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新型コロナを機に米国も有給病気休暇の付与を義務化か―感染拡大で俄かに脚光

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩
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3――新型コロナと有給病気休暇

一方、休職者の大幅な増加がみられる中、有給病気休暇が付与されていない労働者では、休職中の収入が絶たれ、生活が破綻するリスクが高まる。
また、前述のように新型コロナ感染者が無収入や失職リスクを恐れて罹患を隠して出勤する場合には新型コロナウイルスの感染リスクが高まる。有給休暇が付与されていない飲食・宿泊業や小売業などの接客業ではとくに顧客などを通じた感染リスクが高まるだろう。
3月18日に新型コロナ対策の第2弾として議会が超党派で成立させた「家族第一コロナウイルス対策法」(Families First Coronavirus Response Act、FFCRA)では、従業員500人未満6の企業を対象に20年12月までの時限立法として、有給病気休暇を付与するための緊急家族医療休暇拡大法(The Emergency Family and Medical Leave Expansion Act、EFMLEA)と、緊急有給病気休暇法(The Emergency Paid Sick Leave Act、EPSLA)を盛り込んだ。
EFMLEAは、従前のFMLAを改訂し新型コロナが原因の学校閉鎖によって18歳未満の子供の世話をしなければいけない従業員に対して、雇用主に最長12週間の有給休暇付与を義務付ける。その際、最初の2週間はEPSLAに基づく有給休暇7が適用され、その後2週間を超える休暇について通常の給与の3分の28を支払うことが義務づけられた。
また、EPSLAでは以下の6条件を満たす場合に従業員に対して2週間程度(80時間)の有給病気休暇の付与を義務付けた。6条件は、(1)新型コロナに関連する連邦、州、または自治体の検疫または隔離命令の対象となっている、(2)新型コロナに関する懸念のため、医療機関より自主隔離をするように助言されている、(3)新型コロナの症状があり、医療機関による診察を求めている、(4)従業員が、(1)や、(2)に該当する個人を介護している、(5)新型コロナにより、子供の学校または子育て支援施設が閉鎖された場合、または子供の保育提供者がケアできない場合、(6)財務長官および労働長官の協議の上で、保健福祉長官によって指定された諸症状がある場合、である。
一方、有給病気休暇取得時の給与支払い額は前記の条件によって異なり、(1)から(3)に該当する場合に1日当たり通常レート給与の8時間分(上限は511ドル)を満額、(4)から(6)に該当する場合に1日当たり3分の2の給与を支給することが義務付けられる。
なお、FFCRA施行前にビジネスが停止していた場合や、FFCRA施行後に解雇した従業員には有給休暇は付与されず、失業保険で補償する建付けになっている。
一方、雇用主による給与の財源は、FFCRAに基づいて従業員に支給した給与の100%分が雇用者負担の連邦社会保障税から四半期ごとに税額控除される仕組みとなっている。
6 従業員50人未満の企業で休業要件が継続企業としての事業の存続を危うく場合には有給病気付与の義務から免除され
7 通常レート給与の8時間分(一日の上限は511ドル、通期の上限は5,110ドル)を支給。
8 1日の上限は200ドル、通期の上限は10,000ドル。
4――FFCRAを契機に有給休暇付与義務の拡大を
一方、これまでの実証研究では州政府などが有給休暇の付与を義務付けることによって民間企業の有給病気休暇付与率は13%ポイント近く引き上げられることが示されている。
新型コロナの感染が拡大し、新型コロナ関連の休職者が急増する中で施行されたFFCRAは、新型コロナ関連に限定されているほか、時限措置となっているものの、連邦レベルで有給病気休暇の付与義務化を推進する上で大きな前進である。
新型コロナの感染が今後どのように進展するか不透明だが、生活保障と感染予防の観点からFFCRAが定める有給病気休暇の付与義務がどのような効果があったかを検証した上で、今後の新しい感染症リスクに備える観点からも、連邦レベルで有給病気休暇付与の義務化が規定されることを期待したい。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2020年06月04日「基礎研レポート」)

03-3512-1824
- 【職歴】
1991年 日本生命保険相互会社入社
1999年 NLI International Inc.(米国)
2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
2014年10月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
窪谷 浩のレポート
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