2018年11月09日

オフィスは需給逼迫が継続。Jリートは物件の入替を積極化。-不動産クォータリー・レビュー2018年第3四半期

金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子

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3.不動産サブセクターの動向

(1) オフィス
三鬼商事によると、2018年9月の東京都心5区空室率は2.33%(前月比▲0.12%)となった。また、平均募集賃料は20,438円(前月比+0.7%、前年比+7.6%)となり57ケ月連続上昇した。他の主要都市でもオフィスビルの需給は逼迫しており、札幌2.26%、福岡2.47%などで低水準の空室率が継続している(図表-17)。
図表-17 主要都市のオフィス空室率
三幸エステート公表の「オフィスレント・インデックス」によると、2018年第3四半期の東京都心部Aクラスビル3の賃料は39,003円(前期比+5.6%)となった(図表-18)。39,000円を上回るのは2008年第3四半期以来であり、ファンドバブル時に記録した40,000円台の水準も視野に入りつつある。底堅いオフィス需要を背景に建築中のビルでもテナント誘致が順調に進んでおり、しばらくは引き締まった需給バランスが継続する可能性が高い。日経不動産マーケット情報(2018年10月号)によると、新築ビル(2016年10月~2019年10月完成、60棟)の稼働率は89%、うち竣工済(37棟)で97%、未竣工ビル(23棟うち8棟が満室)で72%の見込みである。
図表-18 東京都心部Aクラスビルの空室率と成約賃料
ニッセイ基礎研究所では、堅調なオフィス市況を受けて、東京都心部Aクラスビルの賃料見通しを改定した。標準シナリオの賃料は2019年第3四半期まで上昇(2018年第2四半期比+0.7%)した後、2022年第1四半期まで下落する(ピークからの下落率▲17.3%)見通しである4(図表-19)。
図表-19 東京都心部Aクラスビルのオフィス賃料見通し
 
3 Aクラスビルは、エリア、延床面積(1万坪以上)、基準階面積(300坪以上)、築年数(15年以内)、設備のガイドラインを基に、個別ビル単位で立地・建物特性を重視し三幸エステートが選定。
4 佐久間誠 『東京都心部Aクラスビルのオフィス市況見通し(2018年8月)-オフィス市況のピークアウトは2019年後半に後ずれ』(ニッセイ基礎研究所 2018年8月13日)
(2) 賃貸マンション
主要都市のマンション賃料は概ね上昇基調にある。三井住友トラスト基礎研/アットホーム「マンション賃料インデックス」(2018年第2四半期)によると、前年比で名古屋+5.1%、大阪+2.7%、東京23区+2.5%、福岡+2.1%、横浜・川崎+1.1%が上昇する一方で、札幌は▲0.4%、仙台は▲1.2%の下落となった(図表-20)。
図表-20 主要都市のマンション賃料
また、2018年第3四半期の東京主要3区の高級賃貸マンションは、空室率が5.5%(前期比▲0.1%)へ低下し、賃料は前年比+9.8%の18,162円/月坪と過去最高値を更新した(図表-21)。
図表-21 高級賃貸マンションの賃貸と空室率
(3) 商業施設
商業動態統計などによると、2018年7-9月期の販売額(既存店)は、 百貨店が前年比▲2.6%、スーパーが+0.5%、コンビニエンスストアは+1.5%となった(図表-22)。10月には三越伊勢丹が「伊勢丹相模原店」、「伊勢丹府中店」、「新潟三越」の閉店を発表するなど、百貨店の業績不振による店舗の選別が進んでおり、日本百貨店協会加盟の店舗数は1999年からほぼ3割減少している。

日本不動産研究所によると、18年上半期の主要都市の1F店舗賃料は高い水準で安定的に推移しており、インバウンド消費によりドラッグストアやディスカウントストアの売上が引き続き好調である。店舗賃料単価(1階)は「銀座」、「大通(札幌)」、「心斎橋」、「栄(名古屋)」で上昇した。「天神」は下落したが、これは事例のばらつきが原因であり、「天神ビックバン」や「旧大名小学校跡地」の再開発により、街の景観と賃料水準の変化が期待される(図表-23)。
図表22-百貨店・スーパー・コンビニエンスストアの月費販売額(既存点、前年比)/図表-23店舗賃料トレンド 主要都市1F
(4) ホテル
9月の訪日外国人客数は、前年同月比▲5.3%となり5年8ヶ月ぶりに減少に転じた(図表-24)。7月以降は大阪北部地震(6/18)や西日本豪雨(7月)の影響に加え、台風第21号が大阪(都道府県別訪問客数2位)、北海道胆振東部地震が北海道(3位)と、人気エリアを直撃したため、香港(前年同月比▲23.8%)や韓国(▲13.9%)など全体の7割を占める東アジアからの訪日客が大きく減少した5。関西国際空港の発表によると9月末時点で旅客便がほぼ平常運行に戻っており、インバウンド需要が早期に回復するかどうか注目される。
図表-24 訪日外国人客数(12ヶ月累計)/図-25 延べ宿泊者数の推移(月次・前年比)
宿泊旅行統計によると7-9月の延べ宿泊者数は前年比で▲0.6%減少する一方で、外国人が14%増加し、日本人宿泊者数の減少(前年比▲3%)を補っている(図表-25)。オータパブリケイションズによると、9月の全国61都市ホテル客室稼働率は81.3%(前年同月比▲2.9%)と低下した(図表-26)。
図表-26 ホテル稼働率(全国・暦年比較)
 
5 北海道庁によると、9月末までの宿泊キャンセルは115万人に及んだ。なお、地震による節電要請は9月19日に解除されている。
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金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子 (わたなべ ふみこ)

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

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