2020年02月10日

オフィス・物流市場は一段と改善、住宅市場は弱含みで推移-不動産クォータリー・レビュー2019年第4四半期

金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子

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(2) 賃貸マンション
東京23区のマンション賃料は上昇基調を維持している。三井住友トラスト基礎研究所・アットホームによると、2019年第3四半期は前年比でシングルタイプが4.2%、コンパクトタイプが5.4%、ファミリータイプが2.5%上昇した(図表-12)。また、高級賃貸マンション(2019年第4四半期)についても空室率が5.1%に低下し、賃料は前年比+4.1%の17,882円/月坪となった(図表-13)。
図表-12  東京23区のマンション賃料/図表-13 高級賃貸マンションの賃料と空室率(東京主要3区)
(3) 商業施設
商業動態統計などによると、2019年12月の小売販売額(既存店、前年比)は百貨店が▲5.0%、スーパーが▲2.6%、コンビニエンスストアが▲0.3%となった(図表-14)。2019年全体ではコンビニエンスストア(+0.4%)がプラスとなる一方で、百貨店(▲1.4%)とスーパー(▲1.3%)はマイナスとなった。

10月の消費増税実施前から個人消費が低調に推移するなか、百貨店では地方を中心に店舗閉鎖、スーパー・ドラッグストアでは業界再編の動きもみられる3
図表-14 百貨店・スーパー・コンビニエンスストアの月次販売額(既存店、前年比)
 
3 『セブン1000店閉鎖・移転 西武・そごう5店閉鎖』 (朝日新聞、2019年10月11日、1面)
(4) ホテル
2019年の訪日外国人客数は前年比2.2%増加の約3,188万人となった(図表-15)。日本との関係が悪化した韓国からの訪日外国人客数は8月以降50%を超える減少が続き、年間累計では前年比▲26%となった。一方で韓国以外からの訪日客は前年比11%増加した。
図表-15 訪日外国人客数(年間)
2019年の訪日客旅行消費額は約4.8兆円(前年比+6.5%)と7年連続で最高額を更新し、1人当たり消費額は15.8万円(+3.5%)となった。また、2019年の外国人の延べ宿泊者数は前年比+4.4%増加した一方で、日本人宿泊者数は前年比▲0.9%となり全体ではほぼ横ばいであった(図表-16)。また、全国61都市のホテル客室稼働率(2019年11月)は前年同月比▲1.8%の82.2%となった(図表-17)。

今年、政府目標である「訪日客4,000万人」の達成には25%の増加が必要となるが、新型コロナウィルスの影響による訪日客の減少が懸念される。
図表-16 延べ宿泊者数の推移(月次、前年比)
図表-17 ホテル客室稼働率の暦年月次ベース(全国)
(5) 物流施設
シービーアールイー(CBRE)によると、首都圏の大型マルチテナント型物流施設の空室率(2019年第4四半期)は前期比▲1.3%低下の1.1%と過去最低を更新した(図表-18)。「東京ベイエリア」の空室率は3期連続で0%に、「圏央道エリア」の空室率は前年末の14.4%から1.2%に大幅に低下するなど全てのエリアで空室の消化が進んだ。2019年の新規需要は70.5万坪で前年の1.6倍に積み上がり、既存物件でも2次空室は発生していない。CBREの見通しによると、向こう2四半期の空室率は2%程度の低い水準を維持するとしている。

また、一五不動産情報サービスによると、2019年10月の東京圏の募集賃料は前期比3.9%上昇し4,280円/坪となった。
図表-18 大型マルチテナント型物流施設の空室率
(6) J -REIT(不動産投信)・不動産投資市場
2019年第4四半期の東証REIT指数(配当除き)は、米中貿易交渉に対する楽観的見通しなどを背景に「株高・金利上昇」が進行するなか、これまでJ-REIT市場に向かっていた資金フローが反転し9月末比▲1.5%下落した。セクター別では、住宅が▲1.9%、オフィスが▲1.5%、商業・物流等が▲1.3%となった(図表-19)。12月末時点のバリュエーションは、純資産10.1兆円に保有物件の含み益3.6兆円を加えた13.7兆円に対して時価総額は16.4兆円でNAV倍率は1.2倍、分配金利回りは3.6%で10年国債利回り(0.0%)とのスプレッドは3.6%となっている。
図表-19 東証REIT指数(配当除き、2018年12月末=100)
2019年のJ-REIT市場を振り返ると、東証REIT指数(配当除き)は20.9%上昇し株式市場の騰落率を2年連続で上回った(図表-20)。銘柄数は3社増えて64社、運用資産額(取得額ベース)は19.1兆円(前年比+6%)、市場時価総額は16.4兆円(前年比+27%)となり東証1部の不動産業セクターの規模(14.7兆円)を初めて上回るなど、順調な拡大を遂げた1年となった。

業績面では、オフィスを中心に賃貸市況が好調で不動産評価額も上昇したことから、市場全体の1口当たり分配金(前年比+4%)やNAV(前年比+6%)は引き続き増加した。需給面では、世界景気の減速懸念などを背景に各国中央銀行が金融緩和に転じるなか、J-REIT市場は株式や債券の代替投資先に選ばれて国内外から資金が流入した。一方で、業績の改善以上に価格が上昇したため、分配金利回りは3.6%、P/NAV倍率は1.2倍となり、年初にみられた割安感はほぼ解消されている。
図表-20 2019年のJ-REIT市場(まとめ)
また、J-REITによる物件取得額は1兆4,222億円(前年比▲20%)となり前年対比で減少した。取得物件についてアセットタイプ別にみると、物流施設(3,771億円、27%)が最大で、次いでオフィスビル(3,622億円、25%)、ホテル(2,551億円、18%)の順となった(図表-21)。デットの調達環境も引き続き良好で、投資法人債の発行金額は1,488億円(平均期間8.8年、平均利率0.52%)となった。
図表-21 J-REITによるアセットタイプ別の取得割合
 
 

(ご注意)本稿記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本稿は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものでもありません。
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金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子 (わたなべ ふみこ)

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴
  • 【職歴】
     2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
     2006年 総合不動産会社に入社
     2018年5月より現職
    ・不動産鑑定士
    ・宅地建物取引士
    ・不動産証券化協会認定マスター
    ・日本証券アナリスト協会検定会員

    ・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員

(2020年02月10日「不動産投資レポート」)

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