2020年04月20日

新型コロナウイルス感染・経済対策-経済対策に金融・財政政策をフル稼働も追加対策は必至

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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4.財政政策の動向

(第1弾):緊急補正予算法(予算規模:83億ドル)
3月6日に新型コロナウイルス対策として、83億ドルを盛り込んだ緊急補正予算法 PL 116-123)6が成立した(図表4)。

このうち、31億ドルがワクチンや、ウイルス検査などの研究開発に割り当てられるほか、22億ドルが州・地方自治体の公共衛生機関への財政支援に充当される。さらに、13億ドルが国務省を通じて新型コロナウイルス対策に取り組む諸外国への支援などに充てられる。
緊急補正予算法の概要
(第2弾):家族第一コロナウイルス対策法(予算規模:1,900億ドル)
3月18日に新型コロナウイルス対策の第2弾として、家族第一コロナウイルス対策法(Families First Coronavirus Response Act、FFCRA、PL 116-127)7が成立した(図表5)。

FFCRAでは、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う休業や失業の増加に対する生活保障が中心となっている。具体的には、州が運営する低所得者向けの医療保険制度であるメディケイドに対する医療補助率を引き上げること(予算規模:500億ドル)や、低所得者向けの食糧支援政策である補助的栄養支援プログラム(SNAP)に対する追加予算(同185億ドル)などが盛り込まれたが、目玉は1,050億ドルが充当される2週間の有給病気休暇の付与義務付けだ。
(図表5)家族第一コロナウイルス対策法の概要
米国では労働法に病気休暇を含めて有給休暇の付与が規定されていない。これは、有給休暇が企業による福利厚生と考えられているためだが、一部の州政府では付与を義務付けているため、米国内で業種や地域によって有給病気休暇が付与されている労働者の割合は乖離していた。とくに、飲食業などの娯楽関連では付与されていう割合が5割を下回っている。これらの業種では、自身の感染や濃厚接触者としての隔離、家族の感染などで休業を余儀なくされた場合に無給となるため、生活破綻リスクが高まるほか、無給を恐れて感染者が就業することで職場での感染を拡大させる可能性が指摘されていた。

FFCRAでは、原則として従業員500人未満の企業に対して8有給病気休暇を付与することを義務付けており、従業員が州政府や医療従事者の指示により隔離措置の対象となっている場合に、有給期間中の給与全額を支払わなければならない。また、従業員が隔離措置の対象となっている者の世話をする場合や、新型コロナウイルスを理由とした休校で18歳以下の子供の世話をしなければならない場合などには有給期間中給与の3分の2を支払わなければならない。このような措置に対して、有給休暇を付与した雇用主は、控除額に上限が定められているものの、基本的に休業した従業員に支払った給与全額を税額控除される仕組みとなっている。
 
7 https://www.congress.gov/bill/116th-congress/house-bill/6201/text
8 従業員50人以下の雇用者で有給休暇付与の義務付けによりじぎぃおうの継続可能性が脅かされる場合には付与義務は免除。
(第3弾):コロナウイルス支援・救済・経済安全保障法(予算規模:2.3兆ドル)
3月27日に新型コロナウイルス対策の第3弾として、コロナウイルス支援・救済・経済安全保障法(Coronavirus Aid, Relief, and Economic Security Act、CARES法、PL 116-136)9が成立した(図表6)。CARES法の予算規模は米国史上最大となる2.3兆ドルであり、名目GDP比で10%超の水準である。CARES法では、米国民に対する現金支給(予算規模:2,900億ドル)、失業保険給付の拡充(同2,600億ドル)、中小企業支援策(同3,770億ドル)、航空業界などの特定業界にする融資(5,100億ドル)などが盛り込まれた。
(図表6)コロナウイルス支援・救済・経済安全保障法の概要
現金支給では、所得水準に応じて10大人一人当たり最大1,200ドル、17歳未満の子供1人当たり500ドルの現金支給が決まった。既に4月10日から送金は始まっている。

失業保険給付の拡充では、通常の失業保険で対象とならないフリーランスや、契約社員も対象に加え、州から支給される失業保険給付に加え週につき600ドルを増額するほか、失業保険を使い果たした失業者に対して13週給付期間を延長する。

また、中小企業支援策では、中小企業庁(SBA)が給与小切手保護プログラム(Paycheck Protection Program、PPP)として、従業員500人以下の中小企業などに対して、従業員の給与等の維持のために1,000万ドルを上限に融資を提供する。なお、融資となっているものの、融資受領から8週間後に雇用・給与維持の条件を満たしていることが確認されれば、債務および利息の返済が免除されることから、実質的には給与の肩代わりとなっている。一方、PPPには申し込みが殺到しており、既に3,500億ドルの融資枠を使い果たしたことから、4月16日以降は新規の受付を停止している。

最後に、CARES法には新型コロナウイルス対策などで大打撃を受けている航空業界に対して250億ドルの給与補助、250億ドルの融資が盛り込まれている。給与補助では、CARES法の成立時点で未定であった補助の条件が、各社に割り当てられた給与補助のうち、70%は返済免除となっており、30%を返済し、10%は新株予約券(ワラント)を提供することで合意したようだ。
 
9 https://www.congress.gov/bill/116th-congress/house-bill/748?q=%7B%22search%22%3A%5B%22coronavirus+aid+relief+economic%22%5D%7D&s=5&r=2
10 調整総所得で、独身が7万5,000ドル、夫婦で15万ドルまでは全額支給、この水準を上回る部分は支給額が5%削減される。この結果、独身で9万9,000ドル、夫婦で19万8000ドルを超える調整後総所得がある国民には現金給付は無い。
 

5.今後の見通し

5.今後の見通し

これまでみてきたように、新型コロナウイルスの感染に伴う米経済への落ち込みを軽減するために、金融・財政政策でこれまで実施したことのない様々な対策が実施されている。もっとも、これらの経済対策にも係わらず、20年の4-6月期の実質GDP成長率は前期比年率で▲20%~▲30%と、金融危機時の08年10-12月期の同▲8.4%を大幅に下回る落ち込みになるとの見方が強まっている。

金融政策では、流動性ファシリティで損失が発生した場合に損失を補填するための為替安定化基金の残高を2,000億ドル超残しており、現在実行中のファシリティの規模拡大や新たなファシリティ―の創出余力を残している。

また、財政政策についても、これまでの財政政策が超党派で成立させてきた経緯から、米議会は財政状況の悪化は一旦脇に置いて、与野党で経済対策を実施することで一致している。現在、第4弾となる経済対策が検討されているが、前期のように中小企業対策で財源が枯渇しており、追加の財源確保など、早期の対応が求められている。財政政策も今後も累次に亘る対策が必要となろう。

トランプ大統領は4月16日に段階的に経済活動を再開する新たな指針を示した。米政府は感染対策と経済対策のバランスをみながら、今後も難しい舵取りを迫られるだろう。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2020年04月20日「Weekly エコノミスト・レター」)

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