2019年07月12日

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(2) 妻・母の消費行動の変化~家族のための消費も自分のための消費も、「ママでもキレイ」は当たり前
結婚後も出産後も外で働く女性が増えることで、女性の消費にも変化があらわれている。ひと昔前は、妻や母が独身時代のようにファッションやネイルなどを楽しんでいると、世間から白い目を向けられる風潮もあっただろう。しかし、現在では結婚後も出産後も独身時代に楽しんでいたファッションや趣味を楽しむ女性が増えているようだ。

当研究所の調査より、20~40代の働く女性の「日常生活でお金をかけたいもの」をライフステージ別に見ると、独身女性では1位の「国内旅行」から10位「音楽」まで主に自分のためのものが並び、妻になると「投資」が、母になると「子供の教育」や「ローンの返済」、「医療」など家族のためのものがあがる(図表3-5)。しかし、「国内旅行」や「貯蓄」、「外食(グルメ)」、「海外旅行」、「健康・リラックス」、「ファッション」の6つはライフステージが変化しても10位以内を保ったままだ。ライフステージの変化とともに、同じ消費項目でも消費主体は自分から家族の比重が高まるのだろうが、今の母達においては、特に「ファッション」などは自分の比重が高いままなのではないだろうか。
図表3-5 20~40代の働く女性が日常生活でお金をかけているもの(3つまで選択)
その様子は女性ファッション誌の創刊年表を見るとよく分かる。1980年代では女性ファッション誌は主に女子大生や若いOL向けのものしかなかったが、1990年代に入ると主婦向けのものが発行されるようになった。さらに、2000年代には母向けのものがオフィスで働くワーキングマザー向けやカジュアルファッションを好む母向けなど、母のタイプ別に細分化されるようになった(図表3-6)。また、ワーキングマザーが増える中で、これまでキャリアOL向けだった雑誌でも方針転換したものもある。

今では出産後もファッションを楽しむことは世間から白い目を向けられることではなくなり、「ママでもキレイ」が当たり前になりつつある。確かに母になると「家族のための消費」が増えるが、今の母はファッションなど「自分のための消費」にも意欲的だ。既婚女性の就業率は上昇傾向にあり、働く母市場は消費者層としての魅力を増している。
図表3-6 主な女性ファッション誌の創刊年表
5|「パワーカップル」と高額消費
(1) じわり存在感が高まる「パワーカップル」~夫婦ともに年収700万円以上は26万世帯で増加傾向
共働きの女性が増える中で、妻が夫並みに稼ぐ「パワーカップル」もじわりと存在感を増している14。仮にパワーカップルを夫婦ともに年収700万円以上とすると、2013年では21万世帯であったが2017年には26万世帯(増加率+23.8%)へと増加している(総務省「労働力調査」)。また、その約半数は子どものいる世帯だ。かつては高年収の男性の妻ほど就業率が低かったが(ダグラス・有沢の法則)、年収によらず全体的に女性の就業率が上昇していることで、年収700万円以上の男性の妻の就業率も上昇している(2013年57.2%→2017年63.0%)。
 
14 久我尚子「パワーカップル世帯の動向(1)~(4)」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レター(2017/8~11)
図表3-7 共働き妻の年収別に見た「日常生活でお金をかけたいもの」 (2) 「パワーカップル」の高額消費~年収700万円以上の妻では「海外旅行」や「外食(グルメ)」が多い
2章で述べた通り、就職氷河期世代が親となることで子育て世帯では必需性の低い消費は可能な限り抑制し、貯蓄へ回す傾向が強まっている。一方、パワーカップルでは必需性の低い選択的消費に対する消費意欲も旺盛だ。

当研究所の調査より、「日常生活でお金をかけたいもの」を共働き妻の年収別に見ると、年収700万円以上では、特に「海外旅行」や「外食(グルメ)」などの選択割合が高くなっている(図表3-7)。
図表3-8 女性の労働力率(2018年) 6|女性消費のさらなる活性化に向けた課題
(1) 女性のM字カーブと就業希望~就業希望があるのに働くことができていない女性は300万人
以上、見てきたように、働く女性が増えれば消費が活性化し、消費が底上げされる可能性がある。しかし、女性の就労環境には未だ課題は多い。

実はM字カーブは、就業希望のある女性を合わせると、おおむね解消する(図表3-8)。現在、就業希望があるにも関わらず働くことができていない女性は人手不足の中で約300万人存在する。働いていない主な理由は「出産・育児のため」(32.1%)、「適当な仕事がありそうにない」(26.6%)ということだ。つまり、出産・育児で一旦離職せざるを得ない、また、離職してしまうと出産前のキャリアを活かせるような、あるいは家庭と両立できるような適当な仕事がないということだろう。
図表3-9 第1子の生まれ年別・雇用形態別に見た妻の出産後の就業継続率 (2) 最大の障壁は出産後の就業継続~育休が取得しにくい非正規雇用者は4分の3が退職
出産後の就業継続状況は雇用形態で大きく異なる。国立社会保障人口問題研究所「出生動向調査」によると、第1子出産後の就業継続率は正規の職員では順調に上昇しており、直近では約7割だ(図表3-9)。一方、パート・派遣では1980年代から2割前後で推移しており、現在でも約25%である。依然として4分の3が出産で退職する。

