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- 定額引き出しの罠-定額引き出しによる不利益をどう防ぐか
コラム
2020年04月02日
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資産寿命を延ばすために、退職金を投資に回す人は少なくない。投資の指南書でよく見るキーワードは「長期投資」「分散投資」「積み立て投資」であるが、退職金で初めて投資する人もこれらの投資手法を活用できるだろうか。
まず、「長期投資」はその名の通り、短期間で売買するのではなく、長期間保有し続ける投資である。資産価格が大きく上昇する年もあれば、大きく下落する年もあるが、複数年保有した場合の1年あたりの収益率は保有期間の平均的な水準となり、保有期間が長いほど1年あたりの収益率は安定する。若い時から投資する場合に比べると残された期間は短いとはいえ、人生100年時代、65歳で投資したとしても、投資可能な期間は数十年あるので十分活用できる。
次に、「分散投資」とは、一つの資産に投資するのではなく、複数の資産に資金を分割して投資する方法である。複数の資産に投資することで、一つの資産の価格が下落しても、ある程度は、他の資産の価格上昇で相殺できるので、資産全体の価値の変動を軽減できるというメリットがある。「長期投資」と異なり、運用可能期間とは無関係なので、当然退職金を投資に回す場合でも活用できる。
最後に、「積み立て投資」とは、定期的に、決まった金額の投資を行う方法である。購入する時期が分散されるので、運悪く価格が高い時期にすべての資金を投資してしまうといった失敗を回避できる。上述では投資対象資産の分散を「分散投資」と記したが、投資時期を分散するという点で、「積み立て投資」も分散投資の一種と言うこともできよう。
時々の消費金額の安定化という点では、過度な消費を避けるため、計画的かつ定期的に資産を取崩すべきであり、公的年金などの今後の収入見通しと資産残高を基準に、取崩し金額を算出するべきである。では、購入時期を分散するように、定期的に決まった金額を取崩す場合もメリットはあるだろうか。売却時期が分散されるので、積み立て投資と同様の効果が期待できると考えるかもしれないが、答えはNoである。
「積み立て投資」のメリットは、購入する時期の分散効果だけではない。毎回一定金額を購入するので、資産価格が低い時は購入数量が多く、資産価格が高い時は購入数量が少なくなる。投資の基本は「安く買って高く売る」なので、資産価格が低い時ほど購入数量が多くなる仕組みはプラスに働く。これに対し、資産の取崩しにおける定額引き出しの場合、資産価格が低い時は売却数量が多く、資産価格が高い時は売却数量が少なくなる。「積み立て投資」のメリットが、定額引き出しの場合はデメリットとなる。これはシークエンス・リスクとして注目されている。
では、定額引き出しによる不利益(以下、シークエンス・リスク)を抑えるにはどうすればよいのか。シークエンス・リスクの根本は資産価格の変動なので、銀行預金など価格が変動しない形態で資産を保有すれば、完全にシークエンス・リスクを取り除くことができるが、投資による資産寿命の延長効果は一切期待できなくなる。価格は変動するが、変動が小さい資産に投資すれば、シークエンス・リスクは軽減されるが、同様に資産寿命の延長効果も限定的となる。定額引き出しではなく、定数量引き出す場合も、シークエンス・リスクを取り除くことができるが、時々の消費可能額が変動するといったデメリットがある。
資産寿命の延長効果もある程度期待しつつ、時々の消費金額の安定化もシークエンス・リスクの抑制も実現する方法として、退職金のすべてを投資に回さず、一部を預貯金として待機させておくことが考えられる。時々の消費可能額を安定化するため、取崩し額は一定とするが、資産価格に応じて取崩す財布(投資か預貯金)を変える方法である。具体的には、資産価格が低い時は預貯金を取崩し、逆に資産価格が高い時は投資を取崩す仕組みである。
仕組みは簡単だが、老後の資金の取崩しにおいて具体的な引き出しルールを検討することは容易ではない。合理的な「老後の資産運用と取崩し方法」は、非常に面白くかつ極めて重要な研究テーマである。
