2020年02月03日

医療施設の設立形態-病院の開設者はどのように分類されるか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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1――はじめに

病気やケガをしたら、病院や診療所へ行って医師に診てもらう。誰でも日常的に経験していることだろう。ここで、病院や診療所の名前をよくみてみると、「医療法人○○会 △△病院」とか、単に、「□□クリニック」などと書いてあることが一般的だ。しかし、「株式会社◇◇病院」というのは、目にしない。そもそも、病院や診療所は、どのような主体が開設しているのだろうか。

本稿では、病院や診療所の開設についてみていく。併せて、代表的な開設主体である医療法人の医業継続の課題についても概観することとしたい。
 

2――病院と診療所

2――病院と診療所

病院や診療所などの医療施設については、医療法に定義が定められている1。その中で、病院は、医師または歯科医師が公衆または特定多数人のために医業または歯科医業を行う場所であって、20人以上の患者を入院させるための施設を有するもの。診療所は、入院施設がないか、19人以下の患者を入院させるための施設を有するもの、とされている。診療所は、「クリニック」、「医院」などと称している場合もある2
 
1 医療法では、助産を行う施設として、助産所も規定されている。
2 医療法では、診療所に、病院、病院分院、産院、その他病院に紛らわしい名称を付けてはならないとされている。
 

3――医療施設の開設主体

3――医療施設の開設主体

医療施設の開設主体には、どのようなものがあるのだろうか。まず、その分類からみていこう。

1医療施設の開設主体にはさまざまなものがある
医療施設の開設主体は多様だ。国や公的医療機関が開設するものから、社会保険関係団体、医療法人、個人など、さまざまな開設主体がある。また、1つの開設主体が、1つの医療施設だけを運営するとは限らない。たとえば、ある医療法人が、病院、診療所、介護老人保健施設など複数の施設で、医療・介護の事業を行うケースもみられる。医療施設の開設主体を並べてみると、つぎのとおりとなる。
図表1. 医療施設の開設主体
2病院は医療法人、診療所は医療法人と個人の開設が大半を占める
医療施設調査(厚生労働省)によると、2018年10月現在、全国に病院は、8,372ある。そのうちの69%は医療法人が開設している。また、一般診療所(102,105)のうち42%が医療法人、41%が個人の開設となっている。さらに、歯科診療所(68,613)のうち78%が個人、21%が医療法人の開設となっている。
図表2. 医療施設の開設主体別内訳 (2018年)
つぎに、病床数の内訳をみてみる。病院の病床(1,546,554床)のうち56%は医療法人開設の病院が有している。また、一般診療所の病床(94,853床)のうち75%は医療法人開設の一般診療所が有している。
図表3. 病床数の開設主体別内訳 (2018年)
このように、医療の提供は、医療法人や個人が主導していることがわかる。
 

4――医療施設開設主体の特徴

4――医療施設開設主体の特徴

医療施設の開設主体には、どのような特徴があるのだろうか。少しみていこう。

1営利目的の医療施設の開設は許可されない
医療法は、医療施設を開設しようとするときは、開設地の都道府県知事の許可を得なければならないとしている。医療は、国民の生命や身体の安全に直接関わるものであるため、営利企業にゆだねるのは適当ではない。そこで、医療法は、営利を目的として医療施設を開設しようとする者に対しては、許可を与えないことができる旨、規定している。

これを受けて、原則として、営利企業である株式会社や有限会社は、医療施設を開設できない3

医療法は、1950年に、非営利性を損なうことなく、医療事業の経営主体を法人化することにより、医業の永続性を確保しつつ、資金の集積を容易にするために、「医療法人」という法人類型を設けた。医療法人は、非営利性を維持するために、剰余金の配当をしてはならないと規制されている。
 
3 ただし、図表1に示している会社が開設する医療施設のとおり、1948年の医療法施行以前に存立していたもの、医療法施行後の数年間に開設された例外的なもの、旧三公社五現業(日本国有鉄道、日本電信電話公社、日本専売公社と、郵政、国有林野、印刷、造幣、アルコール専売)が特殊会社化された際に誕生したものは、開設の許可を受けている。
2社会医療診療に関する所得には事業税がかからない
医療施設は開設主体ごとに課税関係が異なる4。国や、公的医療機関のうちの都道府県、市町村、地方独立行政法人は、非課税とされている。

