コラム
2018年08月14日

シェアに見る「売る時のことを考えて買う、使う」という価値観-モノの所有から利用へ~消費者の今を知る

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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シェアリングエコノミー(シェア経済)が拡大している。内閣府は7月に初めてシェア経済の市場規模の試算結果を公表した。2016年の市場規模は全体で4,700~5,250億円程度、内訳はフリマアプリなどの「モノ」のシェアが3,000億円程度で最も多く、民泊などの「スペース」のシェアが1,400~1,800億円、家事代行などの「スキル」のシェアが150~250億円ということだ。なお、この試算では、個人間のやりとりに注目したために、主に事業者が提供するカーシェアリングサービスなどは含まれていない。

シェア経済は、現在のところ日本の名目GDP538兆円(2016年度国民経済計算)と比べると0.1%程度であり、日本経済全体に与える影響は大きくない。しかし、シェア経済が拡大し、消費者にとってより身近なものとなることで、消費行動に影響を与えているようだ。
 
シェア志向が強い消費者の特徴については、「シェアリング志向が強いのは誰?1で生活者1万人を対象に調査をした分析結果に基づいて述べた通りだ。

ネット購買を好み、ネットを解した個人間決済に抵抗の少ない若者や男性、一時期しか使わないモノへの出費がかさむ子育て世帯、中古品でも良い学生や公務員、年収300万円の安く済ませたい層や男性の年収1千万円のこだわりのある層などで、シェア志向が強い傾向がある。

なお、若い女性や専業主婦はフリマアプリの利用は活発なようだが、カーシェアやオークション、民泊などを含めたシェアサービス全体で見ると、シェア志向自体は弱い層だ。特に、専業主婦は節約意識が高いものの、ネットを介した個人間売買の抵抗感が強い。つまり、上手く信頼感を担保できているフリマアプリなどのみが活発に利用されていると読み解くのが適切なようだ。
 
特にフリマアプリの状況を見て、消費者の価値観の変化を感じることがある。それは、「売る時のことを考えてモノを買う」「売る時のことを考えてモノを使う」「使えるうちに売る」という価値観が、様々な消費領域に広がっていることだ。
 
例えば、フリマアプリで今後、売る時のことを考えて皆が知っている有名なメーカーのモノを買う、少し値段が高くても売れるような品質の良いモノを買う、そして、売る時に見映えが良いように商品が入っていた箱を取っておく、商品の信頼性を担保するためにタグや説明書、レシートなども取っておくといった行動だ。また、必要な時だけ使ったら、その商品が売れるうちに、旬のうちに売る、といった行動もあるだろう。

これらの消費行動は、家や自動車の購入では、これまでも見られていたものだ。しかし、フリマアプリなどを介した良質な生活用品の中古市場が広がることで、洋服やバッグ、育児用品、おもちゃなどの身の回りのモノにまで広がり始めている。
 
また、成熟した消費社会では、若者をはじめとして「所有から利用へ」という価値観のシフトもあるだろう。物心ついた頃から、多くのモノに囲まれて育った若い世代では、かつてのように所有することがステイタスではなくなっている。エコ意識や社会貢献意識の高まりから、無駄なモノを買わずに合理的に消費をするというスマートな消費行動が支持される風潮もあるようだ。
 
さらには、最近では「フードシェア」という概念もある。飲食店や食品メーカーと消費者を仲介することで、売れ残りそうなレストランのメニューや賞味期限が近づいた商品、これまでは廃棄されてきた試作品など、まだ食べられるのに廃棄されてしまう食品を減らす仕組みがある。「もったいないことを嫌う若者や食費は抑えたい働き盛りが支持している」2という。

環境省の推計によれば、日本のフードロスは約645万トン、日本人1人1日当たり茶碗1杯分弱に相当するそうだ。「フードシェア」は社会問題の直接的な解決策という側面が強いが、カーシェアやフリマアプリなどのシェア経済全般もエコ意識や無駄な消費をしないという点では共通している。また、より広い枠組みで見れば、そもそもシェア経済自体が社会資源を共有することで、ある種の課題を解決するという意味合いを持っている。シェア経済は、生活を充実させるだけでなく、気持ちが豊かになる効果もあるようだ。
 
シェア経済の拡大は、特にモノづくり企業にとっては、脅威となる部分もある。しかし、消費者が「売る時のことを考えて買う」のであれば、そのニーズを満たすためにはどのような商品が良いのかという視点もあるだろう。企業はシェアでは得られない付加価値を生み出すとともに、シェア経済と上手く共存する必要がある。
 
1 久我尚子「シェアリング志向が強いのは誰?-安く買いたい若者だけでなく、堅実な公務員、合理的な高年収男性でも強い」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2018/6/25)
2 日本経済新聞「食品廃棄 ネットで削減 若者・働き盛りが支持」(2018/6/16 夕刊1面)

(2018年08月14日「研究員の眼」)

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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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