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韓国でも児童手当がスタート―制度の定着のためにはまず財源の確保を―

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中
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1――はじめに
2――2018年9月から児童手当がスタート
現在、韓国には児童手当制度は導入されていないものの、2012年から育児に対する親の負担を緩和することと子育てに対する選択肢を多様化する目的で、すべての0~2歳児と5歳児を対象に、保育園や幼稚園の保育料や養育手当を補助する制度が実施されている。2013年3月からは3、4歳児も補助の対象に含まれた。保育園(オリニジップ)を利用する0~5歳までの児童は年齢に応じて異なる補助額が支給される。また、家で子育てをする親に対しては養育手当として毎月10万ウォン~20万ウォン(満1歳未満20万ウォン、満1歳以上~満2歳未満15万ウォン、満2歳以上~満5歳未満10万ウォン)を支援している。いわゆる無償保育が実現されている。
2018年9月から児童手当が導入されると、例えば、満1歳未満の子どもを家で育てる親に対しては児童手当10万ウォンと養育手当20万ウォン、合計で月30万ウォンの手当が支給されるので、子育て世帯の経済的負担は今より緩和されることになるだろう。しかしながら、問題は財源をどこから確保するかである。児童手当を実施するためには、2022年までの5年間で合計13.4兆ウォンの予算が必要であると推計されている。韓国政府は、今後児童手当の導入だけではなく、高齢者に対する基礎年金の金額も引き上げる(2018年4月から月25万ウォンに、2021年からは月30万ウォンに)など、社会保障関連政策を拡大することを計画しており、関連予算は大きく増加することが予想されている。
2017年の8月に発表された韓国政府の2018年予算案によると、2018年の予算は429兆ウォンで、2017年の400兆ウォンに比べて7.1%も増加している。特に「保健・福祉・労働」分野の予算は146.2兆ウォンで2017年の129.5兆ウォンに比べて12.9%(16.7兆ウォン)も増加し、最も高い増加率を見せている。韓国政府は、特別な財源の確保なしで、財政支出の構造を変え、児童手当や基礎年金などの予算を確保することを計画しているものの、今後更なる人口高齢化は「保健・福祉・労働」分野の関連予算を大きく増加させるに違いない。安定的な財源を確保するための早急な対策の実施が必要な時期である。
1 「文在寅政府国政運営 5か年計画」
3――日本の先例から学ぶことは
4――結びに代えて
韓国政府は税収の自然増加分や財政支出の構造を変え、児童手当の導入を含む「100大国政課題」 を推進する予定であるものの、景気の変動により税収は大きく変わる可能性が高い。また、財政支出(国家予算)の見直しだけで必要な財源が十分に確保できる保障はない。日本でも2009年に民主党政権が特別な財源の確保政策なしで、無駄を減らすなど国家予算を見直す、いわゆる「事業仕分け」を実施することにより財源を確保しようとした試みがあったものの、必要財源が十分に確保されず失敗に終わったことがある。韓国政府は日本の例を参考に、児童手当の導入や基礎年金の給付額の引き上げなど社会保障関連政策を実施する前に、まずどのように安定的な財源を確保するかを優先的に考える必要がある。また、日本の児童手当のように児童の育成にかかる費用を社会全体で負担する仕組みの導入も検討すべきである。制度の持続可能性を高め、国民に安心感や信頼を与える制度を作るための工夫が必要である。
(2018年08月27日「基礎研レター」)

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任
金 明中 (きむ みょんじゅん)
研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計
03-3512-1825
- プロフィール
【職歴】
独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職
・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
・2021年~ 専修大学非常勤講師
・2021年~ 日本大学非常勤講師
・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
・2024年~ 関東学院大学非常勤講師
・2019年 労働政策研究会議準備委員会準備委員
東アジア経済経営学会理事
・2021年 第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員
【加入団体等】
・日本経済学会
・日本労務学会
・社会政策学会
・日本労使関係研究協会
・東アジア経済経営学会
・現代韓国朝鮮学会
・韓国人事管理学会
・博士(慶應義塾大学、商学)
金 明中のレポート
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2025/04/15 | 韓国は少子化とどう闘うのか-自治体と企業の挑戦- | 金 明中 | 研究員の眼 |
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2025/03/28 | 韓国における最低賃金制度の変遷と最近の議論について | 金 明中 | 基礎研レポート |
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