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新型コロナで増えた消費、減った消費-巣ごもり・デジタルは増加、外出型消費は大幅減、シェアも明暗

生活研究部 上席研究員 久我 尚子
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1――はじめに~4月の消費者心理は急速に悪化、リーマンショック後の水準を大きく下回る
2――新型コロナによる消費の明暗~巣ごもり・デジタル消費が増加、外出型消費は大幅減少
図2に、新型コロナの影響を受けた可能性のある主な支出項目を示す。また、図3には、インターネットを利用した購入で支出額の大幅な増減が見られた項目を示す。支出額が増えた項目を見ると、保存の効く食料品やトイレットペーパーなどの「買いだめ的な行動」のほか、「巣ごもり需要」や「デジタル需要」、「非接触志向」の高まりといった消費行動の変化が見える。
「巣ごもり需要」については、食の面では、食事代や飲酒代などが減少する一方、出前やビール、チューハイ・カクテルが増加していることから、外食から中食へ、外で飲むのではなく「家飲み」へと、需要が外から中へと移っている様子がわかる。若者を中心にオンライン飲み会なども増えているとも聞く。
また、日用品・美容では、外出を控え、外出時にマスクをする生活では化粧をする機会が減るのか、口紅などのメイクアップ用品の支出額が減少している。また、緊急事態宣言下では多くの理美容店が休業したため、理髪代やカット代が減少する一方、理美容用家電器具(ヘアドライヤーや美容家電を含む)やヘアコンディショナーなどの支出額が増加しており、美容の面でも需要が外(あるいは外向きのもの)から中へと移っている。
ファッションは全体的に支出額が減少している。巣ごもり生活では外出着を新調する必要も薄れる。また、新型コロナの影響によって卒入学式の中止・規模縮小が相次いだ影響もあるのだろう。一方で、生地・糸類の支出額は増加している。時間に余裕のある巣ごもり生活では裁縫をしたり、マスク不足の中で布マスクを作る消費者も増えているのかもしれない。
交通や教養娯楽でも需要が外から中へと移っている。鉄道運賃をはじめとした移動や旅行・レジャー関連支出は大幅に減少する一方、家の中で楽しめるゲームや書籍の支出額は増加している。
教育では、学習塾などの補習教育や学習参考教材などの支出額が増加しており、3月1日からの政府による全国一斉休校の要請によって、自宅での子どもの教育需要が増している様子がうかがえる。緊急事態宣言下では学習塾にも休業要請は出ているが、新たにオンライン授業やオンライン模試などに対応し始めた塾も多いようだ。
つまり、本来は外出型の消費行動でも、屋内型のサービス提供への切り替えが可能であれば、巣ごもり需要を上手く取り込めている領域もあるようだ。
「デジタル需要」としては、ネット通販やデジタルコンテンツ需要の高まりがあげられる。
ネット通販については、運送料の支出額が増加していることから、需要が高まっている様子がうかがえる。なお、3月の二人以上世帯のネット通販全体の支出額(インターネットを利用した支出総額:22品目計)は旅行関連支出の大幅減少によって、前年同月と比べて実質▲4.6%だが、食料品や飲料をはじめ多くの領域で支出額が増加している。外出自粛に加えて、非接触志向が高まっている影響もあるだろう。
また、音楽・映像・アプリや電子書籍などデジタルコンテンツの支出額が増加している。これらのデジタルコンテンツ配信サービスの多くは、月額定額で使い放題のサブスクリプションモデルであり、時間を持て余す巣ごもり生活と相性が良い。
なお、ネットを利用した購入では保険の支出額も増加している。これは非接触志向の高まりの影響もあるのだろうが、感染症リスクへの懸念から保障ニーズが高まっている可能性もある。ただし、保険種類等のデータは公開されていないため、他のデータもあわせて見る必要がある。
手元にデータはないが、近年、消費行動において存在感を増しているシェアリングサービスの状況について考察したい。シェアリングサービスには、モノや移動手段、スキル、スペースといった多様な領域があるが、一部を除き多くの領域で新型コロナによる打撃を受けていると考える。
需要が増しているのは、配達系(移動手段)のシェアリングサービスだ。前述の通り、出前やネット通販の利用が増えているためだ。また、スキルのシェアのうち、英会話やヨガをはじめレクチャー形式でオンライン対応(切り替え)が可能なサービスは、時間のある巣ごもり生活では、むしろ需要がじわりと高まっている部分もある。
一方で、他のサービスは厳しい状況にあるだろう。非接触志向の高まりによって、今、他人と何かをシェアすることへの抵抗を感じる消費者は多いと考えるためだ。また、シェアリングサービスでは、カーシェア1や民泊、外出用の服やバッグのシェアなど、外出型の消費行動に伴うサービスも多い。よって、外出自粛によって需要が一旦止まってしまっている。
スキルのシェアとして見られる家事代行やシッターサービスについては、子どもの休校や学童・保育所の休所が続く中で、平常時より、むしろ強い需要があると言える。しかし、消費者がサービス利用を控える(あるいは提供者が出向くことを控える)傾向もあるだろう。
1 カーシェアでは通勤せざるを得ない場合の通勤手段など、非接触志向の高まりによって逆に一部で需要が増している状況もあるようだ。このような状況はスペースのシェアなどでも見られるだろうが、全体としては厳しい状況にあるだろう。
3――今後の消費行動~しばらくは巣ごもり型を軸に身近な外出型消費から、働き方変化などの要因も
一方で、ネット通販やサブスク系のオンラインサービスなどのデジタル消費は、今後も需要が拡大していくだろう。新型コロナの影響がなくとも、近年、進んでいた流れだからだ。日本では共働き世帯や単身世帯が増加傾向にあり、利便性を重視する消費者が増えている。また、現在のところ、サブスク系のデジタルサービスの利用は若者が中心だが、スマートフォン保有率が高まっているシニアの動向にも注目したい。
そして、今回の巣ごもり生活では働き方が大きく変わった。テレワーク環境の整備は、そもそも「働き方改革」で進められてきた流れだ。よって、デジタル消費と同様、今後、一層環境が整うのだろう。
働き方が変われば、暮らし方も変わる。暮らしが変われば、消費行動も変わる。ウィズコロナ・アフターコロナの消費行動は、単に中か外かだけではなく、複数の要因が絡み合う。
(2020年05月13日「基礎研レター」)

03-3512-1878
- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
久我 尚子のレポート
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