2020年04月27日

一律10万円給付の家計へのインパクト-新型コロナ緊急経済対策の効果は?

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

文字サイズ

■要旨
 
  • 政府は緊急経済対策として国民一人あたり一律10万円を給付する予定だ。この10万円という金額は、総務省「家計調査」によると、二人以上世帯の一人分の約1カ月分の消費額に相当するが、物価の高い大都市や関東地方では数千円程度不足する。
     
  • 二人以上世帯では、世帯年収800万円までの世帯は一人分の1カ月分の消費額は10万円を下回るが、娯楽費や交際費等の選択的消費の多い世帯年収800万円以上の世帯では、10万円を超える。なお、高年収世帯でも、食費や住居費等の必需的消費分は一人あたり10万円以内におさまる。
     
  • 一方、必需的消費や固定費を家族と折半することができない単身世帯では、家計の合理化が図りにくく、支出がかさむ傾向があるため、10万円という金額は一カ月分の消費額の約6割にとどまり、緊急経済対策の恩恵が薄れる傾向がある。
     
  • 子育て世帯や共働き世帯、高齢者世帯といった世帯属性別に状況を見ると、家族の人数が少ない世帯では単身世帯と同様に家計の合理化が図りにくいために恩恵が薄れる傾向がある。また、共働きで妻がフルタイムで働く世帯では収入が多く選択的消費が多いために、一人あたりの月平均消費額は10万円を超える。
     
  • 以上より、家計の合理化が図りにくい家族の人数が少ない世帯や物価の高い都市部に住む世帯などでは一律10万円給付の恩恵が薄れる傾向がある。また、減収や解雇などの経済的打撃を受けた世帯には追加的な支援策が必要だ。その際、貧困問題が指摘されている母子世帯など、特に生活困窮世帯の多い属性を配慮する必要もある。

■目次

1――はじめに~緊急経済対策として一人あたり一律10万円給付、5月中に開始か
2――二人以上世帯へのインパクト
 ~一人分の約1カ月分の消費額、高年収世帯でも必需的消費分に
  1|都市階級別・地方別の状況
    ~一人あたり約1カ月分の消費額、物価の高い都市部ではやや下回る
  2|世帯年収別の状況~年収800万円までは一人分の約1カ月分の消費額を上回る、
    高年収世帯でも必需的消費分を補填
3――単身世帯へのインパクト
 ~家計の合理化が図りにくいため1カ月分の消費額の約6割にとどまる
4――属性別に見たインパクト~家族の人数が少ない世帯や消費額の多い共働き
 ・妻フルタイム世帯では一人分の1カ月分の消費額を下回る
5――おわりに~減収・解雇などの生活困窮世帯には追加的な支援策を
Xでシェアする Facebookでシェアする

生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【一律10万円給付の家計へのインパクト-新型コロナ緊急経済対策の効果は?】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

一律10万円給付の家計へのインパクト-新型コロナ緊急経済対策の効果は?のレポート Topへ