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- Z世代の情報処理と消費行動(3)-若者マーケティングに対する試論(1)
2020年02月12日
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1――なぜ若者マーケティングは難しいのか
また以前は音楽ジャンルの系譜を踏んだ「渋谷系」や「原宿系」といったエリアで若者を分類していたが、エリアごとの文化の境界線が無くなりつつある。例を挙げると、「原宿系」のファッションブランドは、原宿に限らずどこでも購入できるわけで、「原宿系」という言葉はエリアそのものではなく、ジャンルそのものを指していることが分かる。原宿には「原宿系」以外の若者も多く生息しており、原宿にいる女の子という文脈でターゲティングすると多種多様なジャンルの女の子が含まれてしまうのである。
個人レベルでみても、従来なされてきた“○○系”というカテゴライズは不毛なものになりつつある。特に女子大生に多いが、ファッションの系統がその日、その日で異なる。理由は外出する機会やその時の嗜好によって服装が変わるからである。TPOに合わせていると考えることもできるだろう。そのため、ある1日を切り取りその子を○○系と決めつけることに、筆者はもはや意味がないと考えている。以上のような背景から若者を属性でセグメンテーションすることは困難であると考える。ではどのようにZ世代(1996~2012年の間に生まれた世代)の若者をターゲティングするべきなのか。筆者は「クラスタ」を用いたターゲティングを提案する。
1 SHIBUYA109lab/産業能率大学経営学部小々馬ゼミ「新世紀JKリアル図鑑2019」https://www.kogoma-brand.com/wp-content/uploads/2019/05/4e3539e8bb42780ba40035751e227f13.pdf (2020/01/30閲覧)
個人レベルでみても、従来なされてきた“○○系”というカテゴライズは不毛なものになりつつある。特に女子大生に多いが、ファッションの系統がその日、その日で異なる。理由は外出する機会やその時の嗜好によって服装が変わるからである。TPOに合わせていると考えることもできるだろう。そのため、ある1日を切り取りその子を○○系と決めつけることに、筆者はもはや意味がないと考えている。以上のような背景から若者を属性でセグメンテーションすることは困難であると考える。ではどのようにZ世代(1996~2012年の間に生まれた世代)の若者をターゲティングするべきなのか。筆者は「クラスタ」を用いたターゲティングを提案する。
1 SHIBUYA109lab/産業能率大学経営学部小々馬ゼミ「新世紀JKリアル図鑑2019」https://www.kogoma-brand.com/wp-content/uploads/2019/05/4e3539e8bb42780ba40035751e227f13.pdf (2020/01/30閲覧)
2――クラスタ=オタク=アイデンティティ
「クラスタ」と聞いて統計におけるクラスター分析を思い浮かべる人もいるかもしれないが、ここでいうクラスタとは若者が使う俗語を指す。本質はクラスター分析と同じで“群れ、房、固まり”といった意味を持つが、若者はそこから派生して“仲間や〇〇が好きな人たち”という意味を持たせ「オタク」と同義で使っている。オタクというといわゆるマンガやアニメが好きな根暗なアキバ系をイメージするかもしれないが、現在、オタクという言葉が担う意味は幅広い。
廣瀨(2019)で論じたが、オタクという言葉が「マニア」や「コレクター」という意味を含むことから、何かしらの対象や趣味に集中して消費することがオタク的であるという考え方が一般的になっている2。誰かしら何かのオタク気質があるとされ、1億総オタク化社会が到来していると、考える者もいる。その結果、オタクという言葉自体が“趣味”を表し、若者特にZ世代は、オタクを趣味から転じてアイデンティティと同義で使っている。以上を整理するとクラスタはZ世代にとっての「アイデンティティ」となるわけである。
2 廣瀨涼(2019)「現代消費文化を覗く-あなたの知らないオタクの世界(5)」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=62179?site=nli
廣瀨(2019)で論じたが、オタクという言葉が「マニア」や「コレクター」という意味を含むことから、何かしらの対象や趣味に集中して消費することがオタク的であるという考え方が一般的になっている2。誰かしら何かのオタク気質があるとされ、1億総オタク化社会が到来していると、考える者もいる。その結果、オタクという言葉自体が“趣味”を表し、若者特にZ世代は、オタクを趣味から転じてアイデンティティと同義で使っている。以上を整理するとクラスタはZ世代にとっての「アイデンティティ」となるわけである。
2 廣瀨涼(2019)「現代消費文化を覗く-あなたの知らないオタクの世界(5)」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=62179?site=nli
3――繋がるZ世代
