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- リーマン・ショックから10年。その後の不動産収益率を振り返る~不動産の生み出すインカム収益がJ-REITの本源的価値~
2018年11月30日
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1――東証REIT指数(配当込み)は史上最高値を更新
世界的な金融危機の引き金を引いたリーマン・ショックから今年9月で10年が経過した。この間、J-REIT(不動産投資信託)市場も厳しい不動産市況の悪化と信用収縮に見舞われるなか、東証REIT指数(配当込み)は2007年5月に付けた高値から一時▲70%近く下落した(図表―1)。
しかし、その後は中央銀行の金融緩和や政府の財政出動などに支えられて世界経済が危機を克服したことで東証REIT指数は上昇に転じ、2014年末には前回高値を回復した。2007年5月末から現在(11/29)までの騰落率(配当込み)は+17%(年率+1.4%)で1、前回のミニバブル期において高値掴みをしてしまった投資家も忍耐強く長期保有することで、投資が報われる結果となっている。
しかし、その後は中央銀行の金融緩和や政府の財政出動などに支えられて世界経済が危機を克服したことで東証REIT指数は上昇に転じ、2014年末には前回高値を回復した。2007年5月末から現在(11/29)までの騰落率(配当込み)は+17%(年率+1.4%)で1、前回のミニバブル期において高値掴みをしてしまった投資家も忍耐強く長期保有することで、投資が報われる結果となっている。
このように、J-REIT市場の投資リターンが前回高値を超えて上昇するなか、不動産投資市場では間もなく市況がピークアウトするのではないかとの見方が増えている。日本不動産研究所の「不動産投資家調査(18年10月)」によると、不動産投資市場の現状認識について、「市場サイクルのなかでピークに達している」との回答が71.8%となった。一方で、今後1年間の不動産投資について、「新規投資を積極的に行う」との回答が90%を占めており、市場参加者は市況のピークアウトに警戒しながらも強気の投資姿勢を崩していないようだ。J-REITの投資行動をみても高水準の物件取得を継続すると同時に、現在の不動産価格の上昇を好機と捉えて、昨年から年間3,000億円を超える物件を売却している(図表―2)。また、国内銀行の不動産業向け貸出比率(2018年9月末)が15.6%に上昇し過去最高水準となるなか、金融機関の貸出態度DI(不動産大企業)が足もとで低下基調に転じるなど、不動産向け融資の潮目の変化を示唆する指標や報道2もみられる(図表―3)。今後の経済環境についても、来年の消費税率引き上げや米中貿易戦争の激化、FRBによる追加利上げなど景気の下押し要因となる懸念材料は多い。
そこで、以下では、まず現在の市場環境について前回ミニバブル期と比較する。次に、不動産価格が高値圏にあった時期(2007年~2008年)にJ-REITが取得した物件を対象にその後の収益率を確認することで、いずれ訪れる市況悪化への備えや収益ボトムラインについて考えたい。
1 なお、東証REIT指数(配当除き)の騰落率は▲31%(年率▲3.2%)である。J-REIT投資における分配金利回り(年平均4.6%)の重要性を表わしている。
2 『日本経済新聞が全国の地方銀行に実施した調査によると、投資用不動産向け融資(アパート融資)について、今後、積極的に融資を伸ばす地銀はゼロだった。』(日本経済新聞朝刊、2018年11月16日)
1 なお、東証REIT指数(配当除き)の騰落率は▲31%(年率▲3.2%)である。J-REIT投資における分配金利回り(年平均4.6%)の重要性を表わしている。
2 『日本経済新聞が全国の地方銀行に実施した調査によると、投資用不動産向け融資(アパート融資)について、今後、積極的に融資を伸ばす地銀はゼロだった。』(日本経済新聞朝刊、2018年11月16日)
2――現在の市場環境を前回ミニバブル期と比較する
