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【アジア・新興国】韓国政府、国民年金制度の改正案を提示-高齢者の貧困率改善や年金の持続可能性の拡大に繋がるだろうか-

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中
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1――韓国政府が国民年金制度改正案を提示
第1案は、現在の保険料率(9%)と所得代替率(40%)を維持し、基礎年金を2021年に月額30万ウォンに引き上げる案である1。2007年に改正された国民年金法によると、2018年現在45%である所得代替率は毎年0.5%ずつ引き下げられ2028年には40%になるように設計されている。第1案が実施されると、平均所得者(1か月の所得が250万ウォンである者)が国民年金に25年間加入した場合の国民年金と基礎年金を合わせた実質給付額(以下、平均所得者の1か月平均給付額)は86.7万ウォンとなる。
1 基礎年金の最大給付額は2018年9月から月25万ウォンに引き上げられた。2019年からは段階的に最大30万ウォンに引き上げることも決まっている。
第2案は、第1案のように現在の国民年金制度を維持しながら、65歳以上の高齢者のうち、所得認定額が下位70%に該当する者に支給される基礎年金を月額40万ウォンに引き上げる案である。基礎年金が上がると、平均所得者の1か月平均給付額は101.7万ウォンとなる。但し、第2案を実施するためには韓国政府の財政負担が大きい。韓国政府は、基礎年金を月額40万ウォンに引き上げた場合、2022年だけで20.9兆ウォンが、さらに2026年には28.6兆ウォンの関連予算が必要であると推計している。
第3案は保険料率を引き上げて、所得代替率を高める案である。つまり、第3案では、現在9%である保険料率を2021年から5年ごとに1ポイントずつ引き上げ、2031年には12%とすることにより、所得代替率を45%に高めることを提案している。第3案が実施されると平均所得者の1か月平均給付額は91.9万ウォンとなる。
2――第4次国民年金総合運営計画案も発表
- 国の支給保障を明示
年金制度が国民に信頼されるように、年金の給付を国が保障するという内容を明確化するように法律の改正を推進する。
- 地域の低所得被保険者の保険料支援
事業中断、失職などにより保険料の納付が難しい地域の被保険者の保険料を支援する事業を推進する。
- 職場の被保険者や農漁民の保険料支援対象を拡大
労働者10人未満事業所の事業主とその事業所に従事している労働者の社会保険料を最大90%まで支援する事業の労働者の所得基準を1か月190万ウォンから210万ウォンに拡大する(最低賃金の引き上げによる事業者の負担緩和と、労働者の雇用保障が目的)。
- 国民年金出産クレジット制度の拡大
子供が 2 人以上の世帯については、年金保険料を追加納付したことと認める出産クレジット制度の対象を拡大する。
現在:子供が 2 人以上の世帯が年金を受給する際に、12か月分の保険料を追加で納付したと認定し年金を支給。子供が 2 人から1人増えるごとに18か月分の保険料を追加で納付したと認定。上限は50か月。
改善案:出産及び子育てによる社会的貢献を認め、子供が1人である場合でも6か月分の保険料を追加で納付したと認定。子供が2人の場合は12か月、子供が3人の場合は18か月の保険料を追加で納付したと認定。上限は50か月。
今回の第4次国民年金総合運営計画案には、上記の改善案以外にも、遺族年金の給付水準、分割年金の給付水準、死亡一時金制度の改善などが含まれている。
2 国務会議は、韓国政府の権限に属する重要な政策を審議する機関であり、大統領、国務総理と15人以上30人以内の国務委員で構成される。大統領が議長、国務総理が副議長を務める。
3――結びに代えて
今回の改正案が実施されると、確かに、高齢者の所得水準や年金の持続可能性は現在より改善されるだろう。但し、課題は多い。まず、基礎年金の給付額を増やすことにより発生する財源をどこから確保するのかに対する議論が十分ではない。また、20年間固定されていた国民年金の保険料率を引き上げて、年金の給付水準を改善することは望ましいことであるものの、景気低迷が続く中で企業や労働者の負担を最小化しながら政策が実現できる方法がまだ具体的に議論されていない気がする。国民年金制度の改正案が高齢者の所得水準改善と年金の持続可能性拡大に繋がるように議論を重ねる必要がある。
参考文献
- 保健福祉部(2018)「第4次国民年金総合運営計画案」2018年12月24日配布資料
- 保健福祉部(2018)「第4次国民年金財政計算に基づいた国民年金の総合運営計画」
(2019年01月10日「保険・年金フォーカス」)
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生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任
金 明中 (きむ みょんじゅん)
研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計
03-3512-1825
- プロフィール
【職歴】
独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職
・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
・2021年~ 専修大学非常勤講師
・2021年~ 日本大学非常勤講師
・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
・2019年 労働政策研究会議準備委員会準備委員
東アジア経済経営学会理事
・2021年 第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員
【加入団体等】
・日本経済学会
・日本労務学会
・社会政策学会
・日本労使関係研究協会
・東アジア経済経営学会
・現代韓国朝鮮学会
・博士(慶應義塾大学、商学)
金 明中のレポート
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