世の中にはありとあらゆる趣味が存在していて、趣味の種類だけその趣味を嗜好している人がいる。これはZ世代においても例外はなく、彼らのすべての嗜好対象を把握することは不可能であるが、その一部を観察することで、Z世代の消費傾向を探ることができるかもしれない。例えばTT総研の調査3ではZ世代の女子から人気のあるコンテンツの一部であるジャニーズオタク、声優オタク、2次元オタク、韓流オタク、LDH(EXILEなどの人気アーティストが所属する事務所)オタク、YouTuberオタクを図2のように整理している。この図では各オタクの消費傾向を整理し、消費行動の類似性からそれぞれのオタクを「#量産型オタク」「#お洒落さん」「#ピープス女子」の3つのグループに分類している。“量産型オタク”とはピンクや水色といったパステルカラーを好み、フリフリとしたレースやフリルを基調としたファッションを好む女子のことである。ライブ会場などで同じような服装をしているオタクが大勢いることから量産型と呼ばれている。“お洒落さん”とは白やベージュといった色を好み、ファッションや小物を大人っぽいものに統一してお洒落な世界観を演出している女子のことである。“ピープス女子”とはファッションカルチャー雑誌『ピープス』が言葉の起源となっているロックでダークを基調としたファッションやその文化を好む女子を指す。「ハッシュタグ」とは、TwitterやInstagramを中心としたSNSで、投稿内のタグとして使われるハッシュマーク「#(半角のシャープ)」がついたキーワードのことである。それぞれのオタクの関係性や分類はSNSのハッシュタグによって顕在化している。SNSにおいてハッシュタグは1つの共有された指標であり、ハッシュタグの共有はその価値観に対して同調しているユーザー同士で行われる。同じ「世界観」を共有しているとも言えるかもしれない。
例を挙げるとジャニーズ関連のハッシュタグはジャニーズに関する投稿にしか使われず、そのハッシュタグを用いることで交流をしたいクラスタを選別することができるのである。また特にInstagramにおいては1つの投稿に複数のタグを用いることで、自身の投稿をリーチさせたい範囲の拡大やリーチさせたい対象の選別を行うことができる。
図3は、ある2人のジャニーズオタクのInstagramの実際の投稿に使われたハッシュタグである。ハッシュタグには好きなグループやアイドルの名前、どういうオタクと繋がりたいのか、キーワードや愛用するブランドが記されている。2人の投稿を比較すると、上は図2でいう「#お洒落さん」、下は「#量産型オタク」と繋がりたいと明確に差別化されており、同じジャニーズクラスタ内でも繋がる(仲良くなる)相手を選別していることが分かる。一方で量産型オタクのハッシュタグそのものは、直接ジャニーズオタクを意味しているわけではないため、声優オタクや2次元オタクといった他ジャンルのオタクも共有しているのである。
図3は、ある2人のジャニーズオタクのInstagramの実際の投稿に使われたハッシュタグである。ハッシュタグには好きなグループやアイドルの名前、どういうオタクと繋がりたいのか、キーワードや愛用するブランドが記されている。2人の投稿を比較すると、上は図2でいう「#お洒落さん」、下は「#量産型オタク」と繋がりたいと明確に差別化されており、同じジャニーズクラスタ内でも繋がる(仲良くなる)相手を選別していることが分かる。一方で量産型オタクのハッシュタグそのものは、直接ジャニーズオタクを意味しているわけではないため、声優オタクや2次元オタクといった他ジャンルのオタクも共有しているのである。
例えばそれぞれのクラスタのハッシュタグを検索すると、ハッシュタグ内で同系色や同じファッションブランドが消費されていることが分かる。それぞれの色、ブランド、キャラクターは、クラスタ内での共通の記号であり、その記号を消費することはクラスタメンバーに対して同調性や親和性を要していることを発信する機能を持っている。言い換えるとそのクラスタの一員として見てもらうために、そのクラスタ内で多用されるハッシュタグを使用したり、共通の記号を消費したりすることは帰属意識の充足に繋がるのである。
次回はこのクラスタの性質からマーケティング戦略における若者へのアプローチ方法を検討する。
3 TT総研「第3回 ミライ・マーケティング研究会“オタクでクリエーターなZ世代はもはや新人類”」資料
次回はこのクラスタの性質からマーケティング戦略における若者へのアプローチ方法を検討する。
3 TT総研「第3回 ミライ・マーケティング研究会“オタクでクリエーターなZ世代はもはや新人類”」資料
(2020年02月12日「基礎研レター」)

03-3512-1776
経歴
- 【経歴】
2019年 大学院博士課程を経て、
ニッセイ基礎研究所入社
・公益社団法人日本マーケティング協会 第17回マーケティング大賞 選考委員
・令和6年度 東京都生活文化スポーツ局都民安全推進部若年支援課広報関連審査委員
【加入団体等】
・経済社会学会
・コンテンツ文化史学会
・余暇ツーリズム学会
・コンテンツ教育学会
・総合観光学会
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【Z世代の情報処理と消費行動(3)-若者マーケティングに対する試論(1)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
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