コラム
2020年03月25日

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AIを利活用した未来社会の在り方を決めるのは人間自身

「AI(人工知能)は雇用を奪う」とのAI脅威論は、依然として根強い。一方、筆者は、「AIを活用した未来社会がどのようなものになるかを決めるのは、AIではなく、それを開発・進化させる科学者・開発者やそれをツールとして社会に実装・利活用する経営者など、人間自身であるはずだ。AIを単なる人員削減のための道具ではなく、『人間と共生する良きパートナー』と位置付けるべく、ビッグデータから人間では気付けない関係性やわずかな予兆を捉えるなど、AIにしか出来ない(=人間には出来ない)役割や、画像認識など既にAIが人間の能力を上回っている機能をAIに担わせるように、人間自身が強い意思を持って導くことが重要である」と主張してきた1

AIに関わる科学者・開発者や経営者には、AIの開発・実装において、このような明確な「哲学」や「原理原則」を強く持つことが求められる。
 
1 AIの利活用の在り方に関わる筆者のこのような考え方については、拙稿「製造業を支える高度部材産業の国際競争力強化に向けて(後編)」ニッセイ基礎研究所『基礎研レポート』2017年3月31日、同「AIの産業・社会利用に向けて」ニッセイ基礎研究所『研究員の眼』2018年3月29日、同「AI・IoTの利活用の在り方」ニッセイ基礎研究所『基礎研レポート』2019年3月29日、同「AI・IoT の利活用の在り方」『ニッセイ基礎研所報』2019年Vol.63(2019年6月)、同「自動運転とAIのフレーム問題」ニッセイ基礎研究所『基礎研レポート』2019年11月18日、同「イチロー引退会見に学ぶAI・IoTとの向き合い方」ニッセイ基礎研究所『研究員の眼』2020年1月10日、同「第1章第13節 AI・IoTの利活用の在り方」『IoT・AIを利活用したヘルスモニタリング』(IoT・AI利活用編集委員会編集)テクノシステム(2020年)を参照されたい。

人間とAIの共生をアウトソーシングの関係と捉えてみる

筆者は、「人間とAIの共生」の在り方を、「人間が本来不得意な、あるいはAIが明らかに人間の能力を上回っている業務・タスク・活動・機能について、人間がAIに戦略的にアウトソーシング(外部委託)を行うことである」と捉えることが出来る、と考えている2
 
2 筆者は、このような考え方を拙稿「AIの産業・社会利用に向けて」ニッセイ基礎研究所『研究員の眼』2018年3月29日にて提示した。
【戦略的アウトソーシングのメリット】
アウトソーシングを戦略的に活用するメリットは、企業の場合、ノンコア業務を外部サービスベンダーに委託することによって、ノンコア業務に関わる高品質かつ効率的なサービスを受給できることに加え、浮いた時間を含めてコア業務である戦略の策定や意思決定に専念できることだ。

人間がAIを使いこなしAIと共生する際にも、全く同様のことが当てはまる。この場合、委託側は企業の経営者・従業員など人間、受託側はAIとなる。すなわち、AIの利活用=AIへのアウトソーシングによって、人間は本来不得意な業務から解放され、その浮いた時間でより高度で創造的な業務・活動を行い、ワークスタイルとライフスタイルを豊かにすることができる。これが、AI・IoT(モノのインターネット)など最先端テクノロジーを駆使して社会課題を解決する、第4次産業革命の下での社会の在るべき姿だ。
【アウトソーシングを効果的に活用する上での3つの留意点】
一般的に、業務や機能などを外部委託する委託機関・組織が受託機関・組織を効果的に活用する上での留意点として、(1)受託機関に委託するものとしないものを明確に分けること、(2)受託機関からの提案をしっかりと検討・評価し、委託機関側のニーズに応じたサービスをコーディネートできる能力を身につけること、(3)外部委託したことで受託機関側に蓄積される実務知見やノウハウを共有できるよう努めること、の3つが挙げられる3

