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中期経済見通し(2019~2029年度)

経済研究部 経済研究部
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2014年度の消費税率引き上げによって、国・地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)の名目GDP比は2013年度の▲5%台から2017年度には▲3%台前半まで改善した。
2019年10月の消費税率引き上げに伴う国・地方の増収は5.7兆円程度が見込まれているが、(1)軽減税率制度、(2)幼児教育無償化、(3)ポイント還元、プレミアム付商品券、すまい給付金などの経済対策が同時に実施されるため、2019年度から2020年度にかけての財政収支の改善は小幅にとどまるだろう。今回の予測では、2026年度に消費税率を10%から12%に引き上げるが、軽減税率の導入により食料(酒類、外食を除く)の税率は8%に据え置かれることを想定している。このため、税率1%引き上げによる消費税収の増加は従来の約4分の3にとどまる。
政府の財政健全化目標は、2025年度に基礎的財政収支を黒字化、債務残高の対GDP比の安定的な引き下げだが、今回の予測では、基礎的財政収支は2029年度でもGDP比▲2.6%の赤字となり、黒字化は実現しないと予想する。
この結果、すでに約1000兆円となっている国・地方の債務残高は2029年度には約1300兆円まで増加するだろう。一方、債務残高の名目GDP比はすでに約200%となっているが、今後10年間は名目GDPが比較的高い伸びとなるため、対GDP比の上昇には歯止めがかかるだろう。
なお、予測期間の前半は長期金利がほぼゼロ%で推移することにより、利払い費が抑制された状態が続くが、債務残高の拡大が続く中で予測期間末にかけては長期金利が緩やかに上昇するため、利払い費(ネット)を含む財政収支は改善しないだろう。
4. 金融市場の見通し(メインシナリオ)
日銀は現在、2%の物価目標を安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する方針を示しているが、2%のハードルは高く、今後も現行の金融緩和を長期にわたって続けざるを得ない。米長期金利の持ち直しが波及することで長期金利(10年国債利回り)は若干上昇するが、超低金利が長期間にわたって継続する。
日銀が金融緩和の正常化、すなわち出口戦略に着手する時期は2024年度を見込んでいる。物価上昇率2%の安定的な達成は難しいが、この時期には1%台半ばに到達し、1%台後半への上昇も視野に入ってくる。また、この頃には長引く緩和に伴って、金融システムの不安定化リスクといった副作用が今より増大することも出口戦略への移行を後押しすると考えられる。
具体的な政策変更としては、2024年度にマイナス金利政策を終了、かつての政策金利である無担保コールレート誘導目標(上限0.10%)を復活し、量的緩和の旗も降ろすと予想する。一方、長期金利の誘導目標は残し、出口局面にあたって長期金利が急上昇する事態を回避するだろう。この場合、長期金利を目標に留めるために必要な分の国債買入れは継続することになる。

長期金利については、日銀が長短金利操作の中で、誘導目標をゼロ%程度に据え置くことから、予測期間中盤にかけては、0%前後に留まる。既述のとおり、米長期金利の持ち直しが波及することで2020年度以降に多少上昇するものの、上昇幅は限定的となる。2024年度の出口開始後は誘導目標の引き上げによって上昇余地が生まれるが、目標引き上げは緩やかなペースに留められることで、急上昇は回避されるだろう。物価上昇率が2%を下回って推移するため、日銀は実質金利(名目金利-予想物価上昇率)をゼロ%以下に抑制することで緩和的な金融環境を維持し続けるとみられ、長期金利の水準は予測期間末でも1%弱に留まると予想する。

FRBは2019年夏以降、物価の伸び悩みと貿易摩擦等の景気下振れリスクを受けて利下げ路線に転じており、FF金利誘導目標(政策金利)は年末にかけて1.75%(上限、以下同じ)まで引き下げられると予想する。
一方、2020年には貿易摩擦等の下振れリスクが一旦緩和することで景気の大幅な減速は回避され、利下げも停止される。そして、2021年には、景気の底固さを背景とする物価上昇率の持ち直しを受けて利上げを再開し、政策金利は2022年にかけて2.50%まで引き上げられるだろう。予測期間半ば以降も同水準で維持されると想定している。
昨年終盤以降、低下基調を辿ってきた米長期金利も、利下げの停止とその後の利上げ開始を受けて上昇に転じ、利上げが打ち止めとなる2022年に3.2%に到達、以降は横ばいで推移すると見込んでいる。

ECBは景気減速等を受けて正常化路線を一旦停止し、2019年秋に追加緩和(マイナス金利深堀り+資産買入れ再開)を決定したが、2021年には景気の底入れ、物価の持ち直しを確認したうえで金融政策の正常化の第一ステップであるマイナス金利の縮小に着手すると見込まれる。そして、2022年には現行0%に据え置かれているECB市場介入金利(政策金利)の引き上げを開始し、2024年にかけて1.25%まで引き上げられた後は据え置かれると見込んでいる。
ユーロ圏の代表的な長期金利である独長期金利も金融政策の正常化を織り込んで上昇に転じ、利上げが打ち止めとなる2024年に1.8%に達した後は横ばいで推移すると予想している。

ドル円レートは、当面ボックス圏で推移した後、FRBの利上げ再開に伴う日米(長短)金利差拡大によってドルの投資妙味が高まることで、2022年度にかけて1ドル112円へと円安ドル高が進む。ただし、同年度中にはFRBが利上げを停止し、米金利が頭打ちとなるため、ドル高はその推進力を失う形になる。
その後は、日銀が金融政策の出口戦略に着手し、段階的に進められることで日米金利差が縮小するため、予測期間末にかけて円高ドル安基調が続く見通し。予測期間中の日本の物価上昇率が米国を下回り続けると見込まれることも、(相対的に低インフレ通貨は上昇しやすいという)購買力平価の観点から円高に作用する。
一方で、日銀の出口戦略は極めて緩やかに行われ、長期金利も低位に抑制されることに加えて、これまで円高圧力となってきた日本の経常黒字が縮小し、赤字化することが、円高の進行を抑制する。このことから、水準としては予測期間末時点で1ドル105円と、現時点の水準と比べて多少の円高に留まると見ている。
ユーロドルレートについては、2021年にかけてECBとFRBの金融政策の方向感に明確な差が出ないことから、しばらくボックス圏での推移に留まる。しかし、2022年にはFRBが利上げを停止する一方で、ECBの利上げは2024年まで続けられるため、この間はユーロ高基調が明確になるだろう。ECBの利上げは2024年に打ち止めとなるが、予測期間後半には、基軸通貨ドルの相対的な地位低下を受けて、ドルに次ぐ位置付けにあるユーロがその受け皿の役割を期待されることになり、緩やかなユーロ高圧力が発生する。また、日本同様、予測期間中のユーロ圏の物価上昇率が米国を下回り続けると見込まれることも、購買力平価の観点からユーロ高に働く。ユーロドルレートは、予測期間末にかけて1ユーロ1.26ドルまで上昇すると見込んでいる。
ちなみに、ユーロ円レートは、ECBの金融政策正常化が日銀に先行することで、予測期間半ばにかけてユーロ高基調となり、2024年には1ユーロ132円台に回復する。その後は日銀が出口戦略を開始することが円高圧力となるが、出口戦略は極めて緩やかに行われるほか、日本の経常収支が縮小を続け、赤字化することが円高の進行を抑制することから、予測期間末にかけて横ばいで推移すると予想している。
(2019年10月15日「Weekly エコノミスト・レター」)
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