1|「アベノミクス景気」は戦後最長へ。経済成長率は消費が低調で前回を下回る
2012年12月にスタートした「アベノミクス景気」は、景気回復がこのまま続けば来年1月には前回の「戦後最長景気(2002年2月~2008年2月)」の73カ月を上回ることになる。今回の景気回復の特徴としては、2014年4月の消費税率引き上げの影響により経済成長率の伸びが前回より低いことが挙げられる。回復局面における実質GDP成長率は前回の年平均1.7%に対して今回は1.3%にとどまる(図表―4)。これは個人消費の低迷が主な要因であり、GDP統計の民間消費の伸び率は年平均0.5%と過去の景気回復局面のなかで最も低くなっている3。来年10月の消費税率引き上げのインパクトは、軽減税率の導入や各種の負担軽減策などから前回時より小さくなる見込みだが4、2度目のショックを乗り越えられるかどうか注視が必要であろう。
2012年12月にスタートした「アベノミクス景気」は、景気回復がこのまま続けば来年1月には前回の「戦後最長景気(2002年2月~2008年2月)」の73カ月を上回ることになる。今回の景気回復の特徴としては、2014年4月の消費税率引き上げの影響により経済成長率の伸びが前回より低いことが挙げられる。回復局面における実質GDP成長率は前回の年平均1.7%に対して今回は1.3%にとどまる(図表―4)。これは個人消費の低迷が主な要因であり、GDP統計の民間消費の伸び率は年平均0.5%と過去の景気回復局面のなかで最も低くなっている3。来年10月の消費税率引き上げのインパクトは、軽減税率の導入や各種の負担軽減策などから前回時より小さくなる見込みだが4、2度目のショックを乗り越えられるかどうか注視が必要であろう。
2|オフィス空室率は全国で前回ボトムを下回る。オフィス賃料の回復は道半ば
三鬼商事によると、2018年10月の東京都心5区オフィス空室率は2.20%となり前回ミニバブル期のボトムである2.49%(2007年11月)を下回る状況が続いている。(1)IT企業を中心としたオフィス拡張意欲の強さ、(2)人材確保や働き方改革を背景とした好立地の築浅・大規模ビルへの移転ニーズ、(3)コワーキングスペースといった新たな借り手の台頭などによりオフィス需要は想定以上に強く、2018年から2020年にかけての大量供給を受けて市況が悪化するとの懸念は後退しはじめている5。
また、地方の主要都市でもオフィス需給が逼迫し空室率は低下している。水準自体は東京より高いものの前回ボトムとの比較では、札幌(▲5.6%)、仙台(▲3.4%)、横浜(▲1.4%)、名古屋(▲2.7%)、大阪(▲1.4%)、福岡(▲5.1%)と全ての都市で東京を上回る大幅な改善が見られる(図表―5)。
三鬼商事によると、2018年10月の東京都心5区オフィス空室率は2.20%となり前回ミニバブル期のボトムである2.49%(2007年11月)を下回る状況が続いている。(1)IT企業を中心としたオフィス拡張意欲の強さ、(2)人材確保や働き方改革を背景とした好立地の築浅・大規模ビルへの移転ニーズ、(3)コワーキングスペースといった新たな借り手の台頭などによりオフィス需要は想定以上に強く、2018年から2020年にかけての大量供給を受けて市況が悪化するとの懸念は後退しはじめている5。
また、地方の主要都市でもオフィス需給が逼迫し空室率は低下している。水準自体は東京より高いものの前回ボトムとの比較では、札幌(▲5.6%)、仙台(▲3.4%)、横浜(▲1.4%)、名古屋(▲2.7%)、大阪(▲1.4%)、福岡(▲5.1%)と全ての都市で東京を上回る大幅な改善が見られる(図表―5)。
3|不動産の期待利回りは前回ボトムを下回る。イールドスプレッドは高水準を維持
