2019年11月14日

QE速報:7-9月期の実質GDPは前期比0.1%(年率0.2%)-消費増税前にもかかわらず低成長

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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●7-9月期は前期比年率0.2%と4四半期連続のプラス成長

本日(11/14)発表された2019年7-9月期の実質GDP(1次速報値)は、前期比0.1%(前期比年率0.2%)と4四半期連続のプラス成長となった(当研究所予測10月31日:前期比0.1%、年率0.2%)。

外需寄与度が前期比▲0.2%(年率▲0.6%)と2四半期連続で成長率を押し下げたが、国内民間需要、公的需要がともに増加し、外需のマイナスをカバーする形となった。

駆け込み需要に伴う在庫の取り崩しから、民間在庫変動が前期比・寄与度▲0.3%と成長率を大きく押し上げたが、消費税率引き上げ前の駆け込み需要を主因として民間消費が前期比0.4%の増加となったこと、高水準の企業収益を背景に設備投資が前期比0.9%と好調を維持したことから、民間需要は前期比0.1%と小幅な増加となった。政府消費(前期比0.5%)、公的固定資本形成(同0.8%)がいずれも増加したことから、公的需要は前期比0.6%と高めの伸びとなった。
 
名目GDPは前期比0.3%(前期比年率1.2%)と4四半期連続の増加となり、実質の伸びを上回った。GDPデフレーターは前期比0.2%(4-6月期:同▲0.1%)、前年比0.6%(4-6月期:同0.4%)であった。
 
2019年7-9月期の1次速報と同時に基礎統計の改定や季節調整のかけ直しなどから過去の成長率も遡及改定され、2019年4-6月期の実質GDP成長率は前期比年率1.3%から同1.8%へと上方修正された。設備投資(前期比0.2%→同0.7%)が上方修正されたことがその主因である。
需要項目別結果
<需要項目別の動き>
民間消費は前期比0.4%と2四半期連続で増加した。

軽減税率の導入やキャッシュレス決済に対するポイント還元などの消費増税対策の影響から、前回の消費増税前に比べると駆け込み需要の規模は小さかったが、消費増税直前には家電製品、家事用消耗品(ポリ袋、トイレットペーパー、洗剤等)、衣類など幅広い品目で駆け込み需要が顕在化した。

実質家計消費の内訳を形態別にみると、自動車、家電製品などの耐久財(前期比3.2%)、被服・履物、家具などの半耐久財(前期比1.7%)が消費増税前の駆け込み需要を主因として高い伸びとなった。一方、軽減税率が導入された食料品を含む非耐久財は前期比▲0.3%の減少、外食、旅行などのサービスは前期比▲0.1%の減少となった。

雇用者報酬は名目・前年比1.4%(4-6月期:同1.9%)、実質・前年比1.1%(4-6月期:同1.2%)となり、名目、実質ともに前期から伸びが低下した。企業収益の悪化を受けて夏のボーナスが減少し、一人当たり賃金の伸びが大きく低下したことが雇用者報酬の伸びを押し下げた。

民間消費は4-6月期の前期比0.6%に続き高めの伸びとなったが、前回の消費増税前(2014年1-3月期の前期比2.0%)の伸びを大きく下回った。この一因は駆け込み需要が小さかったことだが、もともとの消費の基調が弱いことも影響している。10-12月期の民間消費は、反動減の影響は前回増税時よりも小さくなるものの、物価上昇による実質所得低下の影響を受けることから、前期比で大幅なマイナスとなることが予想される。
 
住宅投資は前期比1.4%と5四半期連続で増加した。新設住宅着工戸数(季節調整済・年率換算値)は2018年10-12月期の95.5万戸から、2019年1-3月期が94.2万戸、4-6月期が91.8万戸、7-9月期が89.9万戸と減少傾向が続いている。

住宅は引き渡しが2019年10月以降の場合、契約が2019年3月末以前でなければ、10%の消費税率が適用される。このため、駆け込み需要は2018年度中にほぼ出尽くしており、着工ベースでは2019年4月以降、反動減が発生している。

住宅着工戸数は減少しているが、居住産業併用建築物の工事費予定額(7割が居住分とみなされる)が8月に急増しており、このことが7-9月期のGDP統計の住宅投資を押し上げた。ただし、これは一時的なものと考えられるため、10-12月期の住宅投資は減少に転じる可能性が高い。
 
