少幅が急拡大した(外食産業売上高~3月:前年比▲17.3%→4月:同▲39.6%、延べ宿泊者数~3月:前年比▲48.9%→4月:同▲76.8%)。
外食産業売上高の推移/延べ宿泊者数の推移
5/6までとされていた緊急事態宣言の期間が延長されたことにより、5月の経済活動も極めて低い水準にとどまったとみられる。すでに公表されている5月の経済指標を確認すると、自動車販売台数(含む軽乗用車)が4月の前年比▲30.4%から同▲46.7%へと減少幅が大きく拡大したほか、多くの店舗で臨時休業が続いた百貨店の売上高は4月の前年比▲72.8%(店舗調整後)に続き、5月も同▲70%前後の減少になったとみられる(5月は主要各社の速報値をもとにした当研究所の見込値)。また、5月上中旬の貿易統計の輸出額は4月の前年比▲21.9%から同▲26.2%へと減少幅が拡大した。

緊急事態宣言は5/25に解除されたため、経済活動の水準は4、5月が底となり、6月以降は徐々に上向くことが見込まれる。5月のマインド関連指標を確認すると、消費動向調査の消費者態度指数(4月:21.6→5月:24.0)、景気ウォッチャー調査の現状判断DI(4月:7.9→5月:15.5)は低水準ながらも過去最低となった4月から上向いており、実体経済の底打ちを示唆するものとなっている。
2020年4、5月の経済活動は極めて低い水準に/マインド関連指標は景気底打ちを示唆
(経済活動停止の影響が労働市場に波及)
経済活動停止の影響はこれまで改善傾向が続いていた労働市場にも波及し始めている。2020年4月の失業率は2.6%と前月から0.1ポイントの上昇にとどまったが、非労働力化の進展が失業率の上昇を抑えており、内容は非常に悪い。4月の就業者数は前年差▲80万人と7年4ヵ月ぶりの減少となる一方で、失業者数は前年差13万人の増加にとどまった。これは非労働力人口が前年差58万人の増加となったためであるが、この中には職を失った後に求職活動を行わなかったために非労働力人口となった者が多く含まれていると考えられる(いわゆるディスカレッジドワーカー)。
非労働力化の進展が失業者の増加を抑制/就業者数増減の内訳
さらに、就業者のうち調査期間中に仕事をした「従業者」 が、2020年3月に前年差▲18万人と4年4ヵ月ぶりの減少となった後、4月には同▲498万人と減少幅が大きく拡大する一方、調査週間中に仕事をしなかった「休業者」1が597万人、前年差420万人の急増となった。

休業者の内訳を雇用形態別にみると、3月はパート・アルバイト、派遣社員、契約社員などの非正規の休業者が大幅に増加していたが、4月は正規、非正規ともに休業者が急増した(正規:前年差113万人、非正規:同240万人)。産業別の休業率(休業者/就業者)を確認すると、新型コロナウィルス感染拡大に伴う外出自粛、休業要請を受けて、宿泊業(2019年4月:2.9%→2020年4月:31.3%)、飲食業(2019年4月:2.4%→2020年4月:29.6%)、娯楽業(2019年4月:1.3%→2020年4月:39.7%)の急上昇が目立っている。

休業理由には、「勤め先や事業の都合(景気が悪かったため等)」と「自分や家族の都合(出産・育児、介護・看護のため等)」があるが、足もとの増加は「勤め先や事業の都合を理由とした休業者」によるところが大きいと考えられる2。休業者は就業者としてカウントされるが、景気悪化を理由とした休業者のかなりの部分は失業者として顕在化する可能性が高い。

雇用調整助成金の拡充や中小・小規模事業者等に対する支援金(持続化給付金)などが、倒産、失業をある程度抑制する効果はあるものの、経済活動の落ち込みがあまりに大きいため、今後失業率が大幅に上昇することは避けられないだろう。失業率は2020年1-3月期の2.4%から2020年10-12月期には4.1%まで上昇し、失業者数は2020年1-3月期の167万人(季節調整値)から2020年10-12月期には285万人へと100万人以上増加すると予想する。
主な産業別休業率/失業率と失業者数の見通し
 
1 仕事を持ちながら,調査週間中に少しも仕事をしなかった者のうち、雇用者で給料・賃金の支払を受けている者又は受けることになっている者、自営業主で自分の経営する事業を持ったままで,その仕事を休み始めてから30日にならない者
2 休業理由別の休業者数は四半期の詳細集計で公表される
2020年度第2次補正予算の概要 (第2次補正予算案は企業支援に重点)
政府は5/27、事業規模117.1兆円の2020年度第2次補正予算案を閣議決定した。事業規模は第1次補正予算と同額だが、一般会計の歳出額は31.9兆円と第1次補正の25.6兆円を上回った。第1次補正と同様に、家計、企業の支援策が中心となっているが、第1次補正予算では、「全国全ての人々への新たな給付金(12.9兆円)」など、家計支援に重点が置かれていたのに対し、第2次補正予算案では、中小・小規模事業者向けの融資、中堅・大企業向けの融資、資本性資金の活用を含む「資金繰り対応の強化(11.6兆円)」、「家賃支援給付金の創設(2.0兆円)」など、企業支援により重点が置かれている。

予備費が10兆円と巨額となっていることも特徴だ。政府は、このうちの5兆円の使途を、(1)雇用調整助成金など雇用維持や生活支援(1兆円程度)、(2)中小企業・個人事業主に対する給付金やテナント賃料の補助など事業継続(2兆円程度)、(3)地方向けの医療・介護の交付金など医療体制強化(2兆円程度)としている。

第1次補正予算、第2次補正予算案ともに、新型コロナウィルス感染拡大とそれに伴う自粛要請、緊急事態宣言によって大きな被害を受けた家計、企業を救済する側面が強いため、経済対策による需要押し上げ効果は限定的と考えられる。
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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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