2019年12月27日

EIOPAがソルベンシーIIの2020年レビューに関するCPを公表(7)-株式リスクに関する措置-

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3―「株式リスク費用の対称調整」について

ここでは、「株式リスク費用の対称調整」についての検討内容及びその助言内容について、報告する。

1|欧州委員会からの助言要請
欧州委員会からの助言要請は、以下の通りとなっている。

3.5.キャピタル・マーケッツ・ユニオンの側面
株式について、EIOPAはまた株式リスクのサブモジュールの包括的な見直しを行うこと、特に、デュレーションベースの株式リスクのサブモジュール、戦略的株式投資、長期株式投資及び対称調整の設計と調整の適切性を評価することが求められる。

2|関連法規
対称調整メカニズムは、ソルベンシーII指令第106条における「標準的方式に従って計算される株式リスク・サブモジュールには、株価水準の変動から生じるリスクをカバーするために適用される株式資本チャージに対する対称調整が含まれなければならない。」で導入されている。

対称調整の計算は、委任規則第172条に示されている。

株式指数の構成とその計算方法については、欧州委員会施行規則(EU)2015/2016に詳述されている。

3|課題の特定
対称調整の計算のための株価指数の構成は、2015年に決定された。それ以降、保険及び再保険会社の株式投資の構成は変化した可能性がある。保険会社の資産と株式指数との間に重大なミスマッチがあると、この措置の効果が歪められる可能性がある。

4|分析
EIOPAは、現在の指標を構築するために、複合アプローチ(つまり、「絶対額」と「相対重量」の両方を使用)を用いた。具体的には、1つ又は両方の指標に基づき、ウェイトの高い株価指数を選択し、次に、選択した指標を3つのカテゴリに割り当てる。カテゴリの各メンバーの重みは同じで、14%、8%又は2%となる。

EIOPAは、2017年末のデータに基づいて、EIOPA指数における各国のウェイトを、参照ポートフォリオにおける「絶対額」ウェイトと比較した。これによれば、両者に不一致が見られ、特に2つの主要国の指数(CAC40とDAX)のウェイトが過小評価され、その他の全ての指数が過大評価されていた。

ただし、現在の指数に含まれる指数が、危機的状況において非常に類似した挙動を示すとすれば、重みの選択は、対称調整の機能にあまり関連しないため、指数の挙動に対する構成の関連性も分析された。これによれば、欧州主要株式市場間の相関が全体的に高いことがわかった。

以上を踏まえると、現在の株価指数のウェイトの更新や変更は最優先事項とは考えられない。
5|助言内容

EIOPAは、対称調整のための株式指数の構成は現在のところ更新する必要はないとの見解を示している。

 

4―「株式リスクに関する移行措置」について

4―「株式リスクに関する移行措置」について

ここでは、「株式リスクに関する移行措置」の検討内容及びその助言内容について、報告する。

1|欧州委員会からの助言要請
欧州委員会からの助言要請は、以下の通りとなっている。

3.3.移行措置
ソルベンシーII指令第VI章は、いくつかの移行規定を定めている。EIOPAは、保険契約者保護及び公平な競争条件の観点から、移行規定の現在の妥当性を評価するよう求められている。この評価は、該当する場合には、会社が新たに移行措置を申請する可能性が継続すべきかどうかについても評価すべきである。EIOPAは、勧告にその理由が記載されていれば、異なる移行措置についての作業を優先することができる。しかし、EIOPAの評価は、少なくともソルベンシーII指令の第308b条(12)及び(13)、第308c条並びに第308d条に規定する移行措置を対象とすべきである。

2|以前の助言内容
EIOPAは、ソルベンシーII指令第308b条(13)に規定する移行措置について勧告を行っていない。

3|関連法規
ソルベンシーII指令第308b条(13)には、株式リスクに関する移行措置が規定されている。委任規則第173条は移行措置の適用に関する基準を含んでいた。欧州委員会施行規則(EU)2016/1630は、移行措置の適用のための手続を定めている。

