2020年03月06日

分断が顕著な米国世論ー米国が直面する諸問題に対して、支持政党による考え方の違いが顕著

基礎研REPORT(冊子版)3月号[vol.276]

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

文字サイズ

最近発表された米国の世論調査は、米国が直面する諸問題に対する考えが支持する政党によって大きく乖離していることを示している。さらに、医療保険制度などの特定の問題では支持する政党が同じであっても世代によって支持する政策が異なる実態を示している。
 
ピュー・リサーチの世論調査では、米国が直面する諸問題について「非常に大きな問題」との回答割合は「医療費負担」が66%、「薬物中毒」が64%と大きくなっているほか、「大学の学費負担」(55%)、「財政赤字」(53%)と続いている[図表1]。
 
米国が直面する問題
世論調査の結果をさらにみると、支持する政党によって回答が大きく乖離していることが分かる。民主党支持者の73%が「気候変動」を「非常に大きな問題」と捉えているのに対し、共和党支持者ではその割合は僅か17%に留まる。また、「不法移民」の問題では、逆に共和党支持者の67%に対して民主党支持者では23%となっている。
 
一方、「財政赤字」、「テロ」、「薬物中毒」など、支持政党による乖離幅が1桁に留まっている項目はあるものの、世論調査が対象とした11項目の平均乖離幅は27%ポイントにも上っている。
 
このような中で民主党、共和党支持者ともに「非常に大きな問題」との回答割合が過半数を超える項目は、「薬物中毒」、「医療費負担」、「財政赤字」の3項目となっており、これらの項目では重点的に超党派での対応が求められていると言えよう。
 
実際に「薬物中毒」問題では、病院で処方される麻薬系鎮痛薬であるオピオイドが原因の中毒患者や中毒死の急増に対して、中毒患者の治療や回復支援、中毒の予防などを盛り込んだ法律を超党派の圧倒的な支持で成立させた例があり、議会は一定の成果を上げている。
 
もっとも、「非常に大きな問題」との認識で一致していても、必ずしも超党派で解決策を合意できるとは限らない。例えば、「医療費負担」に関しては負担軽減のために、製薬会社に対して薬価の引き下げを求める点は、与野党問わず概ね合意されているものの、医療費負担に密接に関連する医療保険制度改革に対する考え方は支持する政党によって大きな違いがある。
 
共和党支持者の70%が国民皆保険は「政府の責任ではない」と回答した一方、民主党支持者の83%が「政府の責任である」と回答した[図表2]。
国民皆保険に対する政府の責任
また、民主党支持者の間でも、国民皆保険をどのように実現するのかについては、公的と民間保険を組み合わせる現行のオバマケアの制度強化を支持する回答割合が38%となっているのに対して、民間保険を締め出し、連邦政府が唯一の保険提供者となって、単一の国家プログラムとして国民皆保険を実現する所謂メディケア・フォー・オールの支持が44%と、拮抗している。このため、医療保険制度に対する民主党支持者の考えも一枚岩ではないと言えるだろう。
 
これまでみたように米国が直面する諸問題の捉え方は支持政党によって分断されている。また、同じ政党の支持者でも、特定の問題では意見の相違がみられており、多くの国民が納得する形で政策を実現することは容易でないだろう。
Xでシェアする Facebookでシェアする

経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2020年03月06日「基礎研マンスリー」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【分断が顕著な米国世論ー米国が直面する諸問題に対して、支持政党による考え方の違いが顕著】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

分断が顕著な米国世論ー米国が直面する諸問題に対して、支持政党による考え方の違いが顕著のレポート Topへ