コラム
2020年03月19日

対応を急ぐ企業の資金繰り支援策-金融円滑化法の復活も検討される

総合政策研究部 常務理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任 矢嶋 康次

総合政策研究部 准主任研究員 鈴木 智也

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1――第2弾までの金融経済対策は「総額1.6兆円」規模、日銀も動き出す

各国は感染拡大の防止策を強化するとともに、企業への資金繰り支援策を矢継ぎ早に打ち出している。日本では、2月13日の「新型コロナウイルス感染症に関する緊急対応策」(第1弾)および3月10日の同(第2弾)を通じて、総額1.6兆円規模の融資・保証枠が措置された。また3月16日には、日銀も金融政策決定会合を前倒しで開催し、企業金融支援のための措置として、中小企業等に融資する金融機関に低利で資金を貸し出す「企業金融支援特別オペ」の導入や、大企業の資金調達手段であるCP・社債等の追加買入枠の増額などを内容とする追加緩和策を決めている。

さらに金融庁は、リーマン・ショック時の2009年から2013年まで実施してきた「中小企業金融円滑化法」の枠組みを実質的に復活させ、資金繰り支援を一気に強化する動きも見せている。金融円滑化法は、当時「モラトリアム法」とも呼ばれ、本来であれば市場から退場すべき「ゾンビ企業」を延命したとして批判も強かった。しかし、足元では長引く経済活動の自粛により、企業の経営は急速に悪化しつつある。今のところ、金融システムの健全性は維持されているため、クレジット・クランチ(信用収縮)が生じる事態とはなっていないが、多くの企業が支払い等の集中する年度末を迎える中、資金繰りへの対策が急務となっている。

2――総動員された企業の資金繰り支援策

これまでに政府が実施することを決めた資金繰り対策[図表1]は、主に信用保証協会と日本政策金融公庫が担うことになる。信用保証協会が担うのは、金融機関が中小企業へ融資した際に保証人となる「セーフティネット保証」だ。新型コロナウイルスの感染拡大で被害を受けた中小企業は、市町村の認定を受けることで、一般保証(通常の保証限度額2.8億円)とは別枠で、借入債務の保証を受けることができる。セーフティネット保証には、現在1号から8号までの区分が設定されているが、今回の新型コロナウイルスの影響拡大に伴って「4号:突発的災害(自然災害等)」が発動され、「5号:業況の悪化している業種(全国的)」についても、対象業種が追加(宿泊業や飲食業等)された。それぞれ対象となる業種は異なるが、4号では、売上高が前年同月比▲20%以上減少している等の要件1を満たせば、借入債務の100%保証を追加で最大2.8億円受けることが可能となり、5号では、売上高が前年同月比▲5%以上減少している等の要件2を満たせば、借入債務の80%保証を追加で最大2.8億円(4号と同枠)受けることが可能となる。また、今回は4号および5号とは別枠で、さらに最大2.8億円の100%保証を受けることができる「危機関連保証」が発動されている(制度創設以来初の発動)。政府としては、平時の一般保証に2階(セーフティーネット保証)、3階(危機関連保証)を重ね、合わせて3階建ての保証とすることで、企業の資金繰り対策に万全を期したいとの考えだ。

他方、日本政策金融公庫が担うのは、業況が一時的に悪化した中小企業が、経営基盤の強化を図る際に利用することのできる「セーフティネット貸付」だ。2月13日に発表された緊急対応策第1弾では、セーフティネット貸付の対象となる要件を緩和している。さらに、3月10日に発表された緊急対応策の第2弾では、中小企業やフリーランスを含む個人事業主が、実質的に無利子・無担保で融資を受けることのできる「特別貸付制度」を新たに創設した。売上高が前年または前々年の同期比▲5%以上減少している等の要件3を満たせば、特別貸付を受けられる(融資限度額は、フリーランス等の個人事業主も含む小規模事業者は6,000万円、中小企業者は3億円。)すでに第1弾で緊急融資を受けた企業も要件を満たせば、今年1月29日まで遡って同制度を利用することができる。特別貸付では、3年間は基準利率から▲0.9%となる金利で融資を受けることが可能だ(ただし、金利引き下げの対象となる限度額は、小規模事業者が3,000万円、中小企業者が1億円まで)。また、より厳しい経営状況に置かれている事業者のためとして、一定の要件を満たした中小企業者等に対して、基準金利から▲0.9%が適用される部分について利子補給が受けられる「特別利子補給制度」も準備している。
[図表1]経済危機時における政府の主な資金繰り支援策
さらに、金融庁もリーマン・ショック時の2009年から2013年まで実施してきた「中小企業金融円滑化法」の枠組みを復活させようとしている。3月18日付の日本経済新聞4に掲載された、金融庁の遠藤俊英長官のインタビュー記事によれば、金融庁は「銀行法にもとづき大手行や地方銀行などに対し、中小企業の当面の資金繰りを支えるための対応状況」の報告を求め、「融資先に元本や金利を含めた返済猶予など貸し付け条件の変更に柔軟に応じるよう促す」としている。
 
1 中小企業庁HPを参照「https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/sefu_net_4gou.htm
2 中小企業庁HPを参照「https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/sefu_net_5gou.htm
3 日本政策金融公庫HPを参照「https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/covid_19_m.html
4 日本経済新聞社「資金繰り支援 機動的に 金融庁長官、円滑化法「復活」」(2020年3月17日)

3――年度末を迎える中、中小企業等への万全な資金繰り支援策を

[図表2]国内銀行の貸先別貸出残高(業種別・規模別) 日本国内の銀行による貸出残高は約514兆円。そのうち約4割の217兆円が中小企業向けの貸出となっている。業種別には、「個人」を除けば「不動産業」向けが最も多く、次いで「製造業」「金融業、保険業」「地方公共団体」などが多くなっている[図表2]。
[図表3]全国倒産件数 今回のコロナ・ショックでは、2008年のリーマン・ショックとは、逆の経路をたどって企業に影響が及ぶことになる。過去、リーマン・ショックが起きた際には、金融機関の流動性危機が信用収縮につながって実体経済を悪化させてきた。しかし、今回のコロナ・ショックでは、感染拡大の防疫策が需要を瞬間に蒸発させ、失業や企業倒産の増加につながり、実体経済を悪化させて金融危機へと波及するリスクが指摘される。
[図表4]金融機関の貸出態度(実績) 東京商工リサーチの調査によれば、2020年2月時点の全国倒産件数は651件(前年同月比+10.7%、前月比▲15.8%)と、まだハードデータには影響がそれほど表れている訳ではないが、3月からの結果は心配な状況にある[図表3]。金融機関の貸出態度も、昨年末時点では悪くない水準にあった[図表4]。現在もまだ、クレジット・クランチ(信用収縮)が生じる事態とはなっていないが、事態は急速に悪化しつつあり、万全な資金繰り支援策が急務と言えよう。
 
 

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矢嶋 康次 (やじま やすひで)

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鈴木 智也 (すずき ともや)

(2020年03月19日「研究員の眼」)

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