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【アジア・新興国】韓国政府のポストコロナ対策、「国民皆雇用保険制度」は成功するだろうか?

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中
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韓国政府、ポストコロナ対策として「国民皆雇用保険制度」の導入に意欲
しかしながら、同日開催された国会の環境労働委員会では、特例条項として芸術人だけを雇用保険の適用対象に含まれることが決められた。その結果、2018年11月に発議された雇用保険法改正案に含まれていた運転代行業に従事する運転手や貨物自動車の運転手、保険外交員、放課後教室(日本の学童保育に当たる)の講師等いわゆる「特殊雇用職従事者」や、インターネットのプラットフォームを通じて単発の仕事を依頼したり請け負ったりする「ギグワーカー」は対象から外れ、次の国会での成立を待たなければならなくなった。
1 特殊雇用職従事者とは、日本の「一人親方」に類似した概念で、独立した個人事業者でとして分類される。発注者から業務の指示を受けているという点では労働者に近いが、個人事業者なので労働関連法や企業の福利厚生制度が適用されない。
個人事業者なのに個人事業者の自律性がなく、労働者なのに労働者の権利がないのが特殊雇用従事者であると言える(イチョンチョル(2019)『カデギ』ボリ出版社)。
雇用保険制度の被保険者は労働力人口の半分以下
自営業者は任意で雇用保険への加入が可能
しかしながら、このような助成制度が実施されているにもかかわらず、2020年3月現在の自営業者の雇用保険制度の加入者数は24,731人で自営業者の0.2%に留まっている。なぜ、自営業者は雇用保険制度に加入していないのだろうか?その理由としては、まずは保険料に対する負担が大きいことが考えられるが、それより大きな理由としては雇用保険制度に加入することにより所得と財産が漏出されることを嫌がっている点が挙げられる。つまり、所得や財産等が把握されると、雇用保険以外にも公的医療保険、国民年金、労災保険のような公的社会保険制度にも加入する義務が発生するからである。
多様な働き方に合わせた多様なセーフティーネットの実施を
雇用保険制度を含む社会保障制度の対象を拡大しようとする動きは、韓国だけではなく世界的に広がっている。短時間労働者、フリーランス、ギグワーカーのような、不安定労働が増えているからである。彼らに対するセーフティーネットを強化することは確かに重要であるものの、実施するまでに解決すべき課題は多い。まず、雇用者と同様に既存のセーフティーネットを自営業者やギグワーカーなどに適用するためには、彼らに対する所得捕捉率を高める必要がある。特に、ギグワーカーは一国に限らず多国に渡り働く可能性が高い。従って、今後ギグワーカーに対する対応は、一国だけではなく多国間で議論される必要性が高まる見込みが高い。また、自営業者やギグワーカー等は雇用者に比べて仕事の量を調整したり、仕事をするかしないかを決める自由度が高く、モラルハザードが発生する恐れがある。自営業者やギグワーカー等と雇用者を同じ雇用保険制度の中で扱うことにより起きるであろう問題と、その解決策に対する議論を十分に行うべきである。さらに、今後、労働市場における働き方がより多様化していくことを予想すると、既存のセーフティーネットのみならず新しいセーフティーネットの導入を講ずる等、多様な働き方に合わせた多様なセーフティーネットの実施を慎重に考える必要があるだろう2。
2 キムギチャン(2020)「3年間29万ウォン納めて、436万ウォンもらう…自営業者の雇用保険が大変な理由」中央日報2020年5月12日を参考。
(2020年05月19日「保険・年金フォーカス」)
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生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任
金 明中 (きむ みょんじゅん)
研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計
03-3512-1825
- プロフィール
【職歴】
独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職
・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
・2021年~ 専修大学非常勤講師
・2021年~ 日本大学非常勤講師
・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
・2024年~ 関東学院大学非常勤講師
・2019年 労働政策研究会議準備委員会準備委員
東アジア経済経営学会理事
・2021年 第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員
【加入団体等】
・日本経済学会
・日本労務学会
・社会政策学会
・日本労使関係研究協会
・東アジア経済経営学会
・現代韓国朝鮮学会
・韓国人事管理学会
・博士(慶應義塾大学、商学)
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