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台頭するデジタルプラットフォームビジネス~テクノロジーは、加速度的にビジネスを陳腐化させる~
総合政策研究部 取締役 部長 清水 勘
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1――テクノロジーの進歩とアセット・ライト戦略の出現
2――アセット・ライト戦略の進化 ~デジタルプラットフォームビジネスの台頭~
この18年間の米国の時価総額上位10社の顔ぶれの変遷を見れば、デジタルプラットフォームビジネスのプレゼンスが如何に拡大しているかが分かる。
ソーシャルネットワーキングサイト(SNS)という「場」を作ったフェイスブックやツイッターは、20年前は存在していなかった。それを可能としたのも正しくテクノロジーの進歩だ。彼らは、従来のメディア産業と異なり独自の番組やコンテンツは一切制作しないので、その分、資産も軽い。これらデジタルプラットフォームは、自前でコンテンツを作らないにもかかわらず、既存メディア産業が垂涎するような大衆を世界規模で囲い込み、マスメディアの概念を根本から変えてしまった。人々が1日のうちソーシャルメディアに費やす時間は約2時間4といわれている。他の活動を削り、その時間をソーシャルメディアに割いている訳であり、既存のビジネスへのインパクトは計り知れない。
シェアリング・エコノミーで注目される民泊サイトのAirbnb(エアービーアンドビー)や配車サイトのUber(ウーバー)も、業種は違えど着想点は似ている。両社は、空き家となっている個人宅や週日は稼働していない個人所有の自動車など、各地に点在する資産を自社の「場」に取り込み、既存のホテルやタクシー会社の牙城に切り込む。商売道具として不可欠な資産(宿泊施設や自動車)はあくまでも個人に帰属し、企業として保有することはないため、これもアセット・ライト経営のひとつだ。そのAirbnbに登録された民泊物件数は4百万件に上り、部屋の質はさておき数の上では世界のホテルブランドトップ5が提供する総客室数を上回る5。米国ではUberにフレックス労働制で登録したドライバーがおよそ200万人いるとされ、約30万人いるタクシー、お抱え運転手の数を大きく上回る。
流通で今や時価総額世界最大となったアマゾン。同社が立ち上げたアマゾン・ドット・コムという「場」に流通する商品も、過半数は第三者の業者によるものだ。ここでも「場の開発」は自社、「コンテンツ」は他社という関係が成り立つ。IT技術を駆使し、徹底した物流の効率化を図ることで小売の在り方を根底から覆した同社は、近年まで店舗も持たず、商品在庫は常に最適最少にすることでアセット・ライト戦略を展開してきた。同社は、その身軽さとデジタルプラットフォームビジネス固有のネットワーク力で販売者と消費者を空前のスケールで囲い込み、創業から21年で巨星ウォルマートを時価総額で抜くまでに成長したのである。
2 “iOS Developers Ship 29% Fewer Apps in 2017, the First Ever Decline – And More Trends to Watch” Appfigures Mar 30, 2018
3 2018年9月に開催されたApple主催のイベントでのクックCEO発言より
4 “Daily Time Spent on Social Networks Rises to Over 2 Hours” Global Web Index May 16, 2017
5 “Airbnb now has more listings worldwide than the top five hotel brands combined” Business Insider Aug. 10, 2017
3――おわりに
純粋なデジタルプラットフォームビジネスは、生産手段や在庫を抱えず、コンテンツも作らない。持つのはあらゆるものを繋いでしまう「場」というデジタルプラットフォームとそれを支える最先端のテクノロジーだ。余計な資産を持たない分、ビジネス自体がアセット・ライトな建付けとなっており、デジタルプラットフォームビジネスは、そのフットワークの軽さをバネに急速に成長した。急成長の要因は、フットワークの軽さだけによるものではない。指数関数的に進歩するテクノロジーがその成長に大きく関わっていることも忘れてはならない。
新たなイノベーションが古いビジネスを陳腐化させ経済や産業の新陳代謝を促すという流れは、今に始まったことではない。ただ、この数十年で起きたテクノロジーやイノベーションが驚くほど急速に発展したため、それに追従できなかった産業は、新興のデジタルプラットフォームビジネスに大きく水をあけられ、一部のビジネスモデルは存続の危機に瀕している。テクノロジーが進化し続ける限り、あらゆる産業がこの洗礼を受けることになる。その動きにどれだけ迅速に対応するかが、今後の産業が勝ち残っていく上での成否の分かれ目となるだろう。
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(2018年12月07日「研究員の眼」)
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