2019年07月01日

欧州保険会社が2018年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(1)-全体的な状況報告-

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6|EIOPAの反応
EIOPAのGabriel Bernardino会長は、2018年12月に開催された「Insurance Risk&Capital EMEA Conference」において、2020年のソルベンシーIIのレビュー問題に関連して、SFCRについて、「大きな付加価値なしにボリュームを追加するコピー・ペースト・テキストがたくさんある。SFCRのいくつかの要素を合理化することが可能だ。」と述べていた。さらに、「同時に、より標準化したいと考えている。アナリストや投資家からのメッセージである。私に非常に頻繁に言われている一つの側面は、自己資本とSCRの期間毎の変化の原因を見るための標準化された方法を持つことである。」と述べていた。
7|監督当局の対応-外部監査要件の対象会社の緩和-
英国はSFCRの数値の外部監査を義務付けているが、PRAは、2018年11月15日以降に終了する会計年度において、一定の要件を満たす「小規模会社」についてはこの要件を免除することとした。

これは中小会社の監査費用の負担が大きいとの批判に対応したものである。これにより、PRAによれば、150社以上の小規模会社及びグループが恩恵を受けることになるとしている。

なお、PRAはこれに併せて、パブリック・ディスクロージャー監査方針の「透明かつより比例した」適用を支持するが、規制データの質及びこれらの企業からの公表を引き続き監視するとした。
 

5―2018年のSFCR公表を受けての動き

5―2018年のSFCR公表を受けての動き

今回の2018年のSFCRについての直接的な反応は、公表されて間もないこともあり、このレポートの作成時点では比較的限定されている。

ただし、SFCRに対する基本的な反応については、2年前の保険年金フォーカス「欧州保険会社が2016年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(1)-全体的な状況報告-」(2017.7.11)で報告しており、この反応や意見は引き続きベースとして存在している。
1|保険会社の対応
SFCRについてはグループのみ作成し、子会社毎に別々のSFCRを作成することが免除されるオプションも用意されているが、これを利用している会社は少数で、殆どの会社が単体のSFCRも作成している。

保険会社各社は、他社のSFCRを分析すること等を通じて、自社のSFCRの見直しを行ってきている。各種の説明内容や情報の提供レベルについては、他社との比較感を見る中で、自社のSFCR作成に生かしていこうとしている。時間の経過とともに、自然に一定程度のコンバージェンスが実現していくことが期待されている。
2|SFCRの読者について
昨年のレポートで報告し、また先の章のGDVの評価でも見られるように、SFCRについては、アナリストやコンサルタント、競合他社等に読者が限られており、保険契約者には殆ど読まれていない状況にある。実際に、SFCRのあるページをクリックする人は多いが、SFCRがダウンロードされる数は限られた状況にある。

こうした中で、保険会社の作成者も、SFCRが多くの読者に読まれることは想定しておらず、例えば平均的な保険契約者がSFCRの内容を理解することも想定していない模様である。ただし、要約版については、これが多くの読者に何らかの示唆を与えることを目指している模様である。

その意味で、SFCRの内容については、一定程度の読者を想定した上で、理解してもらいたい事項、あくまでも一定の事実として認識してもらいたい事項等を整理する中で、それぞれの記載内容や記載方法及び記載量等のバランスが取られていくことになるものと想定される。

なお、格付機関もSFCRが格付けに大きな影響を与えるとは判断していないようであり、その意味ではSFCRの位置付けが改めて問われているともいえる。
 

6―まとめ

6―まとめ

今回のレポートでは、作成及び公開3年目となる2018年のSFCRの全体的な状況について報告してきた。
1|保険会社によるSFCRの作成
保険会社はSFCRの作成において、可能な限り既存の報告書からの引用等も利用する中で、負担の軽減を図っているが、それでも限られた時間の中で、多大な労力が費やされている。2016年は最初の年であったことから、試行錯誤もあったが、2017年以降は2016年の結果を踏まえて、その作成に関してはかなりスムーズに進んできているようである。こうした状況下で、一部の会社はかなり前倒しでのSFCRの提出及び公表を行っている。2019年の報告書からは、移行期間が終了して、本来的なスケジュールになっていくが、さらなる効率化に向けた努力も必要と思われるものの、ほぼ各社とも対応が可能な状況になっているようである。

一方で、SFCRに対する各種の意見や評価も踏まえて、必要に応じて、さらなる充実を図りつつ、分かりやすさを追求しての簡素化等に向けた取組みも求められてくることになる。
2|監督当局等からの要請への対応
一方で、今回のレポートで報告したように、アナリストや投資家等からのニーズ等も踏まえて、監督当局からは、引き続きの改善に向けた要請が行われてくることになる。EIOPAは、2016年のSFCRについて分析を行い、2017年12月18日に、(再)保険会社及びグループによるSFCRについての最初の監督上の経験に関する分析結果である「EIOPAの監督声明:ソルベンシーII:ソルベンシー財務状況報告書」 を公表6しているが、この監督声明の中で、EIOPAは、(再)保険会社及びグループに対して、比例原則を損なうことなく、SFCRに関するいくつかの重要な調査結果及び改善領域について考慮することを奨励していた。

ただし、欧州大手保険グループのSFCRについては、元々他の会社に比べれば充実した内容になっていることから、これまでのSFCRと比べて2018年のSFCRの内容が大きく変更されているわけではない。

いずれにしても、SFCRの位置付け等については、各国の監督当局と保険会社との間で必ずしも十分な合意が得られていない面もあり、従ってSFCRにおいて提供されるべき情報の内容等についての考え方も必ずしも十分には統一されていないようである。こうした状況は、EU加盟各国の監督当局間及び保険会社及びグループ間でも当てはまることであり、各社のSFCRの記載内容の詳細については、各国監督当局及び各保険会社及びグループの考え方を反映して、各社各様のものとなっている。

ただし、こうした状況は過渡的なもので、SFCRについては、今後の監督当局と保険会社との関係や、保険会社各社の他社研究等を通じて、また将来的に経験を重ねることを通じて、その位置付けが徐々に固まっていき、より有用性の高いものとなっていくことが期待されることになる。特に、先に報告したように、EIOPAは、アナリストや投資家からの意見も踏まえて、今後も必要な検討を進めて、SFCRの実質的な価値を高めていくことを目指していることから、その取り組みが引き続き注目されることになる。

次回以降のレポートで、欧州大手保険グループ各社の2018年のSFCRから一部の項目(長期保証措置と移行措置の適用による影響、内部モデルと標準式の差異等)を抜粋して報告する。
 
6 この内容については、保険年金フォーカス「EIOPAが2016年SFCR(ソルベンシー財務状況報告書)に関する分析結果を公表」(2018.1.9)で報告している。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2019年07月01日「保険・年金フォーカス」)

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