重要なことは、委託機関が受託機関に任せきり・丸投げにするのではなく、受託機関を共に切磋琢磨する「コラボレーションパートナー」と捉えることだ。委託機関が専門的知見と受託機関に対する「マネジメント能力」を十分に身につけていなければ、受託機関とのWin-Winの関係は築けない。

AIの利活用=AIへのアウトソーシングにおいても、これらの留意点が非常に重要となる。
 
3 企業の不動産管理(CRE)業務を中心とした戦略的アウトソーシングに関わる考察については、拙稿「CRE(企業不動産)戦略の進化に向けたアウトソーシングの戦略的活用」『ニッセイ基礎研REPORT』2010 年8月号、同「CRE戦略の企業経営における位置付けと役割」『ニッセイ基礎研所報』2014年Vol.58(2014年6月)を参照されたい。
【明確な問題設定とフレーム問題を回避するための限定された環境の整備】
まず、前記の戦略的アウトソーシングの留意点(1)について考えてみよう。現在のAI4には、「世の中で起こり得るすべての事象から、今行うべき分析・判断に必要な情報のみを『枠(フレーム)』で囲うように、選び出すことが非常に難しいという本質的な問題」が横たわる。これは「フレーム問題」5と呼ばれ、AI 研究の最大の難問と言われ、未だに未解決である、とされる。また、現在のAI は、自らが解くべき問題を設定することもできない(=与えられた問題以外を解くことはできない)。

このため、AI が解くべき問題を人間が明確に設定した上で、問題解決に必要な有限の事象群をフレームで囲い、AI がそれらを選び出せるようにしてやることが必要だ。具体的には、「フレームをはめることができる限定された環境・空間」の下で、AI に特定のタスクを明確なルールに基づいて実行させる、ということである。つまり、AIの開発・実装においては、AIに関わる科学者・開発者や経営者など人間が、現在の特化型AIの性能を最大限に引き出すべく、AIが解くべき問題およびAIを利活用する環境・領域をしっかりと設定して「フレームをはめる」ことこそが最も重要である、と言っても過言ではない。AIに何を任す(=委託する)のかを明確にすることは勿論、AI がフレーム問題に直面して悩まないように、社会実装を行う人間がフレーム問題をうまく回避できるような環境を人為的に整えてやることが、極めて重要となるのだ。
 
4 現在実用化されているAIは、特定のタスクしかこなせない「特化型AI」である一方、人間のように多様なタスクをこなせる「汎用AI(AGI:Artificial General Intelligence)」は、現在のテクノロジーの延長では実現しない、とされる。特化型AIは「弱いAI」、AGIは「強いAI」とも呼ばれる。
5 AIのフレーム問題に関わる考察については、拙稿「自動運転とAIのフレーム問題」ニッセイ基礎研究所『基礎研レポート』2019年11月18日を参照されたい。
【AIマネジメント能力の醸成とAI利活用の自分事化】
戦略的アウトソーシングの留意点(2)および(3)は、まとめれば、委託機関が受託機関に対するマネジメント能力を十分に身につけ、受託機関に任せきり・丸投げにするのではなく、委託機関もしっかりとコミットする、という視点だ。

AIの利活用=AIへのアウトソーシングにおいては、AIを「人間と共生するコラボレーションパートナー」と位置付けた上で、AIをどのような目的のためにどのように使い、AIによる分析結果をどのように理解・判断し、そして業務にどのように活かすのかを決定すること、言わば「AIマネジメント」に関わる能力【=AIマネジメント能力】が、今後我々人間にとって極めて重要な役割やスキルになってくる、ということを十分に理解しなければならない。
企業では、データサイエンティストなどの高度専門人材の育成・確保は勿論急務だが、経営層・従業員を問わずあらゆる構成員が、AIの利活用を受け身や他人事ではなく「自分事」として捉え【=自分事化】、AIによる分析データの持つ意味をしっかりと考え、データ分析を各々の業務・タスクに取り入れ、うまく利活用するための創意工夫を凝らす努力を日々続けることが不可欠となる。

