2020年02月10日

「データの利活用」と「プライバシー重視」を両立させる時代~CES2020『チーフプライバシーオフィサー・ラウンドテーブル:消費者は何を求めているのか?』でアップルとフェイスブックのプライバシー担当役員が語ったこと

立教大学ビジネススクール 大学院ビジネスデザイン研究科 教授   田中 道昭

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1――CPOラウンドテーブルにアップルとフェイスブックが登壇

ラスベガスで開催された世界最大級の家電・技術見本市「CES2020」の初日1月7日、「チーフプライバシーオフィサー(CPO)」によるパネルディスカッションがもたれた。多くのセッションがある中、このパネルディスカッションは最も注目を集めたものの一つである。本稿ではその詳細を紹介するともに、日本がとるべき対応という観点からも考察をこころみる。

このパネルディスカッションが注目された背景には、近年のプライバシーを重視する米国の社会情勢と相まって、チーフプライバシーオフィサーという米国でもまだ比較的新しい役職について関心が高まっていること、アップルが1992年以来28年ぶりにCESへ参加し、そのアップルのCPOが登壇すること、個人データ流出などでプライバシー問題の中心にあるフェイスブックのCPOも登壇することなどがあった。あわせて、日本の公正取引委員会にあたる連邦取引委員会(FTC)のコミッショナーが登壇することも話題になった。

筆者自身、GAFA等メガテック企業の「ビッグデータ×AI」の利活用に関連して、個人データの取り扱いやプライバシー対応に強い関心を持ち、このセッションに参加した。スピーカーによるパネルディスカッションのなかで、筆者が特に驚いたのが、プライバシー重視で高い評価を受けるアップルでさえも、規制当局からはプライバシー重視への取り組みが十分ではないと示唆された点であった。
 

2――アップルの「プライバシー・バイ・デザイン」と「データ・ミニマイゼーション」

2――アップルの「プライバシー・バイ・デザイン」と「データ・ミニマイゼーション」

このパネルディスカッションはアップルとフェイスブックのCPO、FTCのコミッショナーにくわえて、世界最大の消費財メーカーP&GのCPOも登壇、モデレーターを含めて5名によるものであった。

テーマは『チーフプライバシーオフィサー・ラウンドテーブル:消費者は何を求めているのか?(Chief Privacy Officer Roundtable: What Do Consumers Want?)』であった。成長するデータ・エコノミーや進化するテクノロジーという状況のもと、企業は消費者の個人データの取得や取扱いにどのように対峙し、消費者のプライバシーを保護する仕組みをどのように構築していくのか。そのような論点について議論がかわされた。

結果的にスピーカーの中心となったのが、アップルとフェイスブックであった。

アップルは、従来「プライバシーは、基本的人権です。」(アップルのコーポレートサイト)として、ティム・クックCEOの方針のもと厳格なプライバシー基準を設けユーザー保護をうたってきた。

パネルディスカッションに登壇したジェーン・ホバースCPOは、アップルのプライバシー保護の方針を「消費者を運転席に置くこと(to put the consumers in the driver’s seat )」と表現した。これは、ユーザーが個人データを自ら管理し、さらには個人データをどのように扱わせるかについて自ら選択するということを意味している。また、「プライバシー・バイ・デザイン(Privacy by Design)」というプライバシー方針に則って、ホバースCPOの部門にはプライバシー・エンジニアとプライバシー・ロイヤーが所属、チームとしてアップルのすべての製品・サービスの開発段階からかかわっていることが説明された。

さらに、ホバースCPOは「データ・ミニマイゼーション」にも言及した。これは、ユーザーから収集する個人データを最小限に抑える、活用する個人データを最小限に抑えるという概念であり、アップルのプライバシー方針のなかで極めて重要な位置をしめるものである。

