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老後資金の取崩し(1)-運用方法と取崩し方法をセットで考える

金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・サステナビリティ投資推進室兼任 高岡 和佳子
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1――老後の不安を和らげるための、もう一つの要素

最終的な運用成果の不確実性を軽減する投資手法の一つに「積み立て投資」がある。「積み立て投資」とは、定期的に決まった金額の投資を行う方法で、税制上優遇措置のあるiDeCoや積立NISAが「積み立て投資」の代表例である。しかしながら、「積み立て投資」は、若年層など資産形成段階に適した運用手法であり、老後の資産取崩し段階では利用できない。そこで、取崩し方法に着目し退職後の資産運用を考えてみたい。
2――検討の視点
「人生100年時代」到来以前から、老後資金の取崩し方法については様々な研究がある。日本の平均寿命が男性で71歳、女性で76歳であった1974年において、既に絶対に生存中に資産が枯渇しない方法が提案されている。資産が生み出す利子や配当だけを消費に回し、元本には手を付けない方法(以下、「トービン法」)である1。配当利回りが2%の場合、「トービン法」を実践するには年間不足額の50倍(=100%÷2%)の資産が必要となる。しかし、そもそも年間不足額の50倍の資産を65歳時点で保有していれば、運用しなくても資産を取り崩していけば50年間分の資産があるので、115歳(=65歳+50歳)まで資産は枯渇しない。つまり、「トービン法」を実践できる人は、金銭的不安がさほど深刻でない人である。金銭的不安を抱える人にはあまり参考にならないとも言える。

1 Tobin, J. 1974. “What Is Permanent Endowment Income?” American Economic Review 64, no. 2: 427–432.
2 Bengen, W. P. 1994. “Determining Withdrawal Rates Using Historical Data.” Journal of Financial Planning 7, no. 4 (March): 171–180.
3 Ameriks, J., R. Veres, and M. Warshawsky. 2001. “Making Retirement Income Last a Lifetime.” Journal of Financial Planning 14, no. 12 (December): 16–76.
4 Milevsky, Moshe A. and Chris Robinson. 2005. “A Sustainable Spending Rate without Simulation.” Financial Analyst Journal, vol. 61, no. 6 (November/December):89-100.
5 Scott, J., W. Sharpe, and J. Watson. 2009. “The 4% Rule—At What Price?” Journal of Investment Management Third Quarter.
若年層など資産形成段階に適した運用手法「積み立て投資」には、二つのメリットがある。まず、購入する時期が分散されるので、運悪く価格が高い時期にすべての資金を投資してしまうといった失敗を回避できる。次に、毎回一定金額を投資するので、資産価格が低い時は購入数量が多く、資産価格が高い時は購入数量が少なくなる。投資の基本は「安く買って高く売る」なので、資産価格が低い時ほど購入数量が多くなる仕組みはプラスに働く。一方、資産の取り崩しにおいては、毎年一定額を取崩す場合は資産価格が低い時ほど売却数量が多くなり、高い時ほど売却数量が少なくなるため、「安い時にたくさん売って、高いときに少なく売る」こととなり、好ましい投資行動とはならない。幸い、先に紹介した毎年一定額を取崩す「4%ルール」には、マイナスの効果を緩和する仕組みが備わっている。毎年資金を取崩す際に、資産の構成比が基準構成比(株式50%、中期国債50%)に一致するよう資産の組み換え(以下、リバランス)を行うことで、価格が上昇した時ほど売却数量が多くなる。

そこで、「価格が上昇した時ほど多く売却する方針」と「価格が高い時ほど多く売却する方針」の違いに着目する。「価格が高い時ほど多く売却する方針」を実行する取崩し方法を提案し、その効果を検証する。
6 1989年末と2019年末の価格水準を用いて線形補間により、各年末の基準価格を求める。実際の価格と基準価格との比をベースに相対的な価格水準を評価した。
3――取崩し方法の概要と効果検証の方法
「価格が高い時ほど多く売却する方針」を検証するために、株式などの「リスクはあるがその分高い収益率が期待できる資産(以降、株式と表記)」と、預貯金などの「リスクがなく収益が期待できない資産(以降、預貯金と表記)」を保有することとする。毎年の取崩し額(原則、一定)は株式への投資割合と株式の中長期的な収益率(以下、株式の想定収益率)を勘案し、退職時点で決定する。取り崩し段階において、株式と預貯金のいずれを取崩すかは、株式の相対的価格水準に応じて決定するものとする。ただし、相対的価格水準が高い(低い)状況が継続するなどして、株式(預貯金)が底をついた場合、株式の相対的価格水準に関わらず預貯金(株式)を取崩すものとする(以下、「2つの財布法」)。

「4%ルール」を実践するには、退職時における保有資産総額だけを把握すれば良いのに対し、「2つの財布法」を実践するには株式の想定収益率が必要である。「2つの財布法」は「4%ルール」と比べて、ハードルが高いと感じるかもしれない。しかし、株式の想定収益率の設定が困難ならば、過去データを参考に決定すれば良い。過去が将来にも当てはまるとは限らないが、「4%ルール」も過去のデータを用いて導かれたルールなので、実はたいした違いはないと思われる。
検証の主眼は、「価格が高い時ほど多く売却する方針」と「価格が上昇した時ほど多く売却する方針」との比較なので、「2つの財布法」と「4%ルール」のように毎年リバランスする手法(以下、「リバランス法」)を比較してみる。なお、「2つの財布法」における初期の構成比と、「リバランス法」における基準構成比は同一とする。取崩し率も「2つの財布法」と「リバランス法」で同一の値を用い、その値は、基準構成比と想定収益率別に応じて「リバランス法」を前提に決定する。
取崩し方法の効果は、資産寿命の短命化リスクで評価する。評価する指標として(1)想定する生存期間(今回は30年)内に資産が枯渇する確率と、(2)枯渇する場合、資産が枯渇するのは平均的に退職の何年後かを用いる。参考指標として(3)枯渇しない場合、想定する生存期間後の平均残存資産額が、退職後時点の資産額に対してどの程度残っているか(平均残存率)と、(4)想定する生存期間後の平均残存率が、取崩し率の何倍に相当するかを確認する。
各指標の算出には、概ね想定収益率に沿って推移する株価の変動パターン(図表4の赤線に相当)を複数生成し、シミュレーションした結果を用いる。
全資産を株式に投資した場合の評価指標も併せて確認し、更に全資産を預貯金とする場合と比較して取崩し率がどの程度改善するかも確認する。
(2020年04月10日「基礎研レポート」)
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03-3512-1851
- 【職歴】
1999年 日本生命保険相互会社入社
2006年 ニッセイ基礎研究所へ
2017年4月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
高岡 和佳子のレポート
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