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- 生命保険の相場感-保険料・保障額の相場感の形成要因
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次いで、保障額の相場感についての結果をみると、全体では「テレビ番組」「カタログ・パンフレット」「個別企業サイト」「まとめサイト」「フリーペーパー」「新聞(一般紙)」「新聞(専門紙・業界紙)」の順に正の影響を示している〔図表7〕。保険に関する取引経験を表す「年間支払保険料」が効果は弱いながらも負の影響を示し、主観的評価の影響が大きい一方で、客観的知識の保険料の相場感に対する影響は統計的には認められない点は保険料の相場感に関する分析と同様の結果となっている。
年代別に分析した結果についてみると、20代では「カタログ・パンフレット」「ブログ・Twitter・SNS」で正の、「セミナー・イベント」で負の影響を、30代では「動画サイト」「カタログ・パンフレット」で正の影響を示している。また、40代では「雑誌・書籍」「ポータルサイト等」「カタログ・パンフレット」「テレビ番組」「セミナー・イベント」の順に正の、50代では「個別企業サイト」「新聞(一般紙)」「まとめサイト」「テレビ番組」「フリーペーパー」の順に正の、「店頭」で負の影響を、それぞれ示している。同様に60代では「テレビ番組」「まとめサイト」「個別企業サイト」「ダイレクトメール」「カタログ・パンフレット」「フリーペーパー」の順に正の影響があることがわかる。
一方、「年間支払保険料」については、保険料・保障額ともに相場感に対し有意に負の影響が示されたことは、相場感を有する消費者の方が保険料支出に対し抑制的であることを示している。
このほか、生命保険に対する知識については、客観的知識については有意な結果が得られず、主観的評価が有意に正の影響があり、係数としても最も大きくなっていた。このことは、保険料や保障額について相場感がある、という消費者の認識が自身の保険知識に対する自信の程度を表すものとなっているものの、必ずしも客観的にみた消費者自身の保険知識の程度を表すものではないことを意味しているといえよう。
4――結果とインプリケーション
これまでみてきたように、保険料や保障額について相場感があるとする者の割合は、いずれも約3割となっている。属性別では保険料・保障額のいずれについても性別では女性で、年代別では高齢層ほど高く、既婚者、特に三世代同居の共働き世帯や夫婦のみの片働き世帯で高い。加入の有無別では、当然ながら加入者の方が非加入者に比べ高く、加入者の中では保険種類2種類以上の加入者で相場感が高くなっていた。生命保険に関する知識水準別にみると、客観的知識、主観的評価のいずれについても相場感がある者の割合は保険料・保障額ともに高知識層や高評価層ほど高い。客観的な知識と主観的評価との間にミスマッチがある層に着目すると、中知識・高評価、低知識・高評価では高知識・高評価と同様、半数を超えて高い。これに対し、客観的知識が高いにも関わらず主観的評価が中程度以下の層では、高知識・中評価を除く層では全体に比べ低くなっている。
一方、こうした相場感の形成要因については、保険料・保障額ともに「テレビ番組」や「新聞(一般紙)」「新聞(専門紙・業界紙)」「フリーペーパー」などのマス媒体のほか「個別企業サイト」や「まとめサイト」といったウェブ媒体、「カタログ・パンフレット」との接触を通じて、保険料については加えて「ポータルサイト等」のほか「役所の広報」「家族や友人・知人」などの情報源との接触を通じて、それぞれ形成されているほか、世代により異なる情報源との接触が寄与しているものや、「セミナー・イベント」や「動画サイト」など同じ情報源であっても世代により相場感への影響の方向が異なる様も示された。また、保険に関する取引経験については、「保有契約種類数」の影響は確認されず、「年間支払保険料」については保険料・保障額ともに有意に負の影響が示された。このほか、生命保険に対する知識については、客観的知識については有意な結果が得られず、主観的評価が有意に正の影響があり、係数としても最も大きくなっていた。このことは、保険料や保障額の相場感については、世代により異なる各種の情報源との接触を通じて形成されているものの、必ずしも正確な知識に基づくものではないこと、一方で、相場感を有するようになることは、家計における保険料支出の抑制に向けた動機づけとなっている可能性があることを意味している。