まず、「長期投資」はその名の通り、短期間で売買するのではなく、長期間保有し続ける投資である。資産価格が大きく上昇する年もあれば、大きく下落する年もあるが、複数年保有した場合の1年あたりの収益率は保有期間の平均的な水準となり、保有期間が長いほど1年あたりの収益率は安定する。若い時から投資する場合に比べると残された期間は短いとはいえ、人生100年時代、65歳で投資したとしても、投資可能な期間は数十年あるので十分活用できる。
次に、「分散投資」とは、一つの資産に投資するのではなく、複数の資産に資金を分割して投資する方法である。複数の資産に投資することで、一つの資産の価格が下落しても、ある程度は、他の資産の価格上昇で相殺できるので、資産全体の価値の変動を軽減できるというメリットがある。「長期投資」と異なり、運用可能期間とは無関係なので、当然退職金を投資に回す場合でも活用できる。
最後に、「積み立て投資」とは、定期的に、決まった金額の投資を行う方法である。購入する時期が分散されるので、運悪く価格が高い時期にすべての資金を投資してしまうといった失敗を回避できる。上述では投資対象資産の分散を「分散投資」と記したが、投資時期を分散するという点で、「積み立て投資」も分散投資の一種と言うこともできよう。
時々の消費金額の安定化という点では、過度な消費を避けるため、計画的かつ定期的に資産を取崩すべきであり、公的年金などの今後の収入見通しと資産残高を基準に、取崩し金額を算出するべきである。では、購入時期を分散するように、定期的に決まった金額を取崩す場合もメリットはあるだろうか。売却時期が分散されるので、積み立て投資と同様の効果が期待できると考えるかもしれないが、答えはNoである。
「積み立て投資」のメリットは、購入する時期の分散効果だけではない。毎回一定金額を購入するので、資産価格が低い時は購入数量が多く、資産価格が高い時は購入数量が少なくなる。投資の基本は「安く買って高く売る」なので、資産価格が低い時ほど購入数量が多くなる仕組みはプラスに働く。これに対し、資産の取崩しにおける定額引き出しの場合、資産価格が低い時は売却数量が多く、資産価格が高い時は売却数量が少なくなる。「積み立て投資」のメリットが、定額引き出しの場合はデメリットとなる。これはシークエンス・リスクとして注目されている。
では、定額引き出しによる不利益(以下、シークエンス・リスク)を抑えるにはどうすればよいのか。シークエンス・リスクの根本は資産価格の変動なので、銀行預金など価格が変動しない形態で資産を保有すれば、完全にシークエンス・リスクを取り除くことができるが、投資による資産寿命の延長効果は一切期待できなくなる。価格は変動するが、変動が小さい資産に投資すれば、シークエンス・リスクは軽減されるが、同様に資産寿命の延長効果も限定的となる。定額引き出しではなく、定数量引き出す場合も、シークエンス・リスクを取り除くことができるが、時々の消費可能額が変動するといったデメリットがある。
資産寿命の延長効果もある程度期待しつつ、時々の消費金額の安定化もシークエンス・リスクの抑制も実現する方法として、退職金のすべてを投資に回さず、一部を預貯金として待機させておくことが考えられる。時々の消費可能額を安定化するため、取崩し額は一定とするが、資産価格に応じて取崩す財布(投資か預貯金)を変える方法である。具体的には、資産価格が低い時は預貯金を取崩し、逆に資産価格が高い時は投資を取崩す仕組みである。
仕組みは簡単だが、老後の資金の取崩しにおいて具体的な引き出しルールを検討することは容易ではない。合理的な「老後の資産運用と取崩し方法」は、非常に面白くかつ極めて重要な研究テーマである。
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(2020年04月02日「研究員の眼」)
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経歴
- 【職歴】
1999年 日本生命保険相互会社入社
2006年 ニッセイ基礎研究所へ
2017年4月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
高岡 和佳子のレポート
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