2019年10月29日

消費者物価(東京都区部19年10月)-価格転嫁率100%以上の品目割合は前回増税時を上回るが、全体の上昇率は消費増税分を下回る

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1.東京都区部の上昇率の変化幅は、消費税率引き上げ、幼児教育無償化分を下回る

総務省が10月29日に公表した消費者物価指数によると、19年10月の東京都区部の消費者物価(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は前年比0.5%(9月:同0.5%)となり、上昇率は前月と変わらなかった。事前の市場予想(QUICK集計:0.6%、当社予想も0.6%)を下回る結果であった。季節調整済・前月比では0.2%となった。生鮮食品及びエネルギーを除く総合(コアコアCPI)は前年比0.7%(9月:同0.6%)、総合は前年比0.4%(9月:同0.4%)であった。

コアCPI上昇率を寄与度分解すると、エネルギーが▲0.12%(9月:▲0.05%)、食料(生鮮食品を除く)が0.36%(9月:0.19%)、その他が0.25%(9月:0.36%)であった。

10月の東京都区部のコアCPI上昇率は消費税率引き上げ(8%→10%)によって0.7%ポイント押し上げられる(税率引き上げ分が課税品目全てにフル転嫁されると仮定)一方、幼児教育無償化によって▲0.6%ポイント押し下げられた。コアCPI上昇率の前月からの変化幅は消費税率引き上げと幼児教育無償化による影響を若干下回った。
消費者物価指数の推移/消費者物価指数(生鮮食品除く、東京都区部)の要因分解

2.価格転嫁率100%以上の品目割合は前回増税時を上回る

消費税率引き上げによる影響を細かくみると、消費者物価指数(東京都区部のコアCPI)に占める非課税品目1の割合が30%強、経過措置で新税率の適用が11月以降となる品目2の割合が10%弱、軽減税率の対象品目3の割合が15%程度であるため、10月に消費税率引き上げの影響を受ける品目の割合は40%程度となる。この点を考慮すると、消費税率引き上げによりコアCPI上昇率の押し上げ幅は10月が0.7%ポイント、11月以降が0.9%ポイントとなる。
○19年9,10月のコアCPIの内訳(東京都区部) 9月から10月にかけての上昇率の変化を課税品目(10月から新税率適用)、非課税品目、経過措置品目、軽減税率対象品目に分けてみると、課税品目の上昇率は9月の前年比0.7%から同2.2%となり、上昇率の拡大幅は消費税率引き上げ分(1.85%(=(1.10-1.08)÷1.08))を下回った。
品目別価格転嫁率の比較(東京都区部) 一方、課税品目について、品目別の価格転嫁率を確認すると、転嫁率が150%以上の品目が27%(14年4月は23%)、100~150%の品目が28%(14年4月は28%)、50~100%の品目が17%(14年4月は24%)、50%未満の品目が28%(14年4月は25%)であった。上昇率の変化幅が消費税率引き上げ分と同じかそれ以上となった品目の割合は前回増税時を上回った。

価格転嫁率が100%以上の品目の割合が前回増税時を上回ったにもかかわらず、課税品目全体の上昇率の拡大幅が消費税率引き上げ分を下回ったのは、既往の原油安の影響でガソリン、灯油の上昇率が税抜き価格で下がったこと、課税品目である家庭用耐久財の上昇率が税込み価格で9月の前年比10.7%から同4.9%へと大きく縮小したことなどによる。

前回の消費増税時には、政府は消費税の転嫁拒否や消費税分を値引きする等の宣伝・広告を禁止することによって、円滑な価格転嫁を促進することに軸足を置いていた。今回は税率引き上げの日に一律一斉に税込価格の引き上げが行われないようにすることで、駆け込み需要と反動減を抑制することを目的として、「消費税還元セール」など、消費税と直接関連した宣伝・広告は禁止する一方で、事業者の価格設定のタイミングや値引きセールなどの宣伝・広告自体を規制するものではないことを強調するなど、企業に柔軟な価格設定を認めていた。

実際には、転嫁率が100%を超える品目の割合は前回増税時を若干上回る一方、価格転嫁率が50%未満の品目の割合も前回増税時より多かった。このことは、税込み価格を据え置くことで実質的に値下げした品目と、消費税率引き上げ時に税込み価格から税抜き価格に切り替えることで実質的な値上げをした品目が混在していることを示唆する。

非課税品目(9月:前年比0.3%→10月:同▲1.1%)、経過措置品目(9月:前年比▲1.0%→10月:同▲1.7%)、軽減税率対象品目(9月:前年比1.3%→10月:同1.3%)は、消費税率引き上げの影響を受けていない。

非課税品目の上昇率が大きく低下したのは、幼児教育無償化対象の幼稚園保育料(公立)の価格がゼロとなったことに加え、幼稚園保育料(私立)が前年比▲88.3%、保育所保育料が前年比▲57.1%の大幅下落となったためである。幼児教育無償化によるコアCPI上昇率への寄与度は当初の想定通り▲0.6%ポイントであった。一方、火災・地震保険料の値上げ(9月:前年比2.1%→10月:同14.8%)が非課税品目の上昇率を押し上げた。

経過措置品目については、原油安の影響で電気代(9月:前年比0.4%→10月:同▲1.2%)、都市ガス代(9月:前年比▲0.1%→10月:同▲1.5%)の上昇率が下がったことが下落幅拡大に寄与した。

軽減税率対象品目のほとんどが食料(酒類、外食を除く)だが、10月の上昇率は前年比1.3%となり9月と変わらなかった。
 
1 非課税品目は家賃、診療代、授業料、教科書、介護料等
2 経過措置の対象となる品目は電気代、都市ガス代、通信料(固定電話、携帯電話)等
3 軽減税率対象品目は食料(酒類、外食を除く)、新聞代

3.10月の全国コアCPI上昇率は0.4%を予想

東京都区部の10月速報の結果を受けて、現時点では10月の全国コアCPIは前年比0.4%(9月:同0.3%)になると予想する。全国は東京都区部と品目別のウェイトが異なるため、消費税率引き上げによるコアCPI上昇率への影響は10月が0.8%ポイント、11月以降が1.0%ポイント程度、幼児教育無償化による影響は10月以降が▲0.6%ポイント程度となる。東京都区部の結果を踏まえると、全国の9月から10月にかけての上昇率の変化幅は、これらの制度要因による影響(+0.2%ポイント)を若干下回るだろう。
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2019年10月29日「経済・金融フラッシュ」)

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