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- OPECプラス減産決定でも原油価格は下げ止まらず~その原因と今後の注目ポイント
2020年04月16日
1――OPECプラス減産決定でも原油価格下落
1|OPECプラス会合での決定事項
その理由を考えるべく、まずOPECプラス会合での決定事項を振り返ってみよう。
・OPECプラスは加盟国全体で5月から6月にかけて日量970万バレルの減産を実施
・基準となる原油生産量はサウジアラビア(以下、「サウジ」)とロシアが日量1,100万バレル、その他産油国は2018年10月の産油量
・7月以降は徐々に減産規模を縮小しながら、2022年4月まで減産を継続
・各国への減産量割り当ては声明文に記載されていないが、各種報道によれば、各国の基準生産量からそれぞれ23%の減産を実施(メキシコのみ日量10万バレル、イランやベネズエラ等従来の減産枠組みで減産を義務付けられていなかった国の扱いは不明)
・次回会合は6月10日に開催する予定
さらに、「サウジ、UAE、クウェートは合意された減産幅に加えて200万バレルの減産を行う」(イランのザンギャネ石油相)との情報もある1。
なお、4月10日に開催されたG20エネルギー相会議ではサウジやロシアが米国やカナダなどに日量500万バレルの減産を求めることが予想されていたが、会議後の声明文には減産への言及はなく、「市場の安定性を確保するために必要なあらゆる手段を早急に講じる」ことを宣言するに留まった。
ただし、サウジのアブドルアジズエネルギー相は、13日に「OPECプラス以外のG20加盟国が日量約370万バレルの減産を約束し、戦略石油備蓄の積み増しも合わせた世界の実質的な減産量は約1950万バレルに達する」と説明している2。
1 ロイター報道(2020年4月13日付)
2 ロイター報道(2020年4月14日付)
その理由を考えるべく、まずOPECプラス会合での決定事項を振り返ってみよう。
・OPECプラスは加盟国全体で5月から6月にかけて日量970万バレルの減産を実施
・基準となる原油生産量はサウジアラビア(以下、「サウジ」)とロシアが日量1,100万バレル、その他産油国は2018年10月の産油量
・7月以降は徐々に減産規模を縮小しながら、2022年4月まで減産を継続
・各国への減産量割り当ては声明文に記載されていないが、各種報道によれば、各国の基準生産量からそれぞれ23%の減産を実施(メキシコのみ日量10万バレル、イランやベネズエラ等従来の減産枠組みで減産を義務付けられていなかった国の扱いは不明)
・次回会合は6月10日に開催する予定
さらに、「サウジ、UAE、クウェートは合意された減産幅に加えて200万バレルの減産を行う」(イランのザンギャネ石油相)との情報もある1。
なお、4月10日に開催されたG20エネルギー相会議ではサウジやロシアが米国やカナダなどに日量500万バレルの減産を求めることが予想されていたが、会議後の声明文には減産への言及はなく、「市場の安定性を確保するために必要なあらゆる手段を早急に講じる」ことを宣言するに留まった。
ただし、サウジのアブドルアジズエネルギー相は、13日に「OPECプラス以外のG20加盟国が日量約370万バレルの減産を約束し、戦略石油備蓄の積み増しも合わせた世界の実質的な減産量は約1950万バレルに達する」と説明している2。
1 ロイター報道(2020年4月13日付)
2 ロイター報道(2020年4月14日付)
2|減産決定でも原油価格が下落したワケ
今回OPECプラスが協調減産の再開を決定したことは、3月会合での交渉決裂によって勃発したサウジとロシアの増産競争に終止符が打たれたことを意味する。また、日量970万バレルという減産規模は、今年1-3月に実施された減産量(日量約170万バレル)の6倍近くでサウジ1国の生産量に匹敵する巨大な規模だ。アブドルアジズエネルギー相が言うように、もしも世界の実質的な減産量が約1950万バレルに達するなら、さらにその倍になる。しかし、市場で好感されなかったのは、それでも「需要の減少に対して不十分」と見なされたためだ。
OPECプラス会合の前から、「新型コロナ拡大に伴う世界的な経済封鎖によって原油需要は急激に減少しており、足元で2000~3000万バレル減に達する」との見方が市場では優勢であった。実際、昨日公表されたIEA(国際エネルギー機関)の月報では、4月の原油需要量は前年比2900万バレル減、5月は2600万バレル減と大幅な減少が見込まれている。これは昨年の原油需要の3割弱にあたる。本来であれば、原油価格が低下すれば需要が喚起されるのだが、現在は経済活動が制約されているため需要の喚起は望めない。従って、仮に世界で2000万バレル弱の減産が実現したとしても、供給過剰は解消されず、急速に原油在庫が積み上がることになる。
