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- 認知症介護の実態(1)-認知症高齢者のボリュームと公的サービスの受給状況
コラム
2020年03月09日
認知症に対する社会的な関心が高まる中、生保業界においても認知症特化型の保険商品の発売が相次いでいる。実際に、年初からのこの2か月ほどの間にも、新たに2社から新商品が発売されている。先行する各社の商品を含め、消費者にとっては、認知症への備えに関する選択肢の幅が拡がることにつながる上、これらの商品では認知症の一歩手前の段階ともいわれる軽度認知障害(以下、MCI)についても保障対象とするほか、認知症予防や早期発見に関わる付帯サービスもあるなど、従来の民間生保の介護保険商品とは一線を画するものとなっていることから、今後の加入動向は大いに注目されよう。後述するとおり、高齢化の伸展に伴って急増する認知症への対応は社会的要請でもあり、こうした保険商品の登場・充実は歓迎すべきところであるともいえよう。
実際のところ、認知症やMCIの有病者はどれくらい存在し、そうした方々の介護の実態はどのようになっているのだろうか。本稿以降では数回に分けて、認知症およびMCI状態の者の人口ボリュームおよび介護の実態や家族介護者の意識について概観していく。
実際のところ、認知症やMCIの有病者はどれくらい存在し、そうした方々の介護の実態はどのようになっているのだろうか。本稿以降では数回に分けて、認知症およびMCI状態の者の人口ボリュームおよび介護の実態や家族介護者の意識について概観していく。
認知症高齢者およびMCIの人口ボリューム
要介護度の認定状況については、行政への報告義務もあることから、かなり詳細な統計が整備されているものの、認知症については、現在のところ整備されているとは言い難い状態にあるようである。そのなかで、厚生労働省の公表資料に掲載の平成24年度の推計によれば、認知症の日常生活自立度II以上1の認知症高齢者は2010年時点の280万人、65歳以上高齢者人口に占める割合9.5%から2020年には同410万人、11.3%に、2025年には同470万人、12.8%に達するとされている(図表 1)。また、同資料中の別な推計では、認知症高齢者の総数は約462万人、MCIの状態にある者が約400万人とされている。推計時点における65歳以上高齢者人口は3,079万人となっていることから、65歳以上高齢者のうちおおよそ6~7人に1人は認知症、4人に1人は認知症またはMCIの状態にあることになる。
このような認知症およびMCIの方の出現率が一定と仮定すれば、2015年時点の65歳以上高齢者3,347万人のうち、認知症高齢者は502万人、MCIの状態にある方は435万人と、高齢者人口の増加に伴いそれぞれ増加することとなる。
1 認知症の日常生活自立度とは、認知症の程度を踏まえた日常生活自立度の程度を表す指標として介護保険制度の要介護認定調査や主治医意見書で用いられるものである。認知症の日常生活自立度はI~IVおよびMの5段階(うちII、IIIはさらにa、b2段階)に区分されており、II以上は、日常生活に支障を来たすような症状・行動や意思疎通の困難さがみられる状態を指す。
1 認知症の日常生活自立度とは、認知症の程度を踏まえた日常生活自立度の程度を表す指標として介護保険制度の要介護認定調査や主治医意見書で用いられるものである。認知症の日常生活自立度はI~IVおよびMの5段階(うちII、IIIはさらにa、b2段階)に区分されており、II以上は、日常生活に支障を来たすような症状・行動や意思疎通の困難さがみられる状態を指す。
公的介護サービスの受給者数
一方、認知症関連の公的介護サービスについて、厚生労働省「介護給付費等実態調査報告」から実利用者数の推移をみると、介護予防を含む認知症対応型の「通所介護(デイサービス)」は2010年度以降8~9万人とほぼ横ばいで推移しているのに対し、「共同生活介護(グループホーム)」は2010年度の約19万人から2018年度には約26万人と1.3倍に増加している(図表 2)。要介護度の高い認知症高齢者では、施設入所している方も多いと想定されるものの、これらの居宅型のサービス利用者数を合算しても約34万人に留まっていることは、認知症の日常生活自立度が低い高齢者や、そもそも認知症対応型の介護サービスを受ける状態にはないMCIの方などでは、これらの公的な介護サービスを利用することなく、家族等の介護を受けつつ在宅での生活を継続しているものと考えられる。
このように、認知症に対して社会的な関心が高まる背景には、認知症やその前段階といわれるMCIの状態にある者の増加があり、両者を合わせると65歳以上高齢者の4人に1人、2015年時点でも約900万人にのぼっている。一方で、公的な介護サービスについては、認知症対応型介護サービスの利用者は限られているのが現状であり、在宅で生活している認知症やMCIの状態にある方の多くは、その他の居宅系の介護サービスを利用するか、家族などの介護を受けているものと思われる。
このように在宅で暮らす認知症やMCIの状態にある方の背後には、既に身寄りがなく独居である場合を除き、家族が何らかのサポートを提供することで生活が成り立っている部分もあろう。次回は、弊社が昨年7月に実施した調査結果を用いて、認知症やMCIの状態にある方の介護を担う家族介護者の状況について概観した結果を示す。
このように在宅で暮らす認知症やMCIの状態にある方の背後には、既に身寄りがなく独居である場合を除き、家族が何らかのサポートを提供することで生活が成り立っている部分もあろう。次回は、弊社が昨年7月に実施した調査結果を用いて、認知症やMCIの状態にある方の介護を担う家族介護者の状況について概観した結果を示す。
経歴
(2020年03月09日「研究員の眼」)
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