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株式市場が急落する中で収益を獲得した投資戦略-2020年1-3月期の各種ヘッジファンド戦略のパフォーマンス
金融研究部 准主任研究員・ESG推進室兼任 原田 哲志
1――2020年1-3月期は幅広いヘッジファンド戦略のパフォーマンスがマイナスに
各戦略のリターンは、悪い順から、イベントドリブン戦略 ▲14.7%、ディストレスト戦略 ▲9.7%、株式ロングショート戦略 ▲8.8%、M&Aアービトラージ戦略 ▲6.8%、転換社債アービトラージ戦略 ▲5.3%、グローバルマクロ戦略 ▲4.2%、株式マーケットニュートラル戦略 ▲2.3%と幅広い戦略類型でマイナスとなった。一方で、ボラティリティトレーディング戦略 +10.2%、オプショントレーディング戦略 +2.8%、CTA戦略 +1.8%と一部の戦略はプラスの収益を獲得した。各戦略のパフォーマンスの背景についてみていきたい。
足元では、新型コロナウイルスの流行によりM&Aの延期・撤回が相次いでいる。図表2は世界のM&Aの件数・金額の推移を示している。これを見ると、世界のM&Aの件数は月2500件程度で推移していたが、2020年4月は1,499件に減少していることが分かる。また、取引金額は1,078億米ドルと大幅に落ち込んでいる。米事務機器大手ゼロックスによる米パソコン・プリンター大手HPの買収、米インターコンチネンタル取引所(ICE)による電子商取引(EC)大手イーベイ買収など、大型の企業買収案件が相次いで延期・撤回されている。
2020年1-3月の間に、こうした企業買収の延期・撤退が織り込まれるにつれて、被買収企業の株価は買収提示価格から乖離し下落した。こうした背景が、M&Aアービトラージ戦略やイベントドリブン戦略のパフォーマンス悪化につながった。
株式ロングショート戦略のリターンも ▲8.8%とマイナスであった。株式ロングショート戦略は、ロングポジションがショートポジションよりも多いロングバイアスの場合が多い。このため、株式が下落する局面では、株式よりは下落幅は小さいもののパフォーマンスが低下しやすい。2019年、株式上昇局面では株式ロングショート戦略は好調なパフォーマンスだった。しかし、2020年1-3月期、株式市場が大幅に下落する中ではパフォーマンスはマイナスとなった。
2――ボラティリティトレーディング戦略などが収益を獲得
図表4は、日経平均のプットオプション(2020年6月満期)の価格の推移を示している。これを見ると、株式市場の下落やボラティリティの上昇によって、特に行使価格の低いオプションの価格が大きく上昇していることが分かる。2020年1-3月期、日経平均のプットオプションのリターンは行使価格2万3000円で+458%、行使価格2万円で+982%、行使価格1万7000円で+1,506%となっている。
通常、対象とする指数の値よりも行使価格が大幅に低いプットオプションは、収益を獲得できる可能性が小さいため、非常に低い価格で取引される。しかし、対象指数が大幅に下落した場合、収益を獲得できる可能性が急速に高まり、オプションの価格は大幅に上昇する。
こうした戦略のヘッジファンドの中には、極めて大きな収益を獲得したファンドもある。Bloombergによれば、「ブラック・スワン」 1の著者であるNassim Nicholas Taleb氏が助言するUniversa Tail Fundは2020年3月に+3,612%という非常に高い収益を獲得した。
1 「ブラックスワン」は、人間の思考とリスク・不確実性の関係などについて論じている。2007年に原著刊行、150万部以上を売り上げ、経済・金融関係者などの話題となった。
ナシーム・ニコラス・タレブ(著)、望月衛(翻訳)(2009)、「ブラック・スワン―不確実性とリスクの本質」、ダイヤモンド社
3――まとめ
こうした戦略は、リスクオフ局面での収益獲得が期待される。このため、あまり多くない適正なウエイトでポートフォリオに組み入れることで、幅広い資産が下落する局面でのリスクヘッジ効果が得られ、短期的なパフォーマンスの安定化が期待できる。
金融市場が比較的安定している期間では、リスクヘッジの必要性を意識することは少ないかもしれない。しかし、経済・金融危機時には、リスクヘッジの有無によりパフォーマンスに大きな差が生じる可能性がある。こうした戦略を有効活用し、今回のような経済・金融危機によるパフォーマンスの悪化に備えることも将来に向けて重要ではないだろうか。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2020年05月22日「基礎研レター」)
03-3512-1860
- 【職歴】
2008年 大和証券SMBC(現大和証券)入社
大和証券投資信託委託株式会社、株式会社大和ファンド・コンサルティングを経て
2019年 ニッセイ基礎研究所(現職)
【加入団体等】
・公益社団法人 日本証券アナリスト協会 検定会員
・修士(工学)
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