コラム
2019年12月18日

モノ消費に見えてコト消費-ステイタスよりも個人的な体験

生活研究部 上席研究員   久我 尚子

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今月、東京で「文具女子博2019」が開催された。2017年から始まった日本最大の文具の祭典で、今年は3回目だ。来場者数は2017年に2万5千人、2018年に3万5千人1。今年の来場者数は、まだ公表されていないが、来年も複数のイベントの開催が既に予定されているところを見ると、文具女子は順調に増えているようだ。
 
あらためて近年の消費を見渡すと、文具や生活雑貨などに盛り上がりが見える。

例えば、2012年に日本に上陸したデンマークの生活雑貨「タイガー・コペンハーゲン」は、当初、入店までに数時間待ちの長蛇の列ができたことが話題となった。デザイン性が高く、色鮮やかな商品を100円~2千円程度の価格帯で買えることで人気が高まり、今も順調に店舗数を伸ばしている。

また、同じく2012年に開業した東急百貨店が運営する「渋谷ヒカリエShinQs」は増収増益が続いているようだが、店舗の作りが興味深い。従来のデパートとは異なり、1階には欧米の高級ブランドの化粧品ではなく、アクセサリーや手袋などのファッション雑貨が並んでいる。デパートでは、主要客である女性を惹きつけるために、1階に化粧品フロアを配置することが多い。ヒカリエの1階にも化粧品が全くないわけではないが、並ぶのはシャンプーやハンドクリームなどの生活用品が主のオーガニック系のコスメブランドだ。また、場所柄、訪日客で混雑しそうなものだが、日本人女性で賑わっている。今の日本人女性を惹きつけるのは、高級化粧品より雑貨ということなのかもしれない。
 
文具や生活雑貨に共通することは、日常生活にちょっとした楽しみを与えるモノであること、生活を豊かにするモノであることだ。また、気軽に買える価格である点も共通している。
 
気軽に買える価格のものを楽しむ「プチ贅沢」という消費行動は、リーマンショック後の更なる景気後退時に、より一般化した印象があるが、今後とも消費者を捉える上での1つの鍵と言える。

消費マインドと日経平均株価の関係を見ると、アベノミクスがはじまった頃から、消費マインドはおおむね日経平均と連動して上向いていた(図)。企業業績の改善が賞与や賃金に反映されたためだ。しかし、2017年頃から賃金の伸びが鈍化し、2018年頃から世界経済の先行き不透明感が増してきた。さらに2019年10月の消費増税が実施されたことで、足元では日経平均と消費マインドには乖離が生じている。日経平均は依然として高水準にあるものの、2020年の東京五輪後の景気後退が懸念され、団塊の世代が後期高齢者となり医療費などの社会保障費が急増する「2025年問題」も目前に迫っている。幅広い世代で経済不安を抱える中では、消費行動のベースには根強い節約志向があるのだろう。
図 消費者態度指数及び日経平均株価の推移
また、今後の消費行動の鍵には「ちょっとした楽しい体験」や「生活を豊かにすること」もあげられる。よく世間でも言われるように、消費は「モノからコトへ」と移っている。成熟した消費社会では、安くて高品質な大量のモノがあふれているために、モノを持つことが必ずしもステイタスではなくなっている。経験や体験などのコト消費への関心が高まっている。

文具や生活雑貨はモノだが、それらを買って使うコトで、日常生活に彩りが与えられる。一見、モノ消費のように見えてコト消費とも言える。つまり、消費者は、モノを買って使うコトで得られる経験や体験に価値を感じているのではないだろうか。

クルマや高級ブランドバッグなどとの線引きが難しいようだが、1つ明らかな点は、文具や生活雑貨は、所有することによるステイタスではなく、あくまで個人的な体験から得られる満足感が購買意欲を誘うということだ。さらに、気軽に買える価格であることも、今の消費者と合致するのだろう。
 
今月、「日本サブスクリプションビジネス大賞」が創設された。今後さらに、モノからコトへ、所有から利用へという流れは加速するのだろう。このような中でモノを売るとすれば、消費者の満足感を高めるトリガーは何かを丁寧に捉える必要がある。それは、モノを買って使うコトで得られる体験なのかもしれないし、例えば、環境に配慮したサスティナブルなモノなど、モノが持つストーリーへの共感なのかもしれない。いずれにしろ、所有によって得られるステイタスよりも、個人的な豊かな体験につながるコトを重視する消費者が増えていくと思われる。
 
1 文具女子博https://bungujoshi.com/
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

(2019年12月18日「研究員の眼」)

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