2020年02月21日

Z世代の情報処理と消費行動(4)-若者マーケティングに対する試論(2)

生活研究部 研究員 廣瀨 涼

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前回の要約

・若者を属性でセグメンテーションすることは困難である。代わりに筆者は「クラスタ」を用いたターゲティングを提案する。

・若者文化の文脈では「クラスタ」とは“仲間や〇〇が好きな人たち”という意味で「オタク」と同義で使われている。併せて、若者はオタクという言葉自体を“趣味”という意味合いで使用するため、オタクを趣味から転じてアイデンティティと同義で使っている。以上を整理するとクラスタはZ世代にとって「アイデンティティ」を構築するものであるといえる。

・クラスタ内ではブランド、色、雰囲気など「世界観」が共有されている。
 

1――若者が持つ複数の顔

1――若者が持つ複数の顔

前回のレポート1で述べた通り、若者の中には趣味を通して他人と繋がり合うことで、クラスタ内で共有意識や帰属意識を持とうとし、ファッションが他のクラスタメンバーと画一化していく者もいる。ファッションが自身のアイデンティティを表現していた時代とは反対に、自身のアイデンティティ(趣味)がファッションに影響を与えていると捉えることもできるだろう。そのため、その日の自身のアイデンティティによってファッションの系統が異なり、一人の若者を○○系とカテゴライズすることが困難になった。同様に、若者はその場その場でアイデンティティの源泉(クラスタ)に対して演じるキャラを変えることで、自身の居場所を生み出している。
表1 若者のつながりの数
電通若者研究部は「若者が所属しているグループ数」を調査したところ2010年で平均4つであったが、2015年ではSNSの普及により平均7つと増加している(表1)。また、同調査では「日常において何人のキャラを使い分けているか」聞いたところ高校生は平均5.7キャラを使い分けていることが分かっている2(表2)。
表2 一人当たりの演じているキャラ数
これらのことから若者は自身が所属するコミュニティや趣味仲間ごとに他人に見せる顔を使い分けていると推測できる。そして、その顔の一つ一つが自身のアイデンティティであり、一人の若者は様々な世界観(ハッシュタグ)で構成されていると考えることができるのではないだろうか。(図1)。
図1 一人の若者は様々なハッシュタグから構成される
 
1 廣瀨涼(2020)「Z世代の情報処理と消費行動(3)若者マーケティングに対する試論(1)」『基礎研レター(2020/02/12)』https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=63634?site=nli
2 出所:電通若者研究部「若者まるわかり調査2015」 https://www.dentsu.co.jp/news/release/pdf-cms/2015038-0420.pdf (2020/01/30 閲覧)
3 SHIBUYA109lab/産業能率大学経営学部小々馬ゼミ「新世紀JKリアル図鑑2019」https://www.kogoma-brand.com/wp-content/uploads/2019/05/4e3539e8bb42780ba40035751e227f13.pdf (2020/01/30閲覧)
 

2――一人の消費者は多様な“ハッシュタグ”で構成されている

2――一人の消費者は多様な“ハッシュタグ”で構成されている

電通ギャルラボの「2017年“#女子タグ”発掘のための女子大生調査」4によると調査対象の81.8%が、何かしらのジャンルのオタクであり、一人当たり平均5.1個のジャンルにおいてオタク的資質を持ち合わせていたという。特にZ世代は趣味や興味の対象も多く、様々な“オタク”であり、その日その日で演じるキャラや嗜好も異なる。以上を整理すると、若者はその日の気分や最近の自身の中での流行によって「今」の自分を構成するハッシュタグを選択していると言える。

このことから、筆者は、「女子高生」、「17歳」、「原宿系」といった属性でセグメンテーションするのではなく、共有されたアイデンティティであるハッシュタグに基づいてターゲティングすることが有効的であると考える。ハッシュタグに基づくターゲティングは属性に基づくセグメンテーションよりも消費傾向やトレンドが把握しやすいという利点があるだけでなく、消費者自体がクラスタ内で画一的な消費を行うため、ハッシュタグの持つ世界観を顧みて消費してくれるという利点がある。