AIにより自動的にデータ分析される利便性に安住し、その分析結果を十分に確認・吟味しないまま鵜呑みにして機械的に業務・タスクの意思決定に用いるようなスタンスが企業内に蔓延してしまうと、人間の能力の退化を招いてしまい、AIに真っ先に代替される人材を増やしてしまうことになりかねないことに十分に留意すべきである。

本来の在るべき姿は、膨大なビッグデータの中に存在する、人間では気付けない相関性やわずかな予兆の検出・把握などをAIに整理・提示させ、人間がそれを吟味して施策・戦略に落とし込むことだ。人間とAIが協調して業務・タスクを遂行することが、本来の在り方なのだ。経営層や従業員には、受動的な「AI任せ」のスタンスではなく、自らがAIによる分析データの持つ意味をしっかりと考え抜き、そして見極めて判断する能力が求められる。

また、AIによる分析から導かれる戦略案には、従来のセオリーとは全く異なるものが多く含まれる可能性がある、と予想される。それは、ビッグデータから人間では気付けない関係性やわずかな予兆を捉えることこそが、AIの強みであるからだ。従来のセオリーと異なるために、AIが提案する戦略案をすぐに却下するのではなく、シリコンバレー流のデザイン思考(Design Thinking)6を取り入れ、しっかりと吟味しつつも、とりあえず試してみて、効果がなければ修正または棄却すればよい、との柔軟な発想(トライ&エラーの発想と言い換えてもよい)で臨むことも重要だ。
 
6 製品サービスのアイデアを完成品にまでじっくりと作り込んでから市場に投入するのではなく、高速でプロトタイプ(試作品)を作り(rapid prototypingと言う)、ユーザーからフィードバックを得て改良を加えて試行錯誤を繰り返しながら製品サービスを開発するなど、デザイナーの思考プロセスを取り入れた、課題解決のための思考法。社内で完璧と思われる製品サービスに仕上げるまでは市場には投入しない傾向が概して強い日本企業が、苦手とする思考プロセスであると思われる。

AI利活用=AIへのアウトソーシングは手段であって目的ではない

AIの利活用=AIへのアウトソーシング自体は勿論、目的ではなく手段である。企業は、AIの利活用を、新技術・新事業の創出を中心とする「プロダクト・イノベーション」や業務プロセスの効率化・改革を中心とする「プロセス・イノベーション」につなげることを「目的(アウトカム)」とすべきであり、さらにこのイノベーションを通じて社会を良くすること(社会課題を解決すること)、すなわち「社会的価値(social value)」 を創出することを、AI利活用の「ソーシャルインパクト(社会全体への波及効果)」と捉えるべきだ。AIの利活用を、最終的には人々のライフスタイルやワークスタイルを豊かにし、人々の快適性・利便性や心身の健康・活力、安全・安心など社会生活の質、すなわちQOL(Quality Of Life)を豊かにすることに貢献させるべきなのだ。

AIの過小評価や過大評価・過信を避け、現状のAI の実力・強味や限界を十分に理解した上で、AIと上手に付き合うべくAI をうまく使いこなす工夫を凝らし、社会課題解決のツールとして、積極的に利活用することが求められる。

しかしながら、日本の企業は元々自前主義に陥りがちであり、そもそもアウトソーシングを戦略的に活用するとの発想がなかなか拡がらない側面も強い、と考えられる。日本企業では、AIの利活用を進める上で、アウトソーシングの戦略的活用も極めて重要な戦略オプションと捉える、マインドセットの転換も併せて必要ではないだろうか。

<参考文献>
(※弊社媒体の筆者の論考は、弊社ホームページの筆者ページ「百嶋 徹のレポート」を参照されたい)
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社会研究部   上席研究員

百嶋 徹 (ひゃくしま とおる)

研究・専門分野
企業経営、産業競争力、産業政策、産業立地、地域クラスター、イノベーション、企業不動産(CRE)、環境経営・CSR

(2020年03月25日「研究員の眼」)

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