現に、速報性の高いEIA(米エネルギー情報局)の週次統計では、米国において足元で例年に比べてガソリンやジェット燃料などの石油製品供給量(需要)が約3割も減少し、原油在庫が急ピッチで積み上がっている様子が確認できる(図表2・3)。
今回、減産の規模が明らかになったことで、減産後も大幅な供給過剰が続くことも明らかになり、原油価格の下落圧力になった。
今回OPECプラスが協調減産の再開を決定したことは、3月会合での交渉決裂によって勃発したサウジとロシアの増産競争に終止符が打たれたことを意味する。また、日量970万バレルという減産規模は、今年1-3月に実施された減産量(日量約170万バレル)の6倍近くでサウジ1国の生産量に匹敵する巨大な規模だ。アブドルアジズエネルギー相が言うように、もしも世界の実質的な減産量が約1950万バレルに達するなら、さらにその倍になる。しかし、市場で好感されなかったのは、それでも「需要の減少に対して不十分」と見なされたためだ。
OPECプラス会合の前から、「新型コロナ拡大に伴う世界的な経済封鎖によって原油需要は急激に減少しており、足元で2000~3000万バレル減に達する」との見方が市場では優勢であった。実際、昨日公表されたIEA(国際エネルギー機関)の月報では、4月の原油需要量は前年比2900万バレル減、5月は2600万バレル減と大幅な減少が見込まれている。これは昨年の原油需要の3割弱にあたる。本来であれば、原油価格が低下すれば需要が喚起されるのだが、現在は経済活動が制約されているため需要の喚起は望めない。従って、仮に世界で2000万バレル弱の減産が実現したとしても、供給過剰は解消されず、急速に原油在庫が積み上がることになる。
現に、速報性の高いEIA(米エネルギー情報局)の週次統計では、米国において足元で例年に比べてガソリンやジェット燃料などの石油製品供給量(需要)が約3割も減少し、原油在庫が急ピッチで積み上がっている様子が確認できる(図表2・3)。
今回、減産の規模が明らかになったことで、減産後も大幅な供給過剰が続くことも明らかになり、原油価格の下落圧力になった。
また、減産の実効性が不透明であることも市場で好感されなかった一因と考えられる。
まず、米国やカナダといったOPECプラス枠外のG20諸国による減産量(サウジエネルギー相によれば370万バレル)は不確実性が高い。そもそも、公表されたものではないうえ、米国は先々見込まれる自然減(原油価格下落に伴う生産量の減少)を単にカウントしている可能性が高いためだ。
さらに、OPECプラスによる合意された減産(970万バレル)も確実に実行される保証はない。現に、3月にかけて長らく行われてきた協調減産では合意があまり遵守されておらず、規模の大きいロシアやイラクも恒常的に遵守率が100%を下回ってきた(図表4)。
これまではサウジが率先して合意枠以上の減産を実施することで、OPECプラス全体としての順守率を100%以上に保ってきたが、サウジはこうした状況について不満を持っているため、今後も他国の「合意破り」分を十分に埋め合わせるかは不透明だ。
まず、米国やカナダといったOPECプラス枠外のG20諸国による減産量(サウジエネルギー相によれば370万バレル)は不確実性が高い。そもそも、公表されたものではないうえ、米国は先々見込まれる自然減(原油価格下落に伴う生産量の減少)を単にカウントしている可能性が高いためだ。
さらに、OPECプラスによる合意された減産(970万バレル)も確実に実行される保証はない。現に、3月にかけて長らく行われてきた協調減産では合意があまり遵守されておらず、規模の大きいロシアやイラクも恒常的に遵守率が100%を下回ってきた(図表4)。
これまではサウジが率先して合意枠以上の減産を実施することで、OPECプラス全体としての順守率を100%以上に保ってきたが、サウジはこうした状況について不満を持っているため、今後も他国の「合意破り」分を十分に埋め合わせるかは不透明だ。
2――今後の注目ポイント
今後の原油価格の行方を見通すうえで、まず注目されるのは新型コロナの動向だ。なぜなら、OPECプラス会合後の原油価格下落の最大の要因は、新型コロナ対策としての経済封鎖による原油需要の急減であるためだ。新型コロナの影響で今後どれだけ、いつまで原油需要が減少するか、その後終息に伴ってどのようなペースで経済活動が再開し、原油需要が回復するかがポイントだ。国・地域別では、世界需要に占める割合の高い米国(19年の世界シェア20%)、欧州(同15%)、中国(同14%)の動向がとりわけ重要になる。
一方、生産サイドでは、5月以降、世界の原油生産量がどれだけ減少するかが注目される。OPECプラスの減産遵守状況に加えて、G20諸国やその他の国々にどれだけ減産の動きが広がるかもポイントになる。15日には、マレーシアがOPECプラスの減産合意を歓迎し、「5~6月に日量13.6万バレルの減産を行う」と発表する3など、OPECプラスに追随する動きもみられる。
