2019年07月16日

人口減少社会データ解説「なぜ東京都の子ども人口だけが増加するのか」(中)-女性人口エリアシャッフル、その9割を東京グループが吸収-

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー   天野 馨南子

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はじめに-産声の向こうに、「エリア母親候補人口の姿」あり

少子化対策が叫ばれる日本において、各都道府県(ならびに市町村自治体)が出生率比較ばかりに目を向け、出生率をそのエリアのKGIとしてしまうことのリスクを、基礎研レポート「データで見る「エリア出生率比較」政策の落とし穴~超少子化社会データ解説-エリアKGI / KPIは「出生率」ではなく「子ども人口実数」~」で示した。
そして、「なぜ東京都の子ども人口だけが増加するのか」シリーズの(上)にて、2005年~2015年の10年間の各都道府県の子ども人口の増減についてみると、それぞれの都道府県が少子化対策のゴールとして掲げがちなエリア出生率の高低が、そのエリアの子ども人口の増減と統計的関係性を持つことが出来なくなってしまっている、という分析結果も示した。
 
「出生率が子ども人口増減に影響することができない」
その理由は「0にどんなに高い割合をかけても0」だからである。
つまり、母親候補となる女性人口が少なければ、どんなに出生率が高くとも、そのエリアの子ども数は減少してゆく。
勿論、母親候補の女性人口が一定数キープされているという条件下ならば、出生率を高めるだけの政策で子ども人口増加の効果は出る。しかし、女性人口の社会流出が発生すると、高い出生率が人口流出の影響で無効化もしくは弱体化される。そしてレポート(上)において、統計上は各都道府県の子ども人口増減に対して女性人口の社会増減が大きな影響力をもち、それが出生率の高低による子ども人口の増減効果を打ち消すレベルにすでに達している、ことを示した。
 
そこで、「なぜ東京都の子ども人口だけが増加するのか」シリーズの(中)では、子ども人口増減に高い相関を持つ女性人口の社会移動が、実数としてどれくらいの規模で発生しているのか、可視化することにしたい。
 

1――平成最後・2018年の「女性人口の動き方」

1――平成最後・2018年の「女性人口の動き方」

最初に、人口の社会移動データを見る上で大切なポイントを示しておきたい。
 
ポイント1. あるエリアXについて一方向に女性が出て行く/入ってくる状況(グロスベースの動き)だけで評価することは意味がない。
 
人口流出や人口流入の一方通行ベースは、ダイバーシティの動きであり、山間地域を好まない、海辺を好まない、過密な住環境を好まない、など個人の好みはそれぞれ多様であり、過度に問題視されるべきではない。人々の好みが多様性をもつことで、むしろ全ての都道府県に社会移動による流入チャンスが発生するともいえる。
 
ポイント2. あるエリアXから女性が出て行くが、出て行った分の女性(注:別の女性で構わない)が入ってこないことが問題となる。この(流入数-流出数)を人口の社会純増または社会純減(ネットベースの転出入)、という。
 
エリアXにおいて、ネットベースで女性が減る、ということは、その減った数の女性がどこか他の都道府県エリアで増えていることになる(本稿では国外転出は考察しない)。
もし、日本にXとYという2県しかないとすると、Xからの転居によって純減した女性が1000人(2000人県外に引越し、1000人県内に引越ししてきた場合など)とすると、Yでは転居によって女性が1000人、純増することになる。
 
当たり前のことではあるが、どこかの自治体の社会移動による人口減少は、かならずどこかの自治体(複数もある)の社会移動による人口増加を生むのである。
そこで、まずは平成最後の年、2018年の全国における女性人口の社会移動によるシャッフリング(人口入れ替え)状況を見てみたい(図表1)。
 
2018年においては、社会移動によってネットベースで8万6772人の女性人口の入れ替えが生じた。この入れ替えによって、次世代人口の母親候補となる女性人口を増やすことが出来たエリアはわずか8エリアにとどまり、残りの39エリアが女性人口を減らす結果となった。
 
この結果から、女性が社会移動によるシャッフリングの結果、いかに特定エリアに集中して増加しているかがわかる。しかも女性を増やすことができた8エリアのうち1位から4位が全て関東、もっというと東京都とそのベッドタウンエリアばかりであることがわかる。
【図表1】2018年・女性人口入れ替え数 都道府県ランキング
【図表2】 2018年に女性人口を社会増加させた8エリアの増加人口割合
東京都だけで、全国の女性人口純減分の55%、4万7千人以上を獲得している。
これに神奈川県、埼玉県、千葉県という東京都近接エリア(ベッドタウンエリア)での純増を合計すると全体の92%となり、日本における年間女性人口の「シャッフリングによる人数入れ替え」の9割以上を「東京グループ」が獲得している、ということになる。
 
