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韓国政府、新型コロナ対策に31.7兆ウォン(約2.9兆円)の財源を投入

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中
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自営業者や中小企業の被害が拡大
新型コロナウイルスが長期化することにより、韓国経済も大きな打撃を受けている。株価は大きく下がり、ウォン売りも続いている。製造業の場合、中国からの部品が安定的に供給されず、生産計画に狂いが生じており、観光客の急減により旅行業界の被害も拡大している。また、新型コロナウイルスによる肺炎感染を恐れて外食や商店街など人が集まる場所への外出が減り、民間消費も大きく萎縮している。
特に、韓国では就業者に占める自営業者(特に零細自営業者)の割合が高く、新型コロナウイルスによる民間消費の減少が自営業者に与える影響は他の国に比べて大きい。OECD Dataに公表されている韓国における自営業者の割合は2018年時点に25.8%でOECD加盟国の中では、ギリシャ(33.5%)、トルコ(32.0%)、メキシコ(31.6%)、チリ(27.1%)に次いで5番目に高く、日本の10.3%を大きく上回っている。
補正予算を用いて政府が推進すべき対策(複数回答)としては、「被害を受けた企業に対する特別保証及び支援拡大」(62.0%)、「雇用維持支援金の拡大」(47.3%)、「関税や国税などの税金納付を一時的に猶予する措置の実施」(45.7%)が上位3位を占めた。
新型コロナウイルス対策に約31.7兆ウォン(約2.9兆円)の財源を投入
1)防疫支援
感染者が集中している大邱や慶北地域の医療機関や脆弱階層に対して総計700万枚のマスクが無料で支給される。また、バスやタクシードライバーなど、人と接触が多い職種に従事している人に対して約150万枚のマスクを優先的に支給する。
2)消費活性化対策
クレジットカード決済に対する所得控除率を使用金額の15~40%から30~80%に拡大・適用すると共に自動車購入時に適用される個別消費税を70%引き下げる(上限は100万ウォンで2020年3月から6月までに臨時的に実施)。また、地域における消費を喚起・下支えするため、地域限定商品券の発行規模を3兆ウォンから6兆ウォンに拡大し、商品券購入時の割引率を5%から10%に拡大・適用する。さらに、省エネ家電を購入した場合には支払い金額の10%が還元される。
3)自営業者や中小企業・小商工人に対する対策
零細自営業者に対して付加価値税の減税を来年末まで実施する。これにより約90万人の零細自営業者の税負担が1年基準で平均20万ウォンから80万ウォンの間で減り、2年間で総額約8000億ウォンが減税される。また、超低金利融資の規模を1.2兆ウォンから3.2兆ウォンまで増額し、小商工人に対する経営安定資金融資の貸出金利も2.3%から1.5%まで引き下げる。
さらに、民間の建物の持ち主が小商工人の賃貸料を引き下げると、引き下げた金額の50%に相当する金額を所得税や法人税から減免すると共に、政府が所有している建物などの賃貸料も今年末までに3分の1水準まで引き下げる。
4)その他の対策
保育園の休園などにより緊急に保護者が休暇を使った場合、所得が減少することを補償するために8歳以下の児童を養育する保護者を対象に1日5万ウォンを最大5日まで支給する(夫婦合算で最大50万ウォンが支給される、ひとり親世帯は最大10日間利用可能)。また、高齢者就業支援事業(高齢者の雇用支援のために高齢者だけが支援できる業務を紹介する事業)に参加している高齢者が報酬の30%を商品券で受け取った場合、総報酬の20%にあたる商品券を追加的に支給する。さらに、低所得層には9万ウォン相当の商品券を支給する。
また、韓国政府は3月4日に、上記の16兆ウォンの景気対策とは別に、新型コロナウイルスの感染拡大による被害を最小化するための防疫強化と中小企業支援のために11.7兆ウォン規模の追加補正予算案を編成した。予算は感染病の検疫と診断、防疫体制の高度化、被害を受けた中小企業への支援、消費促進や雇用安定支援などに使われる予定である。
韓国政府が20兆ウォンに達する景気対策と11.7兆ウォンの追加補正予算案を合わせて31.7兆ウォンの財源を投入すると発表した理由は、2003年や2012年に流行したサーズ(SARS)やマーズ(MARS)に比べて今回の新型コロナウイルスの感染拡大が韓国経済により大きな被害を与える可能性があると判断したからである。
韓国政府のこのような景気対策が新型コロナウイルスにより被害を受けた自営業者や中小企業、そしてすべての国民に勇気や希望を与え、苦難を乗り越える力に繋がることを心からから願うところである1。
1 本稿は、「日韓を読み解く:韓国政府、新型コロナウイルス対策で手厚い弱者救済策」ニューズウィーク日本版2020年3月6日を加筆修正したものです。 https://www.newsweekjapan.jp/kim_m/2020/03/post-15.php
(2020年03月10日「基礎研レター」)

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任
金 明中 (きむ みょんじゅん)
研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計
03-3512-1825
- プロフィール
【職歴】
独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職
・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
・2021年~ 専修大学非常勤講師
・2021年~ 日本大学非常勤講師
・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
・2024年~ 関東学院大学非常勤講師
・2019年 労働政策研究会議準備委員会準備委員
東アジア経済経営学会理事
・2021年 第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員
【加入団体等】
・日本経済学会
・日本労務学会
・社会政策学会
・日本労使関係研究協会
・東アジア経済経営学会
・現代韓国朝鮮学会
・韓国人事管理学会
・博士(慶應義塾大学、商学)
金 明中のレポート
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2025/03/28 | 韓国における最低賃金制度の変遷と最近の議論について | 金 明中 | 基礎研レポート |
2025/03/18 | グリーン車から考える日本の格差-より多くの人が快適さを享受できる社会へ- | 金 明中 | 研究員の眼 |
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