2020年06月01日

法人企業統計20年1-3月期-設備投資が予想外の増加も、4-6月期は利益、設備ともに大幅減少が不可避

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1.4四半期連続の減益

経常利益の推移 財務省が6月1日に公表した法人企業統計によると、20年1-3月期の全産業(金融業、保険業を除く、以下同じ)の経常利益は前年比▲32.0%と4四半期連続で減少し、減少幅は10-12月期の同▲4.6%から急拡大した。非製造業は前年比▲32.9%(10-12月期:同1.1%)と3四半期ぶりの減少、製造業は前年比▲29.5%(10-12月期:同▲15.0%)と7四半期連続で減少し、4四半期連続で前年比二桁の大幅減益となった。
売上高経常利益率の要因分解(製造業)/売上高経常利益率の要因分解(非製造業)
製造業は、売上高が前年比2.9%(10-12月期:同▲6.7%)と4四半期ぶりに増加したが、売上高経常利益率が19年1-3月期の6.0%から4.1%へと大幅に悪化したことが収益の押し下げ要因となった。売上高経常利益率を要因分解すると、人件費、金融費用、減価償却費、変動費がいずれも利益率の悪化要因となった。

非製造業は、消費税率引き上げ後の国内需要の低迷に外出自粛の影響が加わったことから、売上高が前年比▲5.9%(10-12月期:同▲6.3%)と3四半期連続で減少したことに加え、売上高経常利益率が19年1-3月期の6.0%から4.3%へと悪化した。

2.新型コロナウィルスの影響で、企業収益の一段の悪化は避けられず

経常利益の内訳を業種別に見ると、ほとんどの業種が減益となったが、新型コロナウィルスの影響を強く受けた宿泊業(▲1,859億円)、飲食サービス業(▲799億円)は赤字に転落した。

季節調整済の経常利益は前期比▲11.6%(10-12月期:同▲7.9%)と4四半期連続で減少し、減少幅が拡大した。製造業が前期比▲11.5%(10-12月期:同▲11.3%)、非製造業は前期比▲11.6%(10-12月期:同▲6.3%)といずれも前期比で二桁の減少となった。
経常利益(季節調整値)の推移 経常利益(季節調整値)は16.1兆円となり、過去最高となった18年4-6月期の23.8兆円と比べると3割以上低い水準となった。特に製造業の経常利益はピーク時(18年4-6月期)からほぼ半分(52.3%)の水準まで落ち込んだ。

企業収益は消費税率引き上げの影響が残る中、19年度末にかけて新型コロナウィルス感染拡大の影響が加わったことで、大きく落ち込んだ。20年4-6月期は緊急事態宣言の発令に伴い国内の経済活動が停止したことに加え、海外の都市封鎖の影響で輸出も急速に落ち込むことから、製造業、非製造業ともに収益の悪化ペースは一段と加速することが予想される。

3.先行きの設備投資は大幅な減少が不可避

設備投資(ソフトウェアを含む)は前年比4.3%(10-12月期:同▲3.5%)と2四半期ぶりに増加した。製造業(10-12月期:前年比▲9.0%→1-3月期:同0.6%)、非製造業(10-12月期:同▲0.1%→1-3月期:同6.2%)ともに増加に転じた。
設備投資(ソフトウェアを含む)の推移 企業収益が大きく悪化している中でも、人手不足対応の省力化投資、都市再開発やインバウンド関連の建設投資、研究開発投資を中心に設備投資は底堅く推移している。ただし、設備投資は企業収益に遅れて動く傾向があるため、先行きについては大幅に減少することが避けられないだろう。

なお、緊急事態宣言の発令により、20年1-3月期の調査票の回収率が低下(19年10-12月期:72.5%→20年1-3月期:61.4%)したことを受けて、財務省では本日の結果を「速報値」として公表するとともに、調査票の回答期限を2ヵ月程度延長して、引き続き調査票の回収を行い、それらを踏まえた集計結果を、概ね2ヵ月後に「確報値」として公表することを発表した。

調査票の提出が遅れている企業には、期限内に提出した企業よりも新型コロナウィルスの影響を強く受けている企業が多く含まれていることが考えられる。このため、確報値で利益、設備ともに下方修正される可能性がある。

4.1-3月期・GDP2次速報は上方修正を予想

本日の法人企業統計の結果等を受けて、6/8公表予定の20年1-3月期GDP2次速報では、実質GDPが前期比▲0.5%(前期比年率▲2.0%)になり、1次速報の前期比▲0.9%(前期比年率▲3.4%)から上方修正されると予測する。
2020年1-3月期GDP2次速報の予測 設備投資は前期比▲0.5%から同1.2%へと上方修正されるだろう。設備投資の需要側推計に用いられる法人企業統計の設備投資(ソフトウェアを除く)は前年比3.5%(10-12月期:同▲5.0%)と2四半期ぶりに増加した。法人企業統計ではサンプル替えや四半期毎の回答企業の差によって断層が生じるが、当研究所でこの影響を調整したところ前年比で3%弱の増加となった。また、金融保険業の設備投資(ソフトウェアを除く)は前年比5.6%(10-12月期:同6.3%)と2四半期連続で増加した。本日の法人企業統計の結果は設備投資の上方修正要因と考えられる。

また、民間在庫変動は1次速報で仮置きとなっていた原材料在庫、仕掛品在庫に法人企業統計の結果が反映され、1次速報の前期比・寄与度▲0.0%から同0.0%へと上方修正されるだろう。

その他の需要項目では、民間消費は3月のサービス産業動向調査の結果などが反映され、前期比▲0.7%から同▲0.6%へ、公的固定資本形成は3月の建設総合統計の結果が反映され、前期比▲0.4%から同▲0.3%へ若干上方修正されると予想する。
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2020年06月01日「経済・金融フラッシュ」)

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