特に重要になるのが、OPECプラス枠外における最大の産油国である米国の生産動向だ。米原油生産の主力であるシェールオイルは採算レートが高いことから(40ドル~50ドル台が中心とみられる・図表5)、現在の価格水準では大半が採算割れに陥っていると推測される。既に、米国でのシェール油井掘削活動を示すリグ稼働数は大幅に減少しており、実際の産油量もこの数週間で減少に転じている(図表6)。
また、原油生産量が最も多い地域であるテキサス州では、生産制限についての検討が始まっている。反対意見もあって協議は難航している模様だが、こうした州レベルでの生産抑制に向けた動きも注目される。
一方、生産サイドでは、5月以降、世界の原油生産量がどれだけ減少するかが注目される。OPECプラスの減産遵守状況に加えて、G20諸国やその他の国々にどれだけ減産の動きが広がるかもポイントになる。15日には、マレーシアがOPECプラスの減産合意を歓迎し、「5~6月に日量13.6万バレルの減産を行う」と発表する3など、OPECプラスに追随する動きもみられる。
特に重要になるのが、OPECプラス枠外における最大の産油国である米国の生産動向だ。米原油生産の主力であるシェールオイルは採算レートが高いことから(40ドル~50ドル台が中心とみられる・図表5)、現在の価格水準では大半が採算割れに陥っていると推測される。既に、米国でのシェール油井掘削活動を示すリグ稼働数は大幅に減少しており、実際の産油量もこの数週間で減少に転じている(図表6)。
また、原油生産量が最も多い地域であるテキサス州では、生産制限についての検討が始まっている。反対意見もあって協議は難航している模様だが、こうした州レベルでの生産抑制に向けた動きも注目される。
さらに、OPECプラスによる追加減産の動きもポイントになる。今後も原油価格が低迷を続ける場合、サウジなどの主要産油国が価格反転を目指してさらなる減産を目指すかもしれない。今回の減産決定を強く促したトランプ大統領がシェール業界の雇用を守るために再びサウジやロシアへの圧力を強め、それが追加減産の動きに繋がるという展開もあり得る。
最後に今後の原油相場を展望すると、現在の1バレル20ドルという原油価格は長期的には持続不可能だろう。そもそも、この水準が続けば、高コストのシェールオイルや深海油田が生産停止に陥っていくうえ、世界的に新規の設備投資が手控えられることもあり、生産は減少に向かうはずだ。また、新型コロナウィルスの感染拡大もいずれ終息に向かうと見込まれる4ため、経済活動の再開に伴って需要も徐々に回復するだろう。
ただし、当面は供給過剰感が強く、原油価格の上値は押さえられるだろう。次回OPECプラス会合(前倒しがなければ6月)までは20ドル弱~30ドルでの推移を予想しているが、特に需給の緩みが意識される場面では、一時的に15ドル前後まで落ち込む可能性があると見ている。
3 ロイター報道(2020年4月15日)
4 IMFが14日に公表した世界経済見通しのベースラインシナリオでは、「今年後半にパンデミックが収束し、拡散防止措置を徐々に解除することが可能になる」という想定がされている。
最後に今後の原油相場を展望すると、現在の1バレル20ドルという原油価格は長期的には持続不可能だろう。そもそも、この水準が続けば、高コストのシェールオイルや深海油田が生産停止に陥っていくうえ、世界的に新規の設備投資が手控えられることもあり、生産は減少に向かうはずだ。また、新型コロナウィルスの感染拡大もいずれ終息に向かうと見込まれる4ため、経済活動の再開に伴って需要も徐々に回復するだろう。
ただし、当面は供給過剰感が強く、原油価格の上値は押さえられるだろう。次回OPECプラス会合(前倒しがなければ6月)までは20ドル弱~30ドルでの推移を予想しているが、特に需給の緩みが意識される場面では、一時的に15ドル前後まで落ち込む可能性があると見ている。
3 ロイター報道(2020年4月15日)
4 IMFが14日に公表した世界経済見通しのベースラインシナリオでは、「今年後半にパンデミックが収束し、拡散防止措置を徐々に解除することが可能になる」という想定がされている。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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経歴
- ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所
・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)
(2020年04月16日「基礎研レター」)
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【OPECプラス減産決定でも原油価格は下げ止まらず~その原因と今後の注目ポイント】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
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