2019年07月22日

米中関税競争の経済コスト-通商法301条に基づく対中追加関税賦課から1年。米中関税競争の影響が次第に明らかに

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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■要旨
  1. トランプ政権は18年以降、中国からの輸入品に対する関税強化策を相次いで実行してきた。とくに、中国の知的財産権の侵害を理由に通商法301条に基づいて18年7月から実施されている関税強化策では、第3弾までで対中輸入のおよそ半額に当る2,500億ドルに25%の関税が賦課される状況となっている。
     
  2. 米国の関税強化策や中国からの対抗措置に伴い、米中ともに制裁対象品の貿易額減少が顕著となっている。今後、関税強化策がさらに強化される場合には米国の農業や製造業への影響が大きいとみられる。
     
  3. 一方、最近の研究では制裁関税の引き上げ分が相当程度最終価格に転嫁されているとの試算が示されており、対中関税の引き上げが米国内の家計や企業の負担増に繋がっていることが明らかになっている。家計の負担増加額は、対中関税第3弾までで年間800ドル程度との試算もあり、第4弾まで実施される場合には18年から実施されている個人向け減税の効果を相殺する可能性が高い。
     
  4. 6月下旬の米中首脳会談での合意に伴い、米中関税競争は一旦小康と予想される。もっとも、トランプ大統領は通商交渉での合意には時間がかかると発言しており、関税賦課が長期化する可能性が高いほか、依然として関税競争が再び激化する可能性も残されているため、今後の動向が注目される。
(図表1)301条に基づく制裁対象輸入額の伸び(前期比年率)
■目次

1.はじめには
2.米中関税競争と実体経済への影響
  (米中関税競争):18年に以降に相次いで実施された関税強化策
  (米中貿易への影響):制裁対象品の貿易額が関税賦課以降大幅に減少
  (関税負担):対中関税引き上げ分は最終価格に転嫁、米国の家計負担は上昇
3.米中首脳会談の結果と今後の米中関税競争の見通し
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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