2019年03月08日

2019・2020年度経済見通し-18年10-12月期GDP2次速報後改定

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1. 2018年10-12月期は前期比年率1.9%へ上方修正

3/8に内閣府が公表した2018年10-12月期の実質GDP(2次速報値)は前期比0.5%(年率1.9%)となり、1次速報の前期比0.3%(年率1.4%)から上方修正された。10-12月期の法人企業統計の結果が反映されたことにより、設備投資が前期比2.4%から同2.7%へ、民間在庫変動が前期比・寄与度▲0.2%から同0.0%へ上方修正された。一方、1次速報時点で未公表だった12月の基礎統計の結果を受けて、前期比0.6%の高い伸びとなっていた民間消費が同0.4%へ、公的固定資本形成が前期比▲1.2%から同▲1.7%へと下方修正された。
 
2018年10-12月期は2四半期ぶりのプラス成長となり、1%程度とされる潜在成長率を明確に上回る伸びとなったが、自然災害の影響で前期比年率▲2.4%の大幅マイナス成長となった7-9月期の落ち込みを取り戻していない。景気は実勢として停滞色を強めているとの評価は1次速報時点と変わらない。また、2018暦年の実質GDP成長率も0.7%から0.8%へ上方修正されたが、四半期ベースではマイナス成長とプラス成長を繰り返しており、日本経済は2018年を通して一進一退の推移が続いた。
(自然災害による供給制約解消後も、企業収益は悪化)
3/1に財務省から公表された法人企業統計では、2018年10-12月期の全産業(金融業、保険業を除く、以下同じ)の経常利益は前年比▲7.0%(7-9月期:同2.2%)と10四半期ぶりの減少となった。製造業が前年比▲10.6%と2四半期連続の減少となり、7-9月期の同▲1.6%から減益幅が拡大したことに加え、非製造業が前年比▲4.9%(7-9月期:同4.6%)と4四半期ぶりの減少となった。

季節調整済の経常利益は前期比▲5.1%(7-9月期:同▲14.5%)と2四半期連続で減少した。製造業(7-9月期:前期比▲21.1%→10-12月期:同▲11.2%)、非製造業(7-9月期:前期比▲10.2%→10-12月期:同▲1.5%)ともに2四半期連続で減少した。経常利益(季節調整値)は19.5兆円となり、2016年7-9月期以来9四半期ぶりに20兆円を割り込んだ。
経常利益(季節調整値)の推移 2018年10-12月期は、7-9月期の経済活動を大きく押し下げた自然災害による供給制約はほぼ解消されたにもかかわらず、経常利益が一段と落ち込んだ。企業収益は実態として悪化したと考えられる。先行きについては、2018年後半の収益を大きく悪化させた原油高の影響がなくなる一方、海外経済の減速を背景とした輸出の低迷が製造業を中心に売上高を下押しすることが見込まれる。現時点では、2019年1-3月期の経常利益は2018年10-12月期から持ち直すと予想しているが、そのペースは緩慢なものにとどまる可能性が高い。
 

2. 実質成長率は2018年度0.5%、2019年度0.6%、2020年度1.1%

2. 実質成長率は2018年度0.5%、2019年度0.6%、2020年度1.1%

(2019年1-3月期は再びマイナス成長の公算)
2018年10-12月期のGDP2次速報を受けて、2/15に発表した経済見通しを改定した。実質GDP成長率は2018年度が0.5%、2019年度が0.6%、2020年度が1.1%と予想する。2018年10-12月期の成長率は上方修正されたが、足もとの景気下振れを受けて2019年1-3月期の見通しを下方修正したことにより、2018年度から2019年度への発射台(ゲタ)が1次速報時点の0.2%から0.0%に下がった。この結果、2019年度の成長率見通しを▲0.2%下方修正した。2019年4-6月期以降の成長のパスはほとんど変えていない。
実質GDP成長率の推移(四半期)/実質GDP成長率の推移(年度)
輸出数量指数、鉱工業生産の推移 GDP1次速報後に公表された2019年1月の経済指標は足もとの景気悪化を示すものが多い。景気動向を大きく左右する輸出、鉱工業生産は2018年7-9月期に自然災害の影響で減少した後、10-12月期には供給制約の解消から持ち直したが、2019年1月にはいずれも大きく落ち込んだ。

2019年1月の水準を2018年10-12月期と比べると、輸出数量指数は▲5.3%、鉱工業生産は▲4.1%低くなっている。1-3月期が前期比でマイナスとなることは避けられないだろう。また、1月は商業動態統計の小売業販売額指数、住宅着工戸数などの家計関連指標も前月から大きく悪化した。
景気動向指数・CI一致指数の推移 3/7に内閣府から公表された2019年1月の「景気動向指数」では、CI一致指数が前月差▲2.7ポイントの大幅低下となった。内閣府によるCI一致指数の基調判断は、これまでの「足踏み」から「下方への局面変化」に下方修正された。「下方への局面変化」の定義は「事後的に判定される景気の山が、それ以前の数か月にあった可能性が高いことを示す」となっている。
2018年10-12月期のGDP1次速報公表時点では、2019年1-3月期は前期比年率0.8%のプラス成長を予想していたが、1月の経済指標の悪化を反映し同▲0.4%と小幅ながらマイナス成長になると予想を下方修正した。輸出が前期比▲1.5%の減少となり、外需が4四半期連続のマイナス寄与となるほか、10-12月期の成長率を大きく押し上げた民間消費、設備投資がほぼ横ばいにとどまり、外需の落ち込みをカバーすることはできないだろう。

