2018年12月10日

2018~2020年度経済見通し-18年7-9月期GDP2次速報後改定

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1. 2018年7-9月期は前期比年率▲2.5%へ大幅下方修正

12/10に内閣府が公表した2018年7-9月期の実質GDP(2次速報値)は前期比▲0.6%(年率▲2.5%)となり、1次速報の前期比▲0.3%(年率▲1.2%)から下方修正された。7-9月期の法人企業統計の結果が反映されたことにより、設備投資が前期比▲0.2%から同▲2.8%へと大幅に下方修正されたことがその主因である。設備投資の下方修正だけで7-9月期の成長率は年率▲1.7%下振れた。それ以外の需要項目では、民間在庫変動(前期比・寄与度▲0.1%→同0.0%)、住宅投資(前期比0.6%→同0.7%)は上方修正されたが、民間消費(前期比▲0.1%→同▲0.2%)、公的固定資本形成(前期比▲1.9%→同▲2.0%)が下方修正された。
 
2018年7-9月期の2次速報と同時に2017年度の第一次年次推計値が公表され、実質GDP成長率は速報値の1.6%から1.9%へと上方修正された。公的需要(政府消費、公的固定資本形成)は下方修正されたが、民間消費(前年比0.8%→同1.0%)、設備投資(前年比3.1%→同4.6%)を中心に民間需要が速報値の前年比1.3%から同1.8%へと上方修正された。

また、2016年度は第一次年次推計値から第二次年次推計値への改定が行われ、実質GDP成長率は1.2%から0.9%へ下方修正された。2017年度とは逆に、民間消費(前年比0.3%→同0.0%)、設備投資(前年比1.2%→同▲0.5%)が下方修正されている。従来に比べて2016年度の減速、2017年度の加速がより明確となった。

四半期毎の成長率も過去に遡って改定され、2017年は4四半期のうち3四半期が上方修正され、特に2017年1-3月期は前期比年率2.3%から同3.3%へと1.0%の大幅上方修正となった。一方、2018年は3四半期ともに下方修正された。
2017年度GDP年次推計の結果/過去に遡って改定された実質GDP成長率
(自然災害の影響で、企業収益の改善が一服)
12/3に財務省から公表された法人企業統計では、2018年7-9月期の全産業(金融業、保険業を除く、以下同じ)の経常利益は前年比2.2%と9四半期連続で増加したが、4-6月期の前年比17.9%から伸びが大きく低下した。季節調整済の経常利益は前期比▲14.3%(4-6月期:同16.9%)と3四半期ぶりに減少した。前期比で二桁の大幅減少だが、前期の高い伸びの反動による部分も大きく、2018年4-6月期に次ぐ過去2番目の高水準を維持している。
経常利益(季節調整値)の推移 2018年7-9月期の経常利益の悪化は、豪雨、台風、地震など相次ぐ自然災害による供給制約と既往の原油高によるところが大きい。両者はいずれも10-12月期には剥落しているため、企業収益は再び改善に向かうことが見込まれる。ただし、2017年中に収益を大きく押し上げた輸出は、海外経済の回復ペース鈍化に伴い基調として減速しているとみられるため、先行きの増益ペースは緩やかとなることが予想される。
 

2. 実質成長率は2018年度0.8%、2019年度0.8%、2020年度1.2%

2. 実質成長率は2018年度0.8%、2019年度0.8%、2020年度1.2%

(2018年10-12月期は自然災害の影響剥落で高成長も、景気は減速)
2018年7-9月期のGDP2次速報を受けて、11/15に発表した経済見通しを改定した。実質GDP成長率は2018年度が0.8%、2019年度が0.8%、2020年度が1.2%と予想する。2018年7-9月期の実績値の下方修正を反映し、2018年度の成長率見通しを▲0.2%下方修正した。
2018年10月の経済指標は自然災害からの持ち直しを示す GDP1次速報後に公表された10月の経済指標を確認すると、自然災害の影響で7-9月期に大きく落ち込んだ輸出、生産、訪日外客数などはいずれも高めの伸びとなり、景気の持ち直しを示すものとなっている。2018年10-12月期の実質GDPは7-9月期の大幅な落ち込みの反動もあり、前期比年率3.5%と潜在成長率を明確に上回る高成長となるだろう。

ただし、2017年中は高い伸びを続けてきた輸出は、海外経済の回復ペース鈍化を背景に2018年入り後は基調として減速しており、景気の牽引役となってきた設備投資も企業収益の伸び率鈍化に伴い、先行きは減速に向かう可能性が高い。
(膨張する消費増税対策)
政府は、2019年10月に予定されている消費税率の引き上げが経済に影響を及ぼさないよう政策を総動員する方針としており、11/26に開催された経済財政諮問会議などの合同会議では、消費税率引き上げに向けての対応策が示された。

