2018年12月04日

EIOPAがEU各国監督当局の主要機能の監督に関するピアレビューの結果を公表

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(2)ベストプラクティスの特定
このピアレビューを通じて、EIOPAは4つのベストプラクティスを特定した。

>> NCAsが、主要機能保有者の監督上の評価及び主要機能保有者の兼任について、最初の通知時及び継続的に、保険会社の事業の性質、規模及び複雑性に基づいて構造化された比例配分アプローチを採用する場合。ベストプラクティスには、監督上の文書化と一貫した一様のデータ提出要件(例えば、主要機能保有者通知のための電子データ提出システム)も含まれる。このベストプラクティスは、アイルランドとイギリスで確認されている。

>> NCAsが、主要機能に関するガバナンス要件における比例原則の適用に関する複雑な問題について監督当局と話し合い、アドバイスする内部的に設定された監督パネルを有する場合。このベストプラクティスはオランダで確認されている。

>>主要機能保有者とAMSBメンバーの兼任を評価する際、EIOPAは以下をNCAsのベストプラクティスとして考慮している:

・主要機能をコントロールすることは、一般的に業務上の機能、例えばAMSBのメンバーシップと兼任させるべきではない、というNCAの期待を公に開示すること。これらのケースが発生した場合、NCAsは、会社がそのような兼任に起因する可能性のある利益相反を認識し、効果的に管理していることを確実にするという期待を明確に伝えるべきである。

・AMSBのメンバーとしての主な責任は、主要機能保有者としての業務との利益相反をもたらさないことを保険会社に要求すること

・他のAMSBメンバーがAMSBメンバーでもある主要機能保有者に異議を申し立てているかどうか評価する。

このベストプラクティスはリトアニアで確認されている。

>> NCAsが継続中の監督にリスクベースのアプローチを適用する場合、NCAsの作業計画の一部として定期的に主要機能保有者との会議を開催することにより、常に主要機能保有者の適性要件の達成を保証する可能性がある(毎年レビュープラン)。これらの会議の議論のトピックは、実際のイベントや現在のトピックなどによって異なる場合がある。このベストプラクティスは、アイルランドとイギリスで確認されている。

これらのベストプラクティスは、比例原則の適用とNCAs内での一貫した効果的な監督実務の確保に関するより体系的なアプローチの指針を提供している。
3|推奨行動の概要及び具体例
ピアレビューでは、いくつかのNCAsがソルベンシーII要件に従って主要機能をまだ評価していないことが分かった。他のNCAsには、特に、例えば兼任が存在する場合に、保険会社から要求される評価や緩和措置の深さに関する脆弱性があった。

レビューの結果に基づいて、EIOPAはNCAsに対して多くの推奨行動を出している。なお、報告書は、特定の推奨行動が適用されるNCAsの監督上のアプローチの領域の概要も示しているが、各エリア内で、NCAsに向けて推奨される行動は、それぞれの状況に合わせて調整されている。

具体的な推奨行動は、以下の図表の通りである。
具体的な推奨行動
具体的な推奨行動
このピアレビューによって特定された問題とそれに対応する推奨行動は、比例原則の適用の監督に対するより一貫したアプローチをもたらす。さらに、いくつかのNCAsは、既にこのピアレビューから得られた監督実務に対してなされた改善の証拠を提供している。これらの改善は、その実施日がレビューの参照期間の後であるため、この報告書では考慮されていない。しかし、それらはピアレビューのフォローアップにおいて考慮されることになる。
4|共通監督文化の創造への影響
共通の監督文化を構築することは、EIOPAがEU全体で高品質で効果的かつ一貫した監督を確実に行うための基本的な任務である。監督者が互いに学び合い監督を強化するためには、国家監督者とEIOPAの定期的でオープンな対話と経験の交換が不可欠である。

このピアレビューは、欧州レベルでの共通監督文化の育成に直接貢献してきた。

このピアレビューにより、主要機能及び主要機能保有者に関連する多くの問題をカバーする欧州経済圏(EEA)におけるNCAsの保険市場及び監督実務の包括的な概要が得られたNCAsは、現在、自らの監督アプローチをピアNCAsのものと比較することができる。このような概要は、EEA内での一貫した質の高い監督の基礎となるものである。EIOPAはまた、NCAsが監督実務をさらに発展させることを支援するために、NCA実務を分析する過程で行われた追加の調査結果に起因するNCAsとのいくつかの観察を共有した。そのような観察の一例は、主要機能保有者の任命と役割に関する監督データベースを改善することにより、より良い市場概要を得ることである。これらの所見は、方法論に従った推奨行動として認定されていないけれども、このピアレビューに直接関係している。

ピアレビュープロセスは、NCAs内の議論だけでなく、NCAs間の議論にもつながった。異なる実務を検討し、経験を共有することにより、ピアレビューはNCAsの間でこの重要な監督上の問題をよりよく認識するようになった。

5|フォローアップと次のステップ
EIOPAは、比例原則を考慮したグループ内部と外部のアウトソーシングの区別を行うことができるガバナンス体制に関するガイドラインの改訂版で、このピアレビューの結果を検討する。さらに、EIOPAは、監督者レビュープロセス(SRP)の作業において、このピアレビューの全体的な結果(結果、ベストプラクティス、推奨行動及び観察)を最もよく反映する方法を検討する。

このピアレビューのフォローアップとして、NCAsの推奨行動の遵守は、方法論で予見されるように評価される。

市場事実と監督慣行の概要は、適切な場合は正式な決定を使用して、監督実務の改善のための、そして共通市場内において公平な競争市場を作り上げる上で不可欠なEEA内でのより一貫した監督アプローチのための、健全な基礎を提供する。
 

4―まとめ

4―まとめ

ここまで、今回のレポートでは、保険会社の主要機能の設定がソルベンシーIIの法的要件を満たしているかどうかをEU各国の管轄区域の国家監督当局(NCA)が監督して決定する方法を評価するピアレビューの結果に関するEIOPAの報告書について報告してきた。

ソルベンシーII においては、EU加盟各国の監督当局間の整合的な取扱が大きな課題になっている。その意味で、監督上のコンバージェンスを強化し、NCAsが高品質かつ効果的な監督を行う能力を強化するための、定期的な監督実務のピアレビューの実施は極めて重要な意味合いを有している。

EIOPAによるピアレビューの結果報告は、EU以外の他の国々にとっても参考になる点が多いものと思われる。特に、今回の主要機能(リスク管理、保険数理、コンプライアンス及び内部監査)に関するピアレビューの結果報告は、これらの主要機能がガバナンス体制の不可欠な部分であることから、大変関心が高い事項であると思われる。

今後ともEIOPAによるピアレビューの動向等については、引き続き注視していくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2018年12月04日「保険・年金フォーカス」)

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