同CPOは、アップルの音声認識AIアシスタント「Siri」を例にして、データ・ミニマイゼーションの考え方を示した。例えば、ユーザーが「Siri」に天気予報をたずねる場合、アップルはユーザーがいる場所を広域レベルで把握するだけで、より細かい位置情報は収集しない。一方で、ユーザーが近くのレストランを「Siri」にたずねる場合、アップルは最適なレコメンデーションをするために、ユーザーが位置する緯度・経度といったピンポイントのレベルまで探索する。つまり、アップルは、用途に応じて、必要最小限の個人データしか収集しないということである。
 

3――プライバシー問題の中心に置かれたフェイスブック

3――プライバシー問題の中心に置かれたフェイスブック

2018年4月の個人データ流出事件を受けて「未来はプライベートです。(the future is private.)」(2019年「F8」でのマーク・ザッカーバーグCEOの基調演説)としてプライバシーやセキュリティをさらに強化・重視する姿勢を示してきているフェイスブックからは、エリン・イーガンCPOが登壇した。

フェイスブックは、その最大8700万人にものぼる個人データ流出事件によって、2018年7月英国規制当局から50万ポンドの制裁金が課された。また、2019年7月には、米国でも、FTCから同事件の制裁金として50万ドルが課されている。フェイスブックがプライバシー問題の中心に置かれていたことは明白であり、パネルディスカッションにおいてイーガンCPOがどのような発言をするのか、注目を集めていた。

イーガンCPOは、新しい「プライバシー診断ツール」を紹介し、自分たちはプライバシー方針を遵守していると主張。その一方で、今年の1月1日に施行されたカリフォルニア州消費者プライバシー法(カリフォルニア州CPA)の遵守方針に関しては、フェイスブックは広告を販売するサービスプロバイダーであり、個人データは販売していないことから、同法は適用されないと発言するなど、会場から批判的に捉えられる場面も見受けられた。

筆者には、フェイスブックはプライバシー問題の所在や同社が社会から求められていることを本当に理解しているのか疑わざるを得ないような発言が目立ったようにも感じられた。
 

4――米国企業は消費者のプライバシーを守っているのか

4――米国企業は消費者のプライバシーを守っているのか

モデレーターの「米国企業は消費者のプライバシーを守っていると思いますか」という質問に、アップルとフェイスブックはいずれも「自社については守っていると思います」と回答。それに対して、FTCのレベッカ・スローター コミッショナーは、個別の企業や製品・サービスを想定しての発言ではないとしながらも、企業によるプライバシー遵守への取り組みは不十分であると発言。実際には、アップルとフェイスブックでの上記の発言をふまえての発言であるようにも思われた。

同コミッショナーは、プライバシー分野の専門家である自分からしても企業のプライバシー規約やユーザーによるプライバシー・レベルの設定手順は複雑でわかりにくい、と主張。そのような中で、「プライバシーは消費者の選択である、個人データがどのように扱われるかを決めるのは消費者自身である」といった企業側の方針はいくぶん乱暴なものではないかという考え方を示した。企業側が個人データを保護するための負担を消費者側に負わせていることについて懸念を表明したわけである。
 

5――iPhoneの中で起こることは、iPhoneの中に残る?

5――iPhoneの中で起こることは、iPhoneの中に残る?

アップルは、昨年のCES2019開催中、ラスベガスの街の中心に「iPhoneの中で起こることは、iPhoneの中に残ります。(What happens on your iPhone, stays on your iPhone.)」というプライバシー重視の姿勢をアピールする広告を掲示していた。この広告の意味は、例えば、iPhoneのマップ・アプリをユーザーが使った場合に生成されるデータは、その履歴なども含めてアップルIDに紐付けられることなく、またアップルのサーバー上で保存・管理されることもなく、あくまでiPhoneというデバイスの中に残るということ。

パネルディスカッションの質疑応答で、この広告は事実に反していたのではないか、また掲示された時点からの改善状況はどのようなものかといった質問がメディアから投げかけられたが、ホバースCPOからは完全な回答はなかったように見受けられた。

このやり取りから伺い知れることは、メガテック企業の中ではプライバシー重視の姿勢について高い評価を受けているアップルでさえも、その取り組みが不十分であると捉えられている、それ程までにプライバシー重視を求める世論の声が高まってきている、ということである。
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田中 道昭

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