生命保険の保険料については、本来、商品性や保障の範囲、保障額など様々な要因により異なるほか、それぞれの保障領域においてどの程度の保障額が必要となるかは、家族構成や家計の状況、消費者個々の保障に対する考え方によっても異なるものである。一方で、冒頭でも触れたように、消費者の保険料の相場や目安に関する関心は若干の季節変動はあるものの総じて高い水準を維持し続けている。どのような者が、どのような経緯から相場感を有するようになるのか、また、保険料や保障額に対する相場感を有することが消費者にとってどのような効用や弊害をもたらすのかを明らかにすることは、消費者コミュニケーションを検討する上で、有益な示唆を得ることにつながることが期待できる。
本稿の分析から、相場感を有するものは女性や高齢層、複数種類の保険契約経験を有する者に比較的多く、保険に関する知識については、自身の保険知識についての主観的評価が高い者ほど多くなっていることが示された。また、日常生活の中で相場感の形成に寄与する情報源には、世代によりそれぞれ差異があることも明らかとなった。(公財)生命保険文化センターの「令和元年度 生活保障に関する調査」によれば、生命保険・個人年金保険の加入率は女性の方が高くなっていることや、一般に、年齢を重ねるにつれて加入経験も増えていくと考えられることを踏まえれば、相場感は自身の加入経験を通じて自ずと形成されていくことに疑いの余地はなかろう。一方で、主観であれ客観であれ、保険に関する知識を身につけることは、性別や年代を問わず相場感の形成に寄与しており、その結果、家計における保険料支出を抑えることにもつながっている。ただし客観的知識と主観的評価のミスマッチ、とりわけ客観的にみて十分な知識がないにも関わらず、自己評価のみが高い層における相場感は、過度な保障の抑制により本来必要であるはずの保障が十分に確保できずリスクに晒されていることも危惧される。
前述の通り、日常生活の中で接する各種の情報源を通じて得た情報が消費者自身の相場感の形成につながっているのであれば、これらの情報源を通じて売り手側から正しい情報を積極的に提供し、より正しい知識を得てもらうために活用していく方法もあろう。ただし消費者とのコミュニケーションにおいて、正しい情報を伝え理解を促すためには、接点となる情報源(媒体)のみならず、情報の内容(コンテンツ)や状況(コンテキスト)まで踏み込んで把握していくことも不可欠といえる。残念ながらデータの制約もあり、本稿の分析ではコンテンツやコンテキストまでは明らかにできていない。どのようなコンテンツを、どのようなコンテキストの中で発信していくか、筆者自身の今後の研究課題とするとともに、売り手側の創意にも期待したい。
保険に関する客観的な知識水準は以下の10項目について「正しい」「正しくない」「わからない」の選択肢を示して内容の正否を訊ねた結果について、8点以上を「高知識」、5~7点を「中知識」、4点以下を「低知識」としたものである。
1.医療保険やがん保険などでは、病気の種類や病状によっては、保険金・給付金が受け取れない場合がある
2.がん保険に加入しても当初の3か月間はがんと診断されても保険金・給付金が受け取れない
3.一般的な医療保険では女性特有の疾病への備えにならない
4.定期保険は保障期間満了時に満期金を受け取れる
5.一度入院して給付金を受け取ると、その後は保険料が上がる
6.保険金や給付金は契約で定められた受取人以外は請求できない
7.インターネットからは保険に加入できない
8.生命保険会社が破綻したらこれまで掛けてきた保険がすべて無駄になる
9.複数の会社の医療保険に加入していても1社からしか給付は受けられない
10.外資系の保険会社に加入しても、その会社が日本から撤退すると、掛けてきた保険がすべて無駄になってしまう
1.自分の保障ニーズは何か
2.契約概要、注意喚起情報、ご契約のしおりの内容
3.保険会社の責任開始時期 4.告知義務
5.保険金・給付金が受け取れない場合
6.クーリングオフ制度
7.保険料の払込猶予期間・失効・復活
8.転換制度、追加契約、特約の途中付加、乗換
9.解約に伴う不利益
10.問い合わせ・相談先
11.保険会社の経営破綻時の契約者保護の仕組みについて
(2020年02月21日「基礎研レポート」)
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