今回の予測では、消費、設備などの国内需要が一定の底堅さを維持していること、在庫調整圧力がそれほど高まっていないことから、景気は足踏み状態で踏みとどまることをメインシナリオとしている。また、1月の落ち込みは中華圏の春節の影響も考えられるため、2月に大きくリバウンドする可能性もある。

ただし、日本経済は依然として国内需要の自律的な回復力が弱いため、輸出の低迷が長引いた場合には、2018年秋頃をピークに景気が後退局面入りしている可能性が高まる。その場合、茂木経済財政政策担当大臣が1月の月例経済報告で表明した「戦後最長景気」は幻となる。3月中旬以降に公表される2月の経済指標の結果が注目される。
 
一方、2019年10月に予定されている消費税率引き上げによる経済への影響は、大規模な増税対策を講じたこともあり、前回増税時(2014年4月)を大きく下回る公算が大きい。増税直後の2019年10-12月期は前期比年率▲1.5%とマイナス成長となることが避けられないが、成長率のマイナス幅は前回増税時(2014年4-6月期の前期比年率▲7.2%)を大きく下回るだろう。

2020年度は東京オリンピック・パラリンピックの開催・終了が景気振幅の一因となりそうだ。過去の夏季オリンピック開催国において、開催前後の四半期毎の実質GDP成長率(1964年の東京から2016年のリオデジャネイロまでの平均。ただしデータ上の制約から1980年のモスクワを除く)をみると、成長率のピークは開催2四半期前で、その後1年間は伸び率が低下していることが確認できる。需要項目別には、総固定資本形成は開催3四半期前がピークで、開催2四半期後まで伸び率が急低下しており、個人消費は開催2四半期前をピークに、開催3四半期後まで伸び率が緩やかに鈍化している。
夏季五輪開催前後の成長率 これを機械的に2020年の東京オリンピック・パラリンピックに当てはめると、成長率のピークは2020年1-3月期となる。もちろん、実際の経済はオリンピック以外の要因に左右されるが、現在、計画されている消費増税に向けての各種施策は期限付きのものも多く、対策の効果一巡がオリンピック終了と重なることで、景気の落ち込みを増幅するリスクがあることには注意が必要だろう。特に、キャッシュレス決済時のポイント還元については、制度終了(2020年6月)前後に駆け込み需要と反動減が発生する可能性がある。

今回の予測では、オリンピック関連需要の一巡によるマイナスの影響を、消費増税後の反動減の緩和による押し上げが打ち消すことにより、2020年度前半まで景気は好調を維持するとした。しかし、オリンピック終了後の2020年度下期には押し上げ要因がなくなるため、景気の停滞色が強まることは避けられないだろう。
(物価の見通し)
消費者物価(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は、2018年10月の前年比1.0%から、原油価格の下落に伴うエネルギー価格の上昇幅縮小を主因として2019年1月には同0.8%まで上昇率が鈍化した。また、日銀が基調的な物価変動を把握するために重視している「生鮮食品及びエネルギーを除く総合」(いわゆるコアコアCPI)の上昇率はゼロ%台前半にとどまっている。

原油価格の動きが遅れて反映される電気代、ガス代は2018年度末頃をピークに上昇率が鈍化し始め、エネルギー価格の上昇率は2019年夏頃には前年比でマイナスに転じる可能性が高い。また、サービス価格との連動性が高い賃金は伸び悩みが続いているが、2019年の賃上げ率は前年を若干下回ることが見込まれる。基調的な物価上昇圧力が高まる材料は見当たらない中、物価は当面低空飛行を続けることが予想される。

2019年10月以降は消費税率引き上げと教育無償化により物価上昇率が大きく変動する。コアCPI上昇率は消費税率引き上げ(軽減税率導入の影響を含む)によって1%ポイント押し上げられるが、同時に実施される幼児教育無償化によって▲0.6%ポイント、2020年4月に予定されている高等教育無償化によって▲0.1%ポイント押し下げられる。消費税率引き上げと教育無償化を合わせたコアCPI上昇率への影響は、2019年度下期が+0.4%、2020年度上期が+0.3%、2020年度下期が▲0.1%となる。年度ベースでは2019年度が+0.2%、2020年度が+0.1%である。2019年度下期以降は消費税率引き上げと教育無償化の影響で物価の基調が見極めにくい状況が続くことになろう。

コアCPI上昇率は2018年度が前年比0.8%、2019年度が同0.5%、2020年度が同0.6%、消費税率引き上げを除くベースでは2019年度が前年比0.0%、2020年度が同0.1%、消費税率引き上げ・教育無償化を除くベースでは2019年度が前年比0.3%、2020年度が同0.5%と予想する。
消費税率引き上げと教育無償化による消費者物価への影響/消費者物価(生鮮食品を除く総合)の予測

 
日本経済の見通し(2018年10-12月期2次QE(3/8発表)反映後)
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2019年03月08日「Weekly エコノミスト・レター」)

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【2019・2020年度経済見通し-18年10-12月期GDP2次速報後改定】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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