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新型コロナウィルスと各国経済-双子の赤字と財政ファイナンス

経済研究部 主任研究員 高山 武士
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当然ながら、危機時であっても政治・経済が安定した国においては、財政の持続可能性を超える規模で財政出動しない限りは、信用リスクは増加しないだろう。むしろ安全資産志向から、民間金融機関の国債保有需要は高まるといえる(例えば、前述図表1の多くの先進国が該当する)。危機時に民間部門で財政赤字を吸収しにくくなるケースは、そもそも政治・経済が不安定で、財政の持続性に懸念が持たれやすい国である。
今回のコロナショックは「一時的」で終わらない可能性があるため、その政策運営は非常に難しい。行動制限等を課すのであれば、経済成長を妨げないように財政・金融政策の援助を講じるのは当然だが、長期間にわたって行動制限を課し、財政出動を続けることは非現実的でもある。
一方で、行動制限を緩和したからといって、新型コロナウィルスと上手く共存する(あるいは封じ込める)方法を確立できていないと、感染拡大に伴う医療崩壊など社会的損失を被りかねない。結果として、経済・政治が不安定になる可能性もある。行動制限等、ウィルスの封じ込めに重点を置くにしても、経済活動の維持に重点をおくにしても「一時的」なショックで終わらない可能性がある。とりわけ医療基盤がぜい弱な新興国では、短期間で決着をつけることが困難となるだろう。
図表5には直近の新型コロナウィルス感染者数を載せている。先進国では、ここ1か月間の新規感染者(図表5の赤丸)が、2か月前から1か月間の新規感染者の増加(同青丸)を下回っている国が多く、収束に向かっていると言える。新興国では逆に最近1か月の感染者が増加しており、ブラジル、ロシア、インドなどでは、特に拡大が目立つ。こうしたなか、長期戦を強いられる国も出てくると見られる。
こうした状況下では、IMFの最貧国に対する無償資金援助や、無利子融資等の経済支援に代表されるような国際機関の援助が重要になる。コロナショックでは比較的大きな新興国への支援も必要になってくる可能性がある。リーダーシップ不在と言われる中ではあるが、経済・政治基盤の強い国は自国がコロナショックから脱することだけでなく、国際協力を通じて、世界全体としてコロナショックが克服できるよう、取り組んでいく必要があるだろう。
7 脚注1のレポートによると、新興国ではタイやギリシャ、先進国では香港、ポルトガル、シンガポール、ニュージーランドといった国が該当する。なお、ギリシャはIMF等の分類では先進国であるが、ここではMSCI ACWIの分類に従って新興国としている。
同レポートでは、外貨準備高や対外証券債務についても調査している。新興国については、現在、流動性の高い対外債務を多く抱える国は見られないこと(資金流出による金融危機が発生しにくくなっていること)を確認した。一方で、本稿で調査したように双子の赤字が大きくなると想定されるなかで、海外投資家による資金流入を維持し、政府や国の赤字をファイナンスし続けられるかは、各国の経済・政治の状況に依存する部分も大きいと言える。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2020年05月25日「基礎研レター」)

03-3512-1818
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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