2018年12月07日

2019年はどんな年? 金融市場のテーマと展望

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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(メインシナリオ)
以上、来年の注目材料を見てきたが、最も重要な材料はこれまで世界経済の下支えとなってきた米国の景気と利上げ動向、貿易摩擦の行方だと考えられる。

メインシナリオとしては、米経済は来年前半にかけて2%弱とされる潜在成長率を超える堅調な成長を続けた後に減速するが、雇用の回復持続等を背景に緩やかな減速に留まると予想している。これに伴い、FRBは来年2回の利上げを実施するだろう。これに対して、最近の市場は米経済の先行きに対して悲観に振れすぎているため、米長期金利は今後持ち直すと見ている。従って、ドル円は来年夏にかけて116円まで上昇し、その後は利上げ打ち止め観測から緩やかに下落すると見ている。今年と比べると、やや円安ドル高水準での推移を予想している。日本の株価についても、足元の過度な悲観が修正されるにつれて、円安と歩調を合わせる形で持ち直すと見ている。
 
ただし、米国の保護主義に端を発する貿易摩擦は来年も続く可能性が極めて高い。2020年の米大統領選での再選に向けて、トランプ大統領には対中国を中心として強硬な対外通商スタンスでポイントを稼ぐ動機がある。米国の景気や株価への影響に一定配慮しながら、揺さ振りを続けるだろう。従って、来年も貿易摩擦への懸念、それに関連して特に中国経済への減速懸念が高まり、株安・リスク回避の円買い圧力が強まる局面がたびたび発生するだろう。
 
欧州の政治リスクは展開が極めて見通しづらいが、いずれにせよ、既存の政治勢力の支持が弱まっており、挽回が難しくなっているだけに、政治的に不安定な状況が続きそうだ。
 
以上、来年は方向感として現状比で円安・株高を予想するが、米国も含めて世界経済が加速する可能性は低く、大幅な円安・株高は見込みづらい。また、世界経済を巡る様々な大型リスクが存在しているだけに、円高・株安リスクにも警戒を怠れない状況が続きそうだ。
 

2.日銀金融政策(11月)

2.日銀金融政策(11月):政策運営を巡る意見にばらつきが目立つ

(日銀)現状維持(開催なし)
11月は金融政策決定会合が予定されていない月であったため、必然的に金融政策は現状維持となった。次回会合は12月18~19日に開催される予定。
 
11月8日に公表された「金融政策決定会合における主な意見(10月開催分)」では、前回会合において、貿易摩擦の影響を受けつつある世界経済について、「踊り場の状態になりつつある」、「不透明感は強まっており、十分に注視する必要がある」など、警戒感を表明する意見が相次いでいたことが明らかになった。これに関連して、物価に関しても「(物価が上昇に向かうというメインシナリオの)前提となる海外経済で下振れリスクが高まっている」という意見が見られた。

金融政策運営については、「現在の金融緩和政策を粘り強く続けていくことが必要」との意見が引き続き多数を占めているとみられるが、金融緩和の長期化に伴う地域金融機関、インフレ期待への悪影響を危惧する意見がみられた。一方で、逆に物価目標達成のために、さらなる金利柔軟化に反対する意見や金融緩和の強化を求める意見などもあり、政策委員の方針にばらつきが目立つ状況になっている。
 
また、19日に行われた講演の中で、黒田総裁は、「全体として、わが国の金融システムは安定性を維持していると判断している」としつつ、「人口や企業数の継続的な減少や低金利環境の長期化に伴って、地域金融機関では、基礎的収益力の低下が続いており、(中略)ストレスが発生した際、自己資本比率が大きく下振れたり、当期純利益の赤字が継続したりする場合には、金融機関のリスクテイク姿勢が慎重化する傾向があるだけに、金融面から実体経済に及ぼす影響も含め、注意していく必要がある」と発言し、地域金融機関に対する一定の配慮を示した。
 
筆者は、副作用緩和のために、日銀は今後もさらなる金利変動幅の拡大(実質的な金利上昇許容幅の拡大)に向わざるを得ないと見ているが、7月に導入されたフォワードガイダンスの内容1を踏まえると、消費税率引き上げの影響が一巡するまでは新たな対応を見合わせると予想。次回の金利変動幅拡大は2020年春になると見込んでいる。
短期政策金利の見通し/長期金利誘導目標の見通し
 