日本不動産研究所の「不動産投資家調査(18年10月)」によると、不動産に対する投資家の期待利回りは前回ミニバブル期を下回り過去最低水準を更新している。アセットタイプ別(東京)に現在と前回ボトム(2007年10月)の利回りを比較すると、「オフィスビル(丸の内、大手町)」が3.5%(前回ボトム対比▲0.3%)、「ワンルームマンション(城南)」が4.4%(▲0.6%)、「都市型商業施設(銀座)」が3.4%(▲0.6%)、「物流施設(江東区)」が4.5%(▲1.0%)、「ホテル」が4.5%(▲0.7%)となり、全てのアセットタイプで利回りの低下を確認することができる(図表―7)。なかでも、これまでオペレーショナルアセットとして相対的に利回りの高かった「物流施設」と「ホテル」の低下が目立つ。「物流施設」については電子商取引市場(EC市場)や3PL事業の成長、企業の物流効率化投資を背景に先進的物流施設への需要が拡大している。「ホテル」についても訪日外国人客数の増加により宿泊需要が拡大し、これまでなかった新たな実需が利回りを押し下げている。さらに、J-REITによる「物流施設」と「ホテル」の投資が増加し不動産としての認知度や透明性、流動性が高まったことで、リスクプレミアムの縮小が進んでいる(図表―8)。
日本不動産研究所の「不動産投資家調査(18年10月)」によると、不動産に対する投資家の期待利回りは前回ミニバブル期を下回り過去最低水準を更新している。アセットタイプ別(東京)に現在と前回ボトム(2007年10月)の利回りを比較すると、「オフィスビル(丸の内、大手町)」が3.5%(前回ボトム対比▲0.3%)、「ワンルームマンション(城南)」が4.4%(▲0.6%)、「都市型商業施設(銀座)」が3.4%(▲0.6%)、「物流施設(江東区)」が4.5%(▲1.0%)、「ホテル」が4.5%(▲0.7%)となり、全てのアセットタイプで利回りの低下を確認することができる(図表―7)。なかでも、これまでオペレーショナルアセットとして相対的に利回りの高かった「物流施設」と「ホテル」の低下が目立つ。「物流施設」については電子商取引市場(EC市場)や3PL事業の成長、企業の物流効率化投資を背景に先進的物流施設への需要が拡大している。「ホテル」についても訪日外国人客数の増加により宿泊需要が拡大し、これまでなかった新たな実需が利回りを押し下げている。さらに、J-REITによる「物流施設」と「ホテル」の投資が増加し不動産としての認知度や透明性、流動性が高まったことで、リスクプレミアムの縮小が進んでいる(図表―8)。
このように、不動産利回りが前回ミニバブル期を下回る一方で、10年国債利回りに対するイールドスプレッドは高い水準を確保している。前回ボトム(2007年10月)と比較した場合、現在のイールドスプレッドは全てのアセットタイプで上昇(+0.6%~+1.2%)している(図表―9)。
2007年10月当時は、前年に量的緩和及びゼロ金利政策が解除されて10年国債利回りは既に1%半ばまで上昇していた。これに対して、現在は日本銀行が異次元緩和を継続中で10年国債利回りは0.1%近傍で推移しており、10年国債利回りの低下が不動産利回りの低下を上回っている。不動産取引市場では過熱感が指摘されて久しいが、イールドスプレッドの厚い不動産はインカム収益を追求する投資家にとって依然として魅力の高い投資対象となっているようだ。
2007年10月当時は、前年に量的緩和及びゼロ金利政策が解除されて10年国債利回りは既に1%半ばまで上昇していた。これに対して、現在は日本銀行が異次元緩和を継続中で10年国債利回りは0.1%近傍で推移しており、10年国債利回りの低下が不動産利回りの低下を上回っている。不動産取引市場では過熱感が指摘されて久しいが、イールドスプレッドの厚い不動産はインカム収益を追求する投資家にとって依然として魅力の高い投資対象となっているようだ。
(2018年11月30日「基礎研レポート」)
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経歴
- 【職歴】
1993年 日本生命保険相互会社入社
2005年 ニッセイ基礎研究所
2019年4月より現職
【加入団体等】
・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
・日本証券アナリスト協会検定会員
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