具体的には、①幼児教育無償化、年金生活者支援給付金の支給等、②軽減税率制度の実施、③低所得者・子育て世帯向けプレミアム商品券、④自動車・住宅の購入者に対する税制・予算措置、⑤消費税率の引き上げに伴う柔軟な価格設定(ガイドライン)、⑥中小小売業に関する消費者へのポイント還元支援、⑦マイナンバーカードを活用したプレミアムポイント、⑧商店街活性化、⑨防災・減災、国土強靭化対策、の9項目となっている。
消費税率引き上げに伴う対応-9項目- 対策の規模、期限などの詳細は年末までに決定されるが、これらの対策によって消費税率引き上げによる経済への影響は前回(2014年4月)に比べるとかなり小さくなることは確実だ。

消費税率引き上げ前後の駆け込み需要とその反動も前回増税時を下回るだろう。もともと、前回よりも税率の引き上げ幅が小さいこと(3%→2%)、住宅、自動車など買い替えサイクルの長い高額品については前回の引き上げ時に前倒しで購入した世帯が多いことから、駆け込み需要の規模はそれほど大きくならないことが想定されていたが、増税対策の拡充によってその可能性はより高くなった。キャッシュレス決済時のポイント還元(5%)や自動車減税などは増税前の買い控えをもたらす恐れすらある。
消費増税前の駆け込み需要の想定 当研究所では、消費増税前の駆け込み需要の規模は、1997年4月が3.5兆円(個人消費1.7兆円、住宅投資1.8兆円)、2014年4月が4.0兆円(個人消費3.0兆円、住宅投資1.0兆円)と試算しているが、次回の増税前の駆け込み需要は1.9兆円(個人消費1.5兆円、住宅投資0.4兆円)と前回の半分程度になると想定している。

なお、次回の消費税率引き上げは年度途中からとなるため、駆け込み需要とその反動減は2019年度内でほぼ相殺されることが想定される。
今回の消費増税対策は、対象の線引きの難しさ(軽減税率)、システム改修の遅れ(軽減税率、ポイント還元)など実務上の問題が少なくないことに加え、期限付きのものが含まれていることにも注意が必要だ。最近の日本経済は設備投資やインバウンド需要を中心に東京オリンピック関連需要で押し上げられているが、その効果はいずれなくなる。
夏季五輪開催前後の成長率 東京オリンピック・パラリンピックは2020年の7月から9月にかけて開催される(オリンピック:7/24~8/9、パラリンピック:8/25~9/6)。過去の夏季オリンピック開催国において、開催前後の四半期毎の実質GDP成長率(1964年の東京(日本)から2016年のリオデジャネイロ(ブラジル)までの平均。ただしデータ上の制約から1980年のモスクワ(ソ連)を除く)をみると、成長率のピークは開催2四半期前で、その後1年間は伸び率が低下していることが確認できる。需要項目別には、総固定資本形成は開催3四半期前がピークで、開催2四半期後まで伸び率が急低下しており、個人消費は開催2四半期前をピークに、開催3四半期後まで伸び率が緩やかに鈍化している。
これを機械的に2020年の東京オリンピック・パラリンピックに当てはめると、成長率のピークは2020年1-3月期となる。もちろん、実際の経済はオリンピック以外の要因に左右されるが、現在、計画されている消費増税に向けての各種施策は期限付きのものも多く、対策の効果一巡がオリンピック終了と重なることで、景気の落ち込みを増幅するリスクがある。

今回の予測では、オリンピック関連需要の一巡によるマイナスの影響を、消費増税後の反動減の緩和による押し上げが打ち消すことにより、2020年度前半まで景気は好調を維持するとした。しかし、オリンピック終了後の2020年度下期には押し上げ要因がなくなるため、景気の停滞色が強まることは避けられないだろう。
実質GDP成長率の推移(四半期)/実質GDP成長率の推移(年度)
(物価の見通し)
消費者物価(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は、2018年9月に前年比1.0%と7ヵ月ぶりに1%に達した後、10月も同水準を維持したが、その主因は既往の原油高に伴うエネルギー価格の上昇幅拡大である。日銀が基調的な物価変動を把握するために重視している「生鮮食品及びエネルギーを除く総合」(いわゆるコアコアCPI)の上昇率はゼロ%台前半にとどまっている。
消費者物価(生鮮食品を除く総合)の予測 先行きについては、足もとの原油価格急落に伴うエネルギー価格の上昇幅縮小を主因として2018年末までに1%を割り込む可能性が高く、2019年度中はゼロ%台後半の推移が続くことが予想される。コアCPI上昇率が1%に達するのはオリンピック開催に向けて需要の拡大が見込まれる2020年度入り後となろう。

消費者物価は先行きも為替、原油価格などの外生的な要因によって左右されやすい状況が続くが、賃上げ率がベースアップでゼロ%台にとどまる中ではサービス価格の上昇圧力が限られることから、2020年度中に日本銀行が物価安定の目標としている2%に達することは難しいだろう。

コアCPI上昇率は2018年度が前年比0.8%、2019年度が同0.7%(1.2%)、2020年度が同1.0%(1.5%)と予想する(括弧内は消費税率引き上げの影響を除くベース)。
日本経済の見通し(2018年7-9月期2次QE(12/10発表)反映後)
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

(2018年12月10日「Weekly エコノミスト・レター」)

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