2018年06月29日

テクノロジーの進化と超過収益獲得機会-関係先企業の株価収益率に基づく投資戦略に着目して

金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任 高岡 和佳子

文字サイズ

1――はじめに

企業間の販売・仕入関係と株価に着目した先行研究1によると、株式を売買する際に、売買対象株式自体の収益率ではなく、売買対象株式を発行する企業の販売先企業が発行する株式の収益率を参考にすることで、月率1.2%~1.6%(年率14.5%~18.9%)もの高い超過収益の獲得が期待できるらしい。しかも、販売先企業の株価収益率がその後の超過収益獲得に役立つ期間は1年近くにも及ぶ。一方、日本の企業社会に残る「株式持合」関係に着目した筆者の分析では、売買対象株式を発行する企業の関係企業が発行する株式の収益率を参考にすることで、獲得可能な超過収益月率は0.37%(年率4.5%)と先行研究と比べて明らかに小さい。また、関係企業の株価収益率がその後の超過収益獲得に役立つ期間は高々2週間と短く、先行研究と大きく乖離する2
分析手法の違いによる影響もあるだろうが、販売先企業や関係企業の株価収益率がその後の超過収益獲得に役立つ期間が大きく異なるのは、両者の分析期間の相違にあると筆者は考えている。その理由は、販売先企業や関係企業の株価収益率がその後の超過収益獲得に役立つ根本的要因は、投資家の情報収集・集約能力の限界にあるからだ。先行研究は2004年までの株式データを用いて分析しているのに対し、筆者の分析は2013年4月から2018年3月の株式データを用いており、その間にコンピュータの性能は飛躍的に向上している(図表1)。そこで、2003年4月から2008年3月までの株式データを用い前回と同様の分析を実施する。期間の異なる2つの分析結果を比較することで、販売先企業や関係企業の株価収益率がその後の超過収益獲得に役立つ期間が大きく異なるのは、テクノロジーの進化(分析期間の相違)に起因するかどうかを分析してみたい。
図表1:CPU性能の進化と分析対象期間
 
 
1 Cohen and Frazzini, 2008, Economic Links and Predictable Returns, The Journal of Finance 63, 1997-2011
2 基礎研レポート『関係先企業の株価収益率に基づく投資戦略~商流データに基づく先行研究との比較』(2018年6月15日)。
 

2――やはり分析期間の相違が影響している可能性が高い

2――やはり分析期間の相違が影響している可能性が高い

今回の分析は、金融機関を除く東証一部上場企業(2005年3末時点)を対象に、2003年4月~2008年3月の株価収益率(配当込み)を用いて実施した。前回同様、どの企業とも株式持合関係が確認できない独立系の企業3は分析対象から外した。また、関係企業の判定には、分析期間を通して、2005年3月末一時点の持合ネットワークを用いている4
 
 
3 金融機関を除く東証一部上場企業(2005年3末時点)と持合関係が確認できない企業を指す。他の上場企業との持合関係が確認できる企業も、今回の分析対象外となる。
4 持合ネットワークは、大株主データ(東洋経済新報社によるアンケート調査)及び有価証券報告書記載内容(コーポレート・ガバナンスの状況における株式の保有状況)を基にニッセイ基礎研究所にて作成
1分析結果(日次)
まず、5分位ポートフォリオの日次収益率を確認すると、今回(2003年4月~2008年3月)も、前回(2013年4月~2018年3月)同様、前日の関係企業の株価収益率が高い企業ほど株価収益率が高い傾向がある(図表2)。ただし、前日の関係企業の株価収益率が最も高い企業群(G1)を購入し、前日の関係企業の株価収益率が最も低い企業群(G5)を売却することで得られる超過収益率(G1とG5の収益率の差分)の水準は、大きく異なる。2003年4月~2008年3月は9.4bp(年率22.5%)で、2013年4月~2018年3月における4.2bp(年率10.0%)の2倍以上であった。つまり、10年間で超過収益率が半分以下に圧縮したことを意味する。
図表2:5分位ポートフォリオの日次収益率の比較
次に、前営業日の関係企業の株価収益率に代えて、2営業日前から20営業日前の関係企業の株価収益率を用いた場合の、それぞれの超過収益率(基準日別超過収益率)と、その累計を確認する。超過収益率の20営業日累計に着目すると、2003年4月~2008年3月の19.5bp(年率3.9%)に対し、2013年4月~2018年3月は、13.4bp(年率2.7%)にとどまる(図表3)。20営業日累計でも、超過収益率の圧縮が進んだ様子が確認できる。
図表3:基準日別超過収益率(G1とG5の差分)の比較
では、関係企業の株価収益率がその後の超過収益獲得に役立つ期間はどれくらいだろうか。基準日別超過収益率に着目すると、2003年4月~2008年3月は前営業日を基準とした場合に超過収益率は極めて有意に正であるが、2営業日前、3営業日前を基準とした場合、有意に正とは判断できない。また、初めて超過収益率が負となるのは、6営業日前を基準とした場合と早い。2013年4月~2018年3月は、前営業日の関係企業の株価収益率を基準とした場合に得られる超過収益率が極めて有意に正であっただけでなく、2営業日前、3営業日前を基準とした場合も、それなりに有意に正であった。加えて、初めて超過収益率が負となるのは10営業日前を基準とした場合であった。基準日別超過収益率に着目すると、関係企業の株価収益率がその後の超過収益獲得に役立つ期間は10年前よりも、長くなっている。つまり、先行研究の結果と先の筆者の分析結果における、株価収益率がその後の超過収益獲得に役立つ期間の大きな差は、テクノロジーの進化では説明できないのかもしれない。

しかし、超過収益率の累計の推移に目を移すと、異なる解釈も可能だ。2003年4月~2008年3月は前営業日から初めて超過収益率が負となる直前の5営業日前までと、その後では上昇傾向(傾き)に差はない。一方、2013年4月~2018年3月は、前営業日から初めて超過収益率が負となる直前の9営業日前までは上昇傾向にあるが、その後はさほど上昇しない。つまり、10年前において、関係企業の株価収益率は、日次ベースではその後の超過収益獲得にさほど役立たないが、僅かながらの収益差が1ヶ月以上継続するため、月次単位では超過収益獲得に役立つ可能性がある。
Xでシェアする Facebookでシェアする

金融研究部   主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任

高岡 和佳子 (たかおか わかこ)

研究・専門分野
リスク管理・ALM、価格評価、企業分析

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【テクノロジーの進化と超過収益獲得機会-関係先企業の株価収益率に基づく投資戦略に着目して】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

テクノロジーの進化と超過収益獲得機会-関係先企業の株価収益率に基づく投資戦略に着目してのレポート Topへ