2020年03月23日

新型コロナへの生活者の不安-全国6千名の定量調査から見えること、不安を軽減させるには

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1――はじめに~政府の一斉休校要請直後に6千名の定量調査実施

ニッセイ基礎研究所では、政府による全国一斉休校の要請が出た直後の2020年3月6日~7日にかけて、全国の20~50歳代の男女、約6千名に対して「暮らしに関する調査1」を実施した。本稿では、その中から新型コロナウィルスに関連する結果をピックアップして結果をお伝えしたい。

先が見えずに不安を抱えながら、日々を過ごす方が多い中で、不安が強い生活者の特徴は何か、その背景には何があるのかを考察する。
 
1 インターネット調査、株式会社マクロミルのモニターを利用、有効回答6,183。
 

2――新型コロナへの不安

2――新型コロナへの不安~子のいるフリーランス女性、情報収集積極層、マスメディア志向層で強い

1全体・性年代別~73.7%が不安、男性より女性で、年齢が高いほど不安
「新型コロナウィルス関連肺炎に対して、どの程度不安に感じるか」について尋ねると、全体では「非常に不安」(38.6%)と「やや不安」(35.1%)をあわせた不安層が73.7%である(図表1)。また、不安層は年齢とともに増え、いずれの年代でも女性が男性を上回り、今回の調査では最も年齢階級の高い50歳代の女性では82.2%となっている(図表2)。これは、女性の方が男性より不安を感じやすいといった性差もあるのだろうが、休校や日用品の買い占め騒動をはじめ、新型コロナによる暮らしの混乱の影響を受けやすいという影響があるのだろう。
図表1 新型コロナへの不安
2職業別~男性は管理職層、女性は休校の影響が大きなフリーランス、非正規、専業主婦で不安
職業別に見ると、男性では不安層は「公務員(管理職以上)」(75.3%)で最も多く、次いで僅差で「正社員・正職員(管理職以上)」(72.4%)、「公務員(一般)」(72.2%)、「正社員・正職員(一般)」(69.4%)、「経営者・役員」(68.4%)と続く(図表3)。出社制限やテレワークへの切り替え指示といった現場のマネジメントを担う管理職層で、負担感の強さから不安が強い様子がうかがえる。
図表2 性・年代別に見た不安層/図表3 職業別に見た不安層
一方、女性では不安層は「専業主婦」(84.8%)で最も多く、次いで僅差で「自営業・自由業」(81.0%)、「嘱託・派遣社員・契約社員」(79.6%)、「パート・アルバイト」(78.1%)、「正社員・正職員(一般)」(74.3%)と続く。女性では専業主婦のほか、就業者では不安定な立場で働いている者ほど不安が強い傾向があることから、子の休校によって自宅で世話をすることで生じる影響が大きな層ほど不安が強い様子がうかがえる。ただし、専業主婦の不安の強さは年齢による影響もあるだろう(他の職業と比べて高年齢層の比率が高い)。また、就業者ではフリーランスや非正規雇用者では、企業活動の停滞の影響に加えて、休業は収入の減少に直結してしまう。なお、男性の「パート・アルバイト」では、むしろ不安層が少ないが、これは20歳代の学生が多いためだろう。
3|家族の状況別~家族が多いと自分だけでなく家族の心配で不安、子のいるフリーランス女性は9割超
家族の状況別に見ると、未婚者より既婚者(配偶者あり)で(図表4)、子がいないよりいる方が(図表5)、単身世帯より同居家族の人数が多い方が不安層は多い傾向がある。これは、家族の人数が多いと、自分だけでなく家族の心配がある上、自宅での罹患リスクが高まることがあるのだろう。
図表4 未既婚別に見た不安層/図表5 子どもの有無別に見た不安層
なお、先に見たように、男性と比べて休校によって仕事への影響を受けやすい女性について、就業状態別・子の有無別に見ると、就業者では子の有無によらず、自営業・自由業>非正規雇用者>正規雇用者の順に不安が強いが、いずれも子のいる女性が上回る(図表6)。また、子のいる女性では、自営業・自由業の不安層は専業主婦を上回っており(+5.3%pt)、9割を超える。
図表6 就業状態別・子の有無別に見た女性の不安層
4日頃の行動・価値観別~情報収集に積極的、マスメディア志向が強いほど不安
調査では、日頃の行動や価値観についての数十の設問があるのだが、このうち新型コロナに関係がありそうな2項目を抽出し、それらへのあてはまり具合と不安層の関係を見ると、「情報は自分で検索して手に入れたい」や「情報取得に時間をかけている」などの情報収集に積極的な層のほか、「SNSを使う人は多いが、結局、マスメディアの影響が最も大きいと思う」というマスメディア志向の強い層で不安が強い傾向がある(図表7)。増え行く感染者数等や買い占め騒動といった不安を増すような情報に対して、他者と比べて多く接することで、自ら不安を高めている様子がうかがえる。

このほか、今年の夏に予定されている東京五輪に期待している層ほど不安が強いという傾向もある。
図表7 日頃の価値観・行動別に見た不安層
 
2 例えば、罹患リスク低減意識からネット通販やキャッシュレス決済利用、情報収集など消費行動の面、出社制限からテレワーク等の働き方の面などを抽出している。
 

3――新型コロナによる外出抑制~

3――新型コロナによる外出抑制~不安が強いほど外出抑制

図表8 新型コロナへの不安度別に見た外出抑制の状況 「新型コロナの発生によって外出を控えるようになったか(通勤・通学を除く)」について尋ねると、全体では「控えるようになった」(30.0%)と「やや控えるようになった」(33.9%)をあわせた外出抑制層は63.9%である(図表8)。
図表9 地域別に見た外出抑制層 新型コロナへの不安別に見ると、不安が強いほど外出抑制層が多い。「非常に不安」層では83.6%にもなる一方、「全く不安でない」層では9.1%でしかない。なお、外出抑制層は、「非常に不安」と「やや不安」をあわせた不安層では74.9%、「全く不安でない」と「あまり不安でない」をあわせた非不安層では20.9%である。

なお、外出抑制層は不安層が多い属性とおおむね合致しており、男性より女性で、年齢は高いほど、未婚者より既婚者で、子がいないよりいる方が、男性は管理職層で、女性は専業主婦のほか、自営業・自由業>非正規雇用者>正規雇用者の順に多くなっている。

地域別には、当調査の実施直前に、知事から外出自粛要請が出た北海道で、最も不安層が多く、外出抑制層も多い(図表9)。
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

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