設備投資は前期比0.9%と2四半期連続で増加した。高水準の企業収益を背景に人手不足対応の省力化投資、都市再開発投資、研究開発投資などが設備投資の押し上げ要因となった。

日銀短観2019年9月調査では、2019年度の設備投資計画(全規模・全産業、含むソフトウェア投資、除く土地投資額)が6月調査から▲0.3%下方修正され、前年度比6.0%増となった。増加基調は維持されているが、同時期(9月調査)の2017、2018年度の伸びを下回った。

高水準の企業収益を背景に設備投資は堅調を維持しているが、その勢いには陰りがみられる。人手不足対応の省力化投資など景気循環に左右されにくい需要は引き続き旺盛であるため、設備投資が大崩れする可能性は低いとみられるが、企業収益が悪化している製造業を中心に設備投資の牽引力は徐々に低下している。
 
公的固定資本形成は、2018年度第2次補正予算と2019年度当初予算の執行から、前期比0.8%と3四半期連続で増加した。公共工事の先行指標である公共工事請負金額が増加を続けていることに加え、2019年度補正予算では災害復旧や経済対策に伴い公共事業関係費が積み増されることが見込まれるため、公的固定資本形成は先行きも増加が続く可能性が高いだろう。
 
外需寄与度は前期比▲0.2%(前期比年率▲0.6%)と2四半期連続のマイナスとなった。
財貨・サービスの輸出は前期比▲0.7%と2四半期ぶりに減少した。財輸出は前期比0.3%と小幅な増加となったが、日韓関係の悪化に伴い訪日外国人数が減少したことからサービス輸出が前期比▲4.4%と大きく落ち込んだ。一方、財貨・サービスの輸入は、消費税率引き上げ前の駆け込み需要への対応もあり、前期比0.2%の増加となった。
(前回増税時との駆け込み需要の比較)
現時点では、データの制約などから駆け込み需要の正確な規模を把握することは困難だが、ここでは簡便的な方法で前回と今回の駆け込み需要の大きさを比較した。具体的には実質家計消費支出(耐久財、半耐久財、非耐久財)について、消費税率引き上げの半年前までのデータをもとにHPフィルターを用いてトレンドを抽出し、それを上回る部分を駆け込み需要とした。

このようにして求めた今回の駆け込み需要は家計消費支出全体で0.9兆円(2011年基準の実質値、以下同じ)となった。形態別には耐久財が0.6兆円、半耐久財が0.2兆円、非耐久財が0.1兆円である。これに対して、前回の消費増税前の駆け込み需要は家計消費支出全体が2.2兆円、耐久財が1.2兆円、半耐久財が0.8兆円、非耐久財が0.3兆円であった。月次の消費関連指標では、消費増税直前の9月には前回並みの需要の盛り上がりが確認されていたが、四半期ベースのGDP統計で見る限り、駆け込み需要全体の規模は前回の4割程度だったとみられる。
実質家計消費支出の推移/実質耐久財消費支出の推移
実質半耐久財消費支出の推移/実質非耐久財消費支出の推移
消費増税前の駆け込み需要の比較(家計消費支出)
10-12月期の大幅マイナス成長は不可避)
2019年7-9月期は消費税率引き上げ前の駆け込み需要を主因としてかろうじてプラス成長を確保したが、前回の消費増税前(2014年1-3月期:前期比年率3.9%)に比べると低い伸びにとどまった。軽減税率の導入、キャッシュレス決済に対するポイント還元などによって駆け込み需要が抑えられたことも一因だが、駆け込み需要を除いた景気の基調が弱いことも影響している。

2019年10-12月期は、ポイント還元などの消費増税対策の効果が一定程度期待できるものの、駆け込み需要の反動減が発生すること、消費の基調が弱い中で税率引き上げに伴う物価上昇によって実質所得が低下することから、民間消費の大幅減少は避けられないだろう。現時点では、10-12月期の実質GDPは民間消費の大幅減少を主因として前期比年率▲2%台のマイナス成長を予想している。
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2019年11月14日「Weekly エコノミスト・レター」)

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