1 「2019年10 月に予定されている消費税率引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持することを想定している」
 

3.金融市場(11月)の振り返りと当面の予想

3.金融市場(11月)の振り返りと当面の予想

(10年国債利回り)
11月の動き 月初0.1%台前半でスタートし、月末は0.0%台後半に。     
月初、米中貿易摩擦懸念の緩和や好調な米経済指標を受けた米金利の上昇などから、0.1%台前半での底堅い推移に。その後は、世界経済の減速懸念、原油安、欧州政治不安、FRBクラリダ副議長によるハト派発言などを受けて米金利低下が続き、本邦長期金利もじりじりと低下、19日には0.1%を割り込んだ。その後も世界経済の根強い減速懸念や米利上げ早期打ち止め観測の台頭などから、月末にかけて0.0%台後半から0.1%での推移が続いた。

当面の予想
今月に入り、米中貿易摩擦激化懸念のぶり返しや米利上げ打ち止め観測の高まりをうけて金利は低迷、足元も0.0%台半ばで推移している。当面、貿易摩擦への警戒が燻るほか、今月中旬のFOMCにおいて利上げの見通し鈍化や小休止が示される可能性が意識されやすい。また、英国のEU離脱問題など欧州の政治リスクも燻っており、金利が持ち直す機運は高まりにくい。長期金利は当面0.0%台半ばから後半での推移が見込まれる。
日米独長期金利の推移(直近1年間)/日本国債イールドカーブの変化/日経平均株価の推移(直近1年間)/主要国株価の騰落率(11月)
(ドル円レート)
11月の動き 月初112円台後半でスタートし、月末は113円台前半に。
月初から、好調な米経済指標や米中貿易摩擦緩和期待、米国の12月利上げ観測などから円安ドル高がじわりと進み、12日には114円台前半を付けた。その後は世界経済の減速懸念などから米金利が低下したことに伴ってドルが下落。さらにFRBクラリダ副議長によるハト派発言を受けた19日には113円を割り込んだ。しばらく112円台での推移となった後、持ち高調整の円売りで22日に113円を回復。その後も月末の米中首脳会談での貿易摩擦緩和期待に伴うリスクオンの円売りが入り、月末は113円台前半で終了した。

当面の予想
今月に入り、米中貿易摩擦激化懸念のぶり返しや米景気減速懸念に伴う利上げ打ち止め観測の高まりなどを受けてドルがやや下落し、足元は112台後半で推移している。今後も当面、貿易摩擦への警戒が燻るほか、今月中旬のFOMCにおいて利上げの見通し鈍化や小休止が示される可能性が意識されやすく、ドルは積極的に買われにくい。一方で、足元の米国経済は相対的に強いことから、ドル売りも活発化しにくい。従って、年末にかけて112円台後半を中心とする一進一退の展開が続くと予想している。
ドル円レートの推移(直近1年間)/ユーロドルレートの推移(直近1年間)
(ユーロドルレート)
11月の動き 月初1.13ドル台後半でスタートし、月末も1.13ドル台後半に。
月初、英EU離脱交渉の合意期待に伴うポンド上昇につられる形でユーロも買われ、7日に1.14ドル台後半に。しかし、その後は英EU離脱交渉への懸念やイタリア財政懸念、米12月利上げ観測から下落し、12日には1.12ドル台へ戻る。一方、その後は米利上げ鈍化観測の台頭により、再びユーロが上昇し、19日には1.14ドル台前半に。下旬には不調な欧州経済指標などからやや下落したが、月末は1.13ドル台後半で終了した。

当面の予想
今月に入り、米中貿易摩擦激化懸念からユーロ売りドル買いと、米利上げ打ち止め観測に伴うドル売りが交錯する形で一進一退となり、足元も1.13ドル台後半で推移している。今後も当面、貿易摩擦への警戒や利上げ早期打ち止め観測が燻るため、ドルは積極的に買われにくい。一方、英国のEU離脱問題やイタリアの財政問題などから欧州の政治リスクも燻っており、ユーロを積極的に買い進める地合いにもなりそうにない。従って、年末にかけて1.13ドル台半ばを中心とする一進一退の展開が続くと予想している。
金利・為替予測表(2018年12月7日現在)
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2018年12月07日「Weekly エコノミスト・レター」)

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