また、従来の〇〇系という分類では属性を明確にしたうえで消費者にアプローチをする必要があったため、見た目や年齢で消費者を分断する必要があった。
図2 外見は違っても同じハッシュタグ(世界観)を共有している可能性がある
しかし、消費者をハッシュタグごとにみると、一見別の世界に住んでいる消費者同士でも繋がることがある。例えば図2では、前回のレポートで取り上げたSHIBUYA109ラボ/産業能率大学小々馬ゼミの調査で分類された女子高生のグループから、クラスで注目される存在である「パリピJK」とファッションに興味のない「無気力JK」のイメージを挙げた。2人の見た目は大きく異なり、従来の外見によるセグメンテーションでは、2人はそれぞれ違う属性として扱われ、マーケットも異なるだろう。しかし、見た目が違っていても、同じタグを持つアイデンティティが同じ人たちを一つのグループとして捉え、そこにマーケットを見いだすことが可能になる。図2を例に挙げると、二人はファッション市場においては同じターゲットとして括られることはないが、ディズニー好き、洋楽好きなど4つ同じ世界観(タグ)を共有しており、4つの市場で2人を同一ターゲットとしてみなすことができる可能性があるのである。
 
4 阿佐見綾香「電通ギャルラボの「#女子タグ」マーケティングとは?」(電通報2018/11/06)https://dentsu-ho.com/articles/6336(2020/02/13閲覧)
 

3――アイドルオタクもアニメオタクもK-popオタクも共有しているものとは

3――アイドルオタクもアニメオタクもK-popオタクも共有しているものとは

またジャニーズ、アニメそれぞれのInstagramの投稿を見ると、アイドルとアニメという住みわけがハッキリされている一方で「#手作りうちわ」という同じハッシュタグが使われていることがわかる。これはもともと70年代のアイドル親衛隊の系譜を踏んでいるジャニーズオタクの中で浸透していた「うちわをもって応援する」という文化が他のサブカルチャーに流入し、好きな人を応援するツールとして定着していったからである。そのため、アニメに限らずK-popのクラスタでもこのハッシュタグが用いられている。これは「うちわ」を媒介として様々なクラスタが間接的に繋がりあり、てづくりうちわ市場は様々なコンテンツ(クラスタ)に対して市場可能性を有していることを意味する。
図3 クラスタは異なるが使われているハッシュタグが同じ場合がある
例えば、100円ショップのSeria(セリア)やダイソーは数年前から手作りうちわを手軽に作成できる材料を販売している。また、大型CDショップのタワーレコードではうちわを痛めないためのうちわ専用ケースを販売するなど、それぞれニッチな商品ではあるが、オタクたちから支持されている。

以上のことから、クラスタに基づくセグメンテーションは、(1)クラスタ内で消費が画一化するため消費傾向が把握しやすい点、(2)属性では分断される消費者もクラスタは同じである可能性がある点、(3)消費者同士の間接的な繋がりを見つけやすい点、の3つのメリットがあると筆者は考えている。
 

4――まとめ

4――まとめ

ここまでを整理するとZ世代は、嗜好による繋がりによって構成される“クラスタ”が存在しており、各クラスタはそれぞれ世界観(ハッシュタグ)を持っている。世界観とは、ブランド、色、雰囲気などそのクラスタが共有している自分たちのアイデンティティのことで、SNSにおいてはハッシュタグを用いて共有される。特にZ世代は一人の消費者が持つ趣味嗜好が多様でそれぞれが自身のアイデンティティとなっている。そのため一人の消費者は様々な世界観(ハッシュタグ)によって構成されている。以上のことからZ世代のように多様化する若者をターゲティングする際には、年齢や属性によってセグメンテーションをするよりもクラスタ(世界観を共有する消費者群)に訴求するようなアプローチが有効的であると筆者は考える。

次回からは若者が使用する「ウチら」という言葉から、Z世代の消費の性質を考えてみたいと思う。
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生活研究部   研究員

廣瀨 涼 (ひろせ りょう)

研究・専門分野
消費文化、マーケティング、ブランド論、サブカルチャー、テーマパーク、ノスタルジア

経歴
  • 【経歴】
    2019年 大学院博士課程を経て、
          ニッセイ基礎研究所入社

    【加入団体等】
    ・経済社会学会
    ・コンテンツ文化史学会
    ・余暇ツーリズム学会
    ・コンテンツ教育学会
    ・総合観光学会

(2020年02月21日「基礎研レター」)

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