4|課題の特定
株式移行措置により、保険会社及び再保険会社は、SCR標準式の株式リスク・サブモジュールの計算に軽減されたリスク・パラメータを使用することが認められる。ソルベンシーIIの初年度は、標準リスク・パラメータ(タイプ1資本は39%、タイプ2資本は49%)を22%のリスクファクターに置き換える。7年間の移行期間において、リスクファクターは各年度末に少なくとも直線的に増加し、2023年にそれぞれの標準パラメータに達する。リスク削減パラメータは、2016年1月1日以前に会社が購入した株式に適用される。

EIOPAは、2019年にNSAsに対して、株式移行措置の利用と影響に関する情報要請を行った。移行措置の利用に関して、NSAsは以下の情報を報告した。

・15カ国では、株式移行措置は使用されていない。
・4カ国(IE、IT、NO、SE)ではあまり使われていない。
・3か国(GR、PT、SI)については、移行措置を適用した会社の割合が、13%から約25%の範囲で報告された。
・3カ国(ES、FI、FR)では、株式資本移行措置が国内市場で使用されていると報告しているが、その使用がどの程度一般的であるかについての情報はない。
・4カ国(BE、BG、DE、UK)については、NSAsは移行措置の利用に関する情報を有していない。
 NSAsからの観察結果等によれば、以下の通りであった。
・移行措置が保険契約者保護や公平な競争条件に悪影響を及ぼすことは、観察されていない。
・株式への移行措置がなくても、会社の投資行動が異なるとは考えていない。わずかな違いがあると考えているNSAは1カ国(FI)のみ。
・いかなるNSAも、欧州委員会実施規則(EU)2016/1630の適用に関する課題を報告していない。
・現段階では、入手可能な全ての証拠を考慮に入れても、移行措置に課題がある兆候はない。

5|助言内容

EIOPAの見解では、ソルベンシーII指令第308b条(13)の株式移行措置への変更は必要ない。

 

5―「回復期間の延長」について

5―「回復期間の延長」について

ここでは、「回復期間の延長」についての検討内容及びその助言内容について、報告する。

1|欧州委員会からの助言要請
SCRを満たさない場合の回復期間の延長は、LTGの措置の一つであることから、欧州委員会がLTGの措置及び株式リスクの措置に関する技術的助言を求める際の勧告の対象となっている。

2|以前の助言内容
CEIOPSは、欧州委員会に対して、ソルベンシーIIレベル2実施措置に関する第3の勧告セットの一部として、回復期間の延長に関する勧告を2010年1月29日に提出した。

3|関連法規等
回復期間の延長は、ソルベンシーII指令第138条 (4) において、特に以下のように規定されている。

「EIOPAの宣言に従って、市場又は影響を受ける事業分野において重要なシェアを占める保険及び再保険会社に影響を及ぼす例外的な事態が生じた場合であって、かつ、適切な場合には、ESRB(欧州システミックリスク理事会)と協議の上、監督当局は、影響を受ける会社について、技術的準備金の平均期間を含む全ての関連要素を考慮して、第3項第2段落に定める期間を最長7年に延長することができる。」

さらに、ソルベンシーII指令第143条(1)は、欧州委員会が例外的な不利な状況の種類を補完し、EIOPAが例外的な不利な状況の存在を宣言する際、及び監督当局が第138条第4項に従って回復期間の延長を決定する際に、考慮すべき要因及び基準を特定する上で、委任法を採択することを求めている。

このような委任に従って、さらに委任規則第288条は、EIOPAは例外的な不利な状況の存在を宣言するために、いくつかの要素及び基準を考慮しなければならないと規定している。

EIOPAが例外的な不利な状況の存在を宣言した場合、NSAsは期間の延長を決定し、所定の保険又は再保険会社の期間の延長を決定することができる。NSAsは委任規則第289条で述べられた要素及び基準を考慮に入れなければならない。整合的なアプローチを確保するために、EIOPAは、例外的な状況下での回復期間の延長に関するガイドラインを2015年9月14日に公表した。特に、ガイドラインは延長を認める決定、延長の期間及び延長の取消及び撤回に関連している。

4|課題の特定
現在までにEIOPAは例外的に不利な状況を宣言する要請を受けていない。

ソルベンシーII指令第308b条(14)の移行措置は2017年末までに適用されなくなったことに留意すべきである。この移行規定によれば、2015年末時点でソルベンシーIの資本要件を満たしていたが、ソルベンシーIIの適用初年度にSCRを満たしていなかった会社の回復期間は、2017年12月31日までとされている。

