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「東京都心部Aクラスビル市場」の現況と見通し~新型コロナウィルスの感染拡大を踏まえて見通しを改定

金融研究部 主任研究員 吉田 資
1. はじめに
1 本稿ではAクラスビルとして三幸エステートの定義を用いる。三幸エステートでは、エリア(都心5区主要オフィス地区とその他オフィス集積地域)から延床面積(1万坪以上)、基準階床面積(300坪以上)、築年数(15年以内)および設備などのガイドラインを満たすビルからAクラスビルを選定している。また、基準階床面積が200坪以上でAクラスビル以外のビルなどからガイドラインに従いBクラスビルを、同100坪以上200坪未満のビルからCクラスビルを設定している詳細は三幸エステート「オフィスレントデータ2020」を参照のこと。なお、オフィスレント・インデックスは月坪当りの共益費を除く成約賃料。
2. 東京オフィス市場の現況
3. 新型コロナウィルスの感染拡大がオフィス需要に及ぼす影響
2 吉田資「「東京都心部Aクラスビル市場」の現況と見通し(2020年)」(2020.2.17)
これまでは「情報通信業」や「学術研究,専門・技術サービス業」(プロフェッショナルサービス)を中心としたオフィスワーカー数の増加が、オフィス需要の拡大を支えてきた。
財務省財務総合政策研究所「法人企業景気予測調査」によれば、従業員数が「不足気味」と回答した割合から「過剰気味」の割合を引いた「従業員数判断BSI」(全産業)は、2020年第1四半期で+21.9となった(図表-4)。これは、リーマンショック前の2007年までの景気回復期を上回る水準であり、足もとでも人手不足感が強い状況に変わりはなかった。業種別にみると、「製造業」の「従業員数判断BSI」は+11.0(前期比▲1.5)とやや低下した一方で、オフィスワーカーの比率が高い「非製造業」は+27.2(前期比+1.5)と上昇していた。
また、内閣府「労働力調査」によれば、2020 年3 月の失業率は2.5%と前月から▲0.1%の悪化にとどまった。ただし、就業者数の増加ペースは大きく鈍化し、調査期間中に仕事をした「従業者」に限れば、2020 年3 月は前年比▲18 万人と2015 年11 月以来、4 年4 カ月ぶりに減少した。しかし、今後は、経済の急激な落ち込みによって雇用状況の悪化は避けられない見通しである。ニッセイ基礎研究所3では、失業率は2020 年10-12 月期に4.1%へと上昇し、失業者数(季節調整値)は285 万人へと現時点から100 万人以上増加すると予想する。したがって、これまでオフィス需要を支えてきたオフィスワーカー数は減少に向かう可能性がかなり高いと思われる。
3 斎藤太郎「2020・2021 年度経済見通し(20 年5 月)」(2020.5.19)
1) オフィス環境改善の取り組み
2016年より始まった「働き方改革」に多くの企業が積極的に取り組んでいる。デロイトトーマツ「働き方改革の実態調査」によれば、「働き方改革を推進中」もしくは「実施した」を回答した企業の割合は、約9割に達した。「働き方改革」の一環でオフィス環境の整備に取り組む企業は多い。従業員満足度の向上、人材採用時の優位性確保などを目的に、リフレッシュルームなどの共用部や充実した打ち合わせスペースを備えるオフィスへの移転を検討する企業は増えていた。
財務省財務総合政策研究所「法人企業景気予測調査」によれば、企業の景況感が前期と比較して「上昇」と回答した割合から「下降」の割合を引いた「国内の景況判断BSI」は、2020年第1四半期時点で▲20.9(前期比▲6.3)となり、景況感が急速に悪化している。一方、設備投資が「不足」と回答した割合から「過大」の割合を引いた「設備投資BSI」は、2020年第1四半期時点で+0.9(前期比▲1.0)となり、大きな変化はみられない(図表-5)。
ただし、前回の世界金融危機時には、景況感が大きく後退した後に設備投資が縮小し、オフィス不動産市況も悪化に向かった。「国内の景況判断BSI」は2007年第4四半期(▲4.1)以降マイナスとなり、2009年第1四半期には▲74.6まで悪化した。「設備投資BSI」は2008年第4四半期(▲5.7)からマイナスとなり、翌2009年第1四半期に▲16.4とボトムを付けた。Aクラスビルの空室率も歩調をあわせて一段と上昇し、2009年第4四半期には7.4%まで上昇した。
足もとでは、新型コロナの感染拡大を受けて企業の事業環境が悪化しており、先行きの不透明感も強まっている。今後、設備投資の縮小とともに、お金をかけてまでオフィス環境を改善しようとする動きはひとまず鈍化する可能性が高い。三幸エステートによれば、新型コロナウィルスの感染拡大を受けて、オフィススペースの使用方法などを見直し、効率化によって床面積の縮小を図ることで賃料コストを削減したいと考えるテナントが増えてきている模様である。
米国労働省の運営する職業情報データベースである「O*NET」では、約900の職種について、必要とされるスキルや仕事内容、職場環境などの項目を「0~100」の数値で評価している。「図表-9」は「情報通信業」、「図表-10」は「学術研究,専門・技術サービス業」の主な職種における、コミュニケーションに関する5項目5の評価値を示している。
これによると、「情報通信業」では、総じて「外部の顧客への対応」が全業種平均を下回る一方で、「グループやチームでの仕事」が全業種平均を上回っている。また、「学術研究,専門・技術サービス業」では、「グループやチームでの仕事」は全業種平均を下回る一方で、「外部の顧客への対応」が全業種平均を上回る傾向がみられる(図表-10)。「情報通信業」や「学術研究,専門・技術サービス業」においても、何らしかのコミュニケーションが必要とされることから、多くの企業が「オフィス勤務」から「在宅勤務」へ直ちにシフトする蓋然性は低いのではないだろうか。しかし、「オフィス勤務」において、いわゆる「3密」の回避がこれまで以上に求められるなか、「在宅勤務」での円滑なコニュニケーションを確保できる体制が急速に整備される可能性もあり、スペースへのニーズが拡大するのか、縮小するのか、オフィス需要に与える影響を引き続き注視したい。
4 荻島 駿・権 赫旭『新型コロナウィルス以降の職種ごとの在宅勤務の持続可能性について』(独立行政法人経済産業研究所特別コラム、2020 年5 月)
5 (1)「他者とのコンタクト」、(2)「他者との調整または指導」、(3)「外部の顧客への対応」、(4)「対面デスカッション」、(5)「グループやチームでの仕事」の5項目
(2020年05月27日「不動産投資レポート」)
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- 【職歴】
2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
2018年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)
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