景には育休取得率の違いがある。直近では正規の職員の育休取得率は就業継続者のうち85.5%(退職者も分母に含めると59.0%)、パート・派遣では41.8%(10.6%)だ。

この差は、非正規雇用者の育休取得要件が厳しいことがあるだろう。非正規雇用者が育休を取得する際は「同一の事業主に引き続き1年以上雇用されていること」に加えて、これまでは「子の1歳の誕生日以降も引き続き雇用されることが見込まれること」といった要件を満たす必要があった。しかし、安定した企業でない限り、この要件を満たすことは難しい。2017年1月の改正で「子が1歳6か月に達する日までに、労働契約の期間が満了することが明らかでないこと」へと緩和され、今後、育休取得率が改善される可能性はあるが、人手不足の中では小規模の事業所ほど取得希望を言い出しにくい状況もあるだろう。

さらに、そもそも非正規雇用者(有期契約労働者)が育休を取得できることへの認知度が高くない状況もある。十年前のデータであり現在は改善されているのだろうが、厚生労働省「平成 21 年度有期契約労働者の育児休業等の利用状況に関する調査」によると、有期契約労働者も育児休業を取れることを知らない割合は53.8%である。
図表3-10 6歳未満の子供を持つ夫婦の家事・育児関連時間(1日当たり、国際比較) (3) 正規雇用者の障壁~職場の制度環境は整っていても家庭環境が整っていない?
正規雇用者の第1子出産後の就業継続率は約7割だが、裏を返すと、職場の制度環境が整っているはずの正規雇用者でも3割が退職している。この理由の1つには、職場環境は整っていても、家庭の環境は必ずしも整っているわけではないことがあげられる。6歳未満児を持つ夫婦の家事・育児関連時間を見ると、特に日本では妻への偏りが大きい(図表3-10)。世間を見渡しても、夫婦ともに正社員でフルタイムで働いたとしても、家事・育児は主に妻が担っている家庭も少なくないのではないだろうか。

さらに、保育園待機児童問題やマミートラックの問題もあるだろう。マミートラックとは育休や時間短縮勤務制度などを利用し、いざフルタイムに復帰すると、これまでのキャリアコースではなく、昇進や昇格とは縁遠いコースに固定されてしまうことだ。特に、高学歴でハイキャリアコースを歩んできた女性ではモチベーションの低下につながりやすく、退職にもつながり得る。いずれも「女性の活躍推進」政策等が進むことで、今後改善される可能性はあるが、過渡期の現在では退職に至る女性も少なくない。
図表3-11 大学卒女性の働き方ケース別生涯所得推計(フルタイム標準労働者をベースとした推計) (4) 女性の消費余力~大卒女性の生涯所得は育休・時短を利用しても2億円超
出産・育児で一旦離職すると生涯所得には多大な影響がある。大学卒女性の生涯所得を推計すると15、育休や時短を一度も利用せずに60歳までフルタイムで働き続けた場合、約2.6億円、2人出産し、それぞれ育休や時短を利用すると2.1~2.3億円となる(図表3-11)。

一方で、出産退職し、子育てが落ち着いた後にパートタイムで復帰すると約6千万円となり、育休や時短を利用して就業継続したケースと比べて1.5~1.7億円も少ない。男性並みに稼ぐパワーカップル妻では、さらに大きな差となる。

 生涯所得の差は女性自身にとっても配偶者にとっても大きな問題であるとともに、日本の消費市場にも多大な影響を与え得る。女性が希望通り働くことができ、消費意欲が旺盛な女性が手にする所得が大幅に増えれば、当然ながら消費市場は拡大する。
 
15 久我尚子「大学卒女性の働き方別生涯所得の推計」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2016/11/16)


7|就労環境の整備で女性消費は拡大の余地あり
3章では、「平成における消費者の変容」として、「女性」に注目して消費の変化を捉えた。平成は働く女性が増え、女性の経済力が増した時代だ。しかし、女性の就労環境には未だ課題は多く、就業希望がありながらも働くことができていない女性は少なくない。就労環境の改善が進み、女性が希望通りに働くことができるようになれば、女性の消費により日本の消費市場が底上げされる可能性は十分にある。

平成は女性の就労環境の整備が進んだ時代だ。未だ課題はあるが、男女平等や育休・時短など女性自身にまつわる状況の改善が進んだ。次の時代は配偶者を含め周囲の状況を改善していく時代だろう。現在も進められているが、男性の育休促進や長時間労働の是正などは効果的だ。既に、現在の30代以下の「男子も家庭科必修世代」ではイクメンやイクボスといった言葉はもう古いとも聞く。夫婦ともに育児をすることは当たり前であり、ひけらかすことではないためだそうだ。「女性の活躍」はまだ道半ばだが、若い世代の意識は変わり、着実に状況は進んでいる。
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

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【平成における消費者の変容】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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