さらに、例外的な不利な状況を宣言するためのEIOPAに対するNSAsの要請がないことは、主に、SCRに違反している会社の数が限られていることと、それらの会社の市場シェアがごくわずかであることによって説明される。

実務経験が不足しているにもかかわらず、EIOPAは、この措置の正しい使用が、ある種の集団行動の潜在的な負の影響を回避することができ、また、ソルベンシーⅡのバランスシートに反映されているボラティリティの負の影響を緩和し、一斉売却のようなプロシクリカルな行動を回避するための追加的な時間を保険会社に提供することから、市場と企業活動にプラスの影響を与える可能性があると考えている。

EU内の金融システムのマクロプルーデンス監視に対するESRBの責任、特に「ESFS(欧州金融監督制度)の他の全ての関係者と緊密に協力し、必要に応じて、ESAs(欧州監督機構)に業務の遂行に必要なシステミックリスクに関する情報を提供する」というESRBのタスクを考慮に入れると、ソルベンシーII委任規則第288条で言及されている要因と基準を評価するために、協議が関連しているとみなされる。これらの要因と基準は、EIOPAが不利な財務状況の存在を検討するまでの金融市場の状況、ならびに回復期間を延長するための監督当局による今後の決定の可能性のある金融市場への潜在的な影響と負の影響及び影響を受けた会社によって採用され、指定された回復期間内にSCRへの準拠を再確立するための措置に関連している。

5|分析
EIOPAは、指令の本文において、回復期間の延長に関するESRBの役割を明確にする必要性を検討し、以下の2つのオプションが検討されている。

・オプション1:変更なし。すなわち、現在の表現を維持する。これにより、ESRBに参照する可能性に関して異なる解釈が可能になる。

・オプション2:ESRBの役割を明確にする。即ち、例外的な不利な状況が宣言される前に、必要に応じて、ESRBと協議する。

現行の文言では、監督当局がESRBと協議することが期待されているかどうかを疑う可能性があるため、不確実性は残る。影響を受ける各会社の回復期間を延長するという具体的な決定について、1つ又は複数のNSAsがESRBに協議することは、決定の遅延、ESRBの負担及び責任リスクの増大をもたらす。

結果として、EIOPAはESRBの役割の明確化がプロセスの効率化に有益であると考える。適切な場合には、ESRBはEIOPAの諮問を受けることになり(すなわち、例外的な不利な状況を宣言する前に)、特にEU金融市場に関するソルベンシーII規制第288条の基準の評価に貴重な情報を提供することになる。
6|助言内容
 

EIOPAは、指令第138条 (4) の最初の2段落を次のように修正するよう勧告する

「市場又は影響を受ける事業分野において大きなシェアを有する保険及び再保険会社に影響を及ぼす例外的な不利な状況が発生した場合、EIOPAの宣言に基づき、必要に応じてESRBと協議した上で(削除)、監督当局は、影響を受ける会社に対して、第3項の第2段落に規定されている期間を、技術的準備金の平均デュレーションを含む全ての関連する要因を考慮して、最長7年に延長することができる。

規則(EU)No1094/201018条に基づくEIOPAの権限を侵害することなく、本項の適用上、EIOPAは、関係監督当局の要請に従い、かつ、必要に応じてESRBと協議した上で(追加)、例外的な不利な状況の存在を宣言する。当該監督当局は、市場又は影響を受ける事業分野において大きなシェアを有する保険又は再保険会社が第3項に定める要件のいずれも満たす見込みがない場合には、要請を行うことができる。」

 

6―まとめ

6―まとめ

以上、今回のレポートでは、ソルベンシーIIの2020年のレビューに関するCPのうちの、株式リスクに関する措置として、「長期及び戦略的な株式投資」、「株式リスク費用の対称調整」、「株式リスクに関する移行措置」及び「回復期間の延長」について報告した。

次回のレポートでは、「技術的準備金」に関する項目について報告する。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2019年12月27日「保険・年金フォーカス」)

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