ちなみに東京都がたった1年間で純増させた4万7千人以上という「女性」人口数は、自治体人口レベルでみると、愛知県岩倉市、沖縄県石垣市、三重県志摩市、山形県東根市などの「男女合わせた」人口数にほぼ匹敵する。
たった1年で、地方の市の総人口レベルに達する女性人口が東京都内に新たに増加する、という驚異的な移動状況である。
 
その一方で、女性を多く純減させ、結果的には関東エリアに送り込んだ形となったのは、流出が多い順に福島県・新潟県(4000人以上純減)、長崎県・茨城県・北海道(3900人以上純減)、静岡県・岐阜県・青森県・広島県(3500人以上)であった。
 

2――男性人口の移動との差異はあるか?

2――男性人口の移動との差異はあるか?

女性人口移動の話を聞くと「それよりも男性の流出が多いはずだ」「男は仕事を求めて動くのだから、産業政策は男性の誘致を重視していれば、いずれそれに妻子がついて移住してくるだろう」と昭和生まれ世代は考えがちである。これには多分に法的な時代背景があるので致し方ない部分はある。
 
育児休業法施行が1993年であるため、令和元年現在26歳以上の男女の親となる世代は、その子の出産時点ではまだ「子どもを生んで育児休業をとる」ということが法的に保障されていなかった。そのため、乳幼児・小学生などの低年齢の子どもを持つ母親が一般企業や団体のサラリーマン正社員として働く、ということは一般的には困難であった。
つまり、今の20代後半以上の男女の親世代にとっては、女性が妊娠・出産すると仕事をやめざるを得ない、というパターンがある意味必然の流れだったため、地域活性化対策の策定における「夫に仕事を。そうすれば妻子がついてくる」という発想も、それは当然であろう、との考え方に傾きやすい「育児に関する法的保障なき世代観の罠」が存在する。
男性の人口移動ばかりを眺めて地方創生を考えてしまうケースも、このような現代における「親世代」が中心となって、主に自らの時代観のもと社会で活躍しているからという背景がある。
 
しかし、本当に「女性は男性について移動」するのだろうか。
データで確認してみたい(図表3)。
【図表3】2018年 各都道府県の転出・転入・転入超過(転入-転出)・転入超過の男女差(人)
まず全国で見ると、2018年の全国ベースの転出総数と転入総数は一致し、のべ254万人の男女が一方通行のグロスベースで動いたことがわかる。そのうち男性は141万人、女性は113万人であるため、確かに男性の方が女性より28万人多く移動している。さらに、47の全都道府県において、女性より男性の方が「片道ベースで見ると」多く移動しているのも事実である(図表赤字)。
 
もし江戸時代のように都道府県の境界に「関所」があったとすると、関所の役人の目には総数ベースでは入ってくる人も出て行く人も、男性の方が沢山目に映る。そのために「社会移動といえばまず男性対策」という印象が頭に浮かびやすい。
しかし、脱「地方の過疎化」を目指す地方創生移住政策や地方の子ども人口増加政策においては、出て行く男女と入ってくる男女の「流出入差」こそが、そのエリアにとっての「本当の指標」となる。繰り返しになるが、価値観の多様化によってあるエリアから出て行く人が多くなったとしても、同じく価値観の多様化によってそのエリアに入ってくる人も増えていればエリアの人口数的に問題がないからである。よって、地方創生も女性の社会移動に強く相関する地方の子ども人口の増加も、図表の一番右の「転出入人口の差」をゴールとして対策を考えなければならない。
 
2018年において、転出入総人口差でプラス(社会増加)を達成したのは、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、愛知県、滋賀県、大阪府、福岡県の関東4エリア・関西2エリア・中部と九州1エリアの8エリアのみである。その他の39エリアは男女ベースで人口を減少させている。
人口を社会増加させた数少ない8エリアの流出入差の詳細をみてみると、8エリアのうち5エリア(千葉県、東京都、神奈川県、大阪府、福岡県)が「男性よりもむしろ女性を多く社会増加させている」ことがわかる。千葉県は男性の1.9倍、東京都は1.5倍、神奈川県は1.1倍、福岡県は1.7倍、大阪府にいたっては、男性を減少させる一方で女性を増加させる、という結果となっている。
その一方で、男女ベースで人口を社会純減させた39エリアを見てみると、宮城県、兵庫県、奈良県、京都府の4エリアを除く35エリアが全て「男性よりも女性を多く社会減少させている」ことがわかる。
 
人口の社会増加エリアのうち、地元の主要製造業が県全体の産業/労働構造に大きな影響力を持っている愛知県だけは、女性の2.3倍の男性を増やす、という男性誘致選好型のエリア特殊性を見せたものの、図表からは、
社会人口増加エリア・社会人口減少エリア
があることが判明した。
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生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

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