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なぜ消費は活性化しないのか~活性化を阻む6つの理由
生活研究部 上席研究員 久我 尚子
- 個人消費は力強さに欠ける状況が続く。この要因の1つには、実質賃金の伸び悩みがある。しかし、賃金は改善傾向を示す一方で、依然として消費は低迷している状況を見ると、必ずしも「賃金が上がれば消費も増える」わけではなさそうだ。
- 消費が活性化しにくい理由には、まず、(1)消費者全体で経済的不安が広がっていることがある。若い世代ほど厳しい雇用環境にあり、少子高齢化による社会保障不安もある。高齢者でも年金受給額の引き下げなど制度変更による生活防衛意識の強まりもあるだろう。
- また、(2)高齢化の進行で高齢世帯の存在感が増している影響もある。高齢世帯は消費額が少ない上、賃金増の影響も受けにくい。
- さらに、(3)消費社会の成熟化の恩恵を受けて、支出を抑えても質の高い消費生活を送ることができること、また、それに伴う(4)価値観の変容もある。シェアリングサービスの登場でモノを買わなくてもすむ環境が広がり、高級品への憧れやモノへの欲求が弱まっている。ミニマリストが賞賛される向きもあり、若い世帯では消費性向が低下している。
- (5)消費者の暮らし方が変わる中でニーズの強い領域に商品やサービスの不足感があることも指摘できる。例えば、保育園待機児童問題やインフレ気味の子ども教育関連サービスの状況を見れば、需要と供給のバランスが取れていない領域もある。
- (6)統計上の課題もある。従来のように世帯を対象とした家計簿調査では、家計の個別化が進む共働き世帯の収支は把握しにくい。また、シェア消費などは従来の枠組みでは捉えにくく、近年、増えているネット通販の「ケータイ払い」などは通信費に紛れてしまう問題などもある。
- 消費を活性化させるには、(1)は政策として現役世代の経済基盤の安定化や社会保障制度の持続性確保などを進めることで緩和できる。(2)~(5)は企業努力で対応できる部分もある。全体としては消費の盛り上がりに欠ける中でも売れている商品もあり、その背景には何があるのか、また、革新的な商品を生み出す土壌作りとして政府や企業は何ができるのか。工夫の余地はある。
■目次
1―はじめに
2―消費が活性化しにくい理由
1|経済不安の強まり~現役世代の雇用不安や社会保障不安、高齢者の生活防衛意識
2|高齢化の進行
~世帯当たりの消費額が減り、賃金増の影響を受けにくい高齢世帯の存在感
3|消費社会の成熟化
~商品・サービスの低価格化や高機能化、シェアでお金を使わずにすむ
4|価値観の変容~消費欲求の弱まりとスマート消費、使わないことが格好良い?
5|欲しい商品・サービスがない
~子どもの教育はインフレ気味、工夫で売れるものも?
6|消費統計上の課題
~シェア消費やケータイ払いなど、十分に捉えられていない消費も
3―おわりに
~経済基盤の安定化や社会保障制度の持続性確保等の政策、企業努力の余地も
(2018年10月30日「ニッセイ景況アンケート」)
03-3512-1878
- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
久我 尚子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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