公的医療機関のうちの日本赤十字社、社会福祉法人恩賜財団済生会、厚生(医療)農業協同組合連合会や、公益法人、学校法人、社会福祉法人は、収益事業について課税されるが、医療保健業の条件を満たすものは、非課税となる。

医療法人に対しては、一般の法人課税が行われる。ただし法人事業税の計算において、社会医療診療に関する所得は、非課税扱いとなる5
図表4. 法人の種類ごとの課税関係
 
4 課税は、開設主体である法人などごとに行われる。病院や診療所ごとに行われるわけではない。
5 同様に、医療施設を開設する個人に対して、個人事業税の計算上、社会医療診療に関する所得は、非課税扱いとなる。
3医療法人はいくつかの種類に分けられる
医療施設開設主体の大半を占める医療法人は、非営利性と公益性の高低に応じて、いくつかの種類に分けられる。下図のように、まとめることができる。
図表5. 医療法人の区分
4出資持分のある医療法人には医業の永続性に関する課題があるとされている
現在は、非営利性や公益性が低い、出資持分のある医療法人が中心となっている。このことは、(1)解散時に残余財産の分配がなされることが非営利性を損なうことにつながる、(2)出資持分に相続税課税がなされる、(3)出資持分を持つ社員が退社して出資持分の払戻請求権が行使される、という医業の永続性に関する3つの課題があるとされている。6
 
6 「出資持分のない医療法人への円滑な移行マニュアル」(厚生労働省, 平成23年3月)をもとに、筆者がまとめた。
(1) 解散時に残余財産の分配がなされることが非営利性を損なうことにつながる
医療法人の解散時の残余財産の分配が剰余金の分配に当たるため、非営利性に反するとの指摘だ。たとえば、出資持分を有する理事などが、医療法人の価値を高めるために、収益性の高い医療ばかりを行うことで、医療の公益性が損なわれる可能性がある。また、残余財産の分配のために、将来、解散することを前提として医業を行うとすれば、その永続性に疑問符が付くこととなる。
(2)出資持分に相続税課税がなされる
出資持分の大半を有する理事長などに相続が発生した時の医業承継の課題である7。医業を承継しようとする後継者が、相続税の支払いに窮すれば、医業の継続性に支障が生じる恐れがある。
 
7 そもそも、相続税が課される根拠は、出資持分に退社時の払戻請求権や解散時の残余財産分配請求権があるためとされる。
(3)出資持分を持つ社員が退社して出資持分の払戻請求権が行使される
出資持分の払戻請求権が行使され、出資金の払戻しが必要となる課題である。経営方針の違いなどから、出資持分を持つ理事などが退社して、出資金の払戻しを請求する可能性がある。特に、開設から長期間が経過して内部留保が多い医療法人では、払戻し金額も膨れ上がることがある。その支払いに窮すれば、医業を継続することが困難となりかねない。

医療法の第5次改正により、2007年4月以降、出資持分のある医療法人の新設は認められないこととされた。既存の出資持分のある医療法人は、経過措置型医療法人となっており、財団法人や出資持分のない社団法人への移行が促されている。しかし、医療法人側の理解はあまり進んでおらず、出資持分のある医療法人が大半を占める状況が続いている。
図表6. 医療法人数の推移 (出資持分有無別)

5――おわりに (私見)

5――おわりに (私見)

高齢化の推進や、疾病構造の変化に伴い、地域包括ケアシステムの推進が求められている。今後、各地域の病院や診療所の医師が、総合診療医として、プライマリケアを進めていくことが必要となるだろう。

その際、医療施設を安定的に運営するためには、開設主体の健全な経営が欠かせない。特に、医療施設の多くを占める医療法人の経営には、高い健全性が求められると考えられる。
引き続き、医療施設の開設主体の動向を注視することとしたい。
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

(2020年02月03日「基礎研レター」)

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