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EIOPAによる2018年保険ストレステストの結果について(1)-EIOPAの報告書の概要報告-
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1―はじめに
今後の複数回のレポートで、これらの2つの報告書について報告する。
まずは、前者のEIOPAによって2018年に実施された欧州保険会社に対するストレステストの結果に基づく欧州保険会社の脆弱性と耐性力に関する状況を4回に分けて報告する3。
今回のレポートでは、今回のストレステスト及び今回の報告書の概要について報告する。
なお、今回のストレステストの実施内容については、EIOPAが2018年5月14日に公表した「2018年におけるEU全体の保険のストレステストの実施内容」に基づいて、保険年金フォーカス「欧州保険ストレステスト2018 (1)-EIOPAが第4回目の EU全体の保険のストレステストの実施内容を公表-」(2018.5.29)及び「欧州保険ストレステスト2018 (2)-ストレステストのストレスシナリオ及びサイバーリスクに関するアンケートの内容-」(2018.6.4)(以下、「前回のレポート等」という)において報告しているので、適宜参照いただきたい。
1 EIOPAのプレス・リリース資料 https://eiopa.europa.eu/Publications/Press%20Releases/EIOPA%20announces%20results%20of%20the%202018%20insurance%20stress%20test.pdf
報告書 https://eiopa.europa.eu/Publications/Surveys/EIOPA%202018%20Insurance%20Stress%20Test%20Report.pdf
2 EIOPAのWebサイトのNews
https://eiopa.europa.eu/Pages/News/EIOPA-publishes-its-third-annual-analysis-on-the-use-and-impact-of-long-term-guarantees-measures-and-measures-on-equity-ris.aspx
報告書
https://eiopa.europa.eu/Publications/Reports/2018-12-18%20_LTG%20AnnualReport2018.pdf
3 今回の一連のレポートにおける図表等については、特に断りが無い限り、EIOPAの「2018年 EIOPA保険ストレステスト報告書(2018 EIOPA Insurance Stress Test Report)」からの引用によるものであり、必要に応じて、説明のための数値の強調や翻訳等を行っている。
2―今回のストレステスト及び今回の報告書の概要
1|ストレステスト及び報告書のポイント
EIOPAによるプレス・リリース資料によれば、今回の2018年の保険ストレステストのポイントは、以下の通りとなっている。
・不利な市場進展への欧州保険セクターの耐性力の監督上の評価であり、合否判定テストではない。
・連結グループ資産に基づく75%の市場カバレッジを表している42の欧州(再)保険グループが参加
・自然大災害に関連するリスクを含む、市場及び保険に特有の様々なリスクをカバーする3つの厳しいが考えられるシナリオがテストされた。
・参加グループの資本ポジションの市場ショックに対する重要な感応度
・より長寿の予想と組み合わさった低利回りに対する脆弱性がグループレベルでも確認された。
・解約率と請求インフレに対する瞬間的なショックと組み合わさった突然かつ急激なリスク・プレアミムの反転に対するグループの脆弱性の証拠
・全体的には、セクターは規定されたショックを吸収するのに適切な資本を有している。
2018年の保険ストレステストは、EIOPAによって開始及び調整された欧州全体での4回目のテストである。EIOPA規則に盛り込まれているように、欧州システミックリスク委員会(European Systemic Risk Board:ESRB)と協力してのストレステストの定期的な実施は、EIOPAの義務の一部である。
これまでのテストと同様に、今回のストレステストの主な目的は、欧州の金融市場の安定性と実体経済に悪影響を及ぼす可能性がある特定の悪影響シナリオに対する欧州の保険セクターの耐性力を評価することである。従って、参加しているグループにとっては、「合否判定テスト(pass-or-fail test)」や「資本テスト」(結果に基づいて、資本要件を課すもの)とは見なすことができない、としている。
また、欧州の保険セクターを代表するために、EEA(欧州経済地域)で監督されている最大規模の(再)保険グループの中からサンプルが選択された。参加しているグループの国境を越えた活動のために、このストレステストはグループレベルの情報に焦点を当てている。従って、国別の結果は報告書に記載されていない。
今回のストレステストでは、ストレス前の貸借対照表に基づく「ベースライン(Baseline)」の状況に対して、以下の3つの主要な市場リスクに焦点を当てたストレスシナリオを設定している4。
ストレステストに含まれるシナリオは、EIOPAが欧州の保険セクターにとっての主要なリスクと認識しており、セクターの潜在的な脆弱性についての洞察を提供する、市場固有のリスクと保険固有のリスクの組み合わせを網羅している。具体的には、以下の3つのシナリオがストレステストに含まれている。
(1) 解約及び準備金不足のストレスと組み合わせた市場ショックを含むイールドカーブ上昇(Yield Curve Up:YCU)シナリオ
これはリスク・プレミア(Risk Premia:RP)の急激で大きなリプライシングと請求インフレの大幅な増加を意味している。
(2) 長寿ストレスと組み合わせた市場ショックを含むイールドカーブ下落(Yield Curve Down:YCD)シナリオ
これは平均余命の伸長とともに極度に低い金利の期間が続くことを意味している。
(3) 欧州の国々が急激に連続する4つの暴風、2つの洪水及び2つの地震に襲われる自然大災害(Natural Catastrophe:NC)シナリオ5
最初の2つのシナリオは、一方は財政状態の逼迫につながるリスク・プレミア(RP)の突然かつ急激な反転のリスク、そして他方は現在の低金利環境が継続するリスク、を反映している。YCD及びYCUシナリオで規定されている市場ショックは、厳しいがもっともらしく、過去の市場観測に基づいてESRBと共同で開発された。
さらに、NCシナリオは、部分的には保険会社にとって重要な新たなリスクである気候変動による極端な気象事象によって引き起こされる、自然災害の頻度増加のリスクを反映している。
なお、ストレステストには、サイバーリスク管理及びサイバーリスクへのエクスポージャーに関する情報を収集するためのサイバーリスクに関するアンケートも含まれていた。これは、保険会社及び金融の安定性にとっての関連する新たなリスクと考えられている。これらのアンケートの結果は、ミクロとマクロの両方の健全性レベルで、サイバーリスクに起因する潜在的なリスクと脆弱性を識別するために、EIOPAによって別途分析される。従って、それらはこの報告書ではカバーされない。
4 ストレスシナリオの概要については、前回のレポート等を参照していただきたい。
5 42の欧州(再)保険グループのうち、25のみがNCシナリオに含まれている自然大災害のセットにさらされていた。
このストレステストに参加しているグループは、その規模、EU全域の市場カバー率、事業分野(生命保険及び損害保険)及び十分な数のローカル管轄地域の関与に基づいて、NCAs(National Competent Authorities:国家監督当局)と調整して、EIOPAによって選択された。第2段階では、現地の市場カバレッジも考慮された。
この結果、今回のストレステストには、次ページの図表にある合計42の(再)保険グループが参加した。これらのグループは、ソルベンシーIIの年間グループ報告(ARG)の下で報告された連結総資産に基づいて、EEA市場の約75%をカバーしている。
また、今回のストレステストはグループレベルの情報に基づいているため、報告書には国別の結果は記載されていない。この点は、前回の2016年のストレステストの結果報告書が単体ベースの報告数値に基づいて、国別の数値を公表していたのとは異なっている。
(2019年01月08日「保険・年金フォーカス」)
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