2018年04月20日

インフレ加速の足音-物価指標はインフレ加速を示唆。今後も賃金上昇、GDPギャップ解消からインフレは加速しよう

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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(賃金上昇率):緩やかな賃金上昇が持続、物価への波及は労働生産性の動向が左右
事業所調査に基づく時間当たり賃金(前年同月比)は、18年3月に+2.7%となった(図表9)。賃金上昇率は低下する状況ではないものの、15年後半から2%台半ばから後半での推移が続いており、賃金上昇に顕著な加速はみられない。
(図表9)賃金上昇率および失業率 また、賃金に給付金を加えた雇用コスト指数(ECI)は、17年10-12月期が前年同期比+2.6%となっており、こちらは時間当たり賃金に比べて16年以降は緩やかな上昇基調が持続している。

一方、失業率との対比ではいずれの指標も賃金上昇が鈍いことを示唆している。失業率は足元で4.1%と00年12月以来の低水準となっており、既に金融危機前の水準を下回っている。しかしながら、金融危機前の賃金上昇率はいずれの指標でも3%を超えていたため、金融危機前の伸びを回復できていないことが分かる。

もっとも、企業の採用意欲が非常に強いことから、失業率は今後一段の低下が見込まれる。さらに、足元で製造業や建設業などの熟練労働力の不足が深刻化しているほか、低技能労働分野でも労働力不足が懸念されてきていることから、賃金上昇率はより失業率を反映した水準になることが見込まれる。このため、賃金上昇率は早晩加速する可能性が高いとみられる。

一方、賃金上昇が国内物価に与える影響については、国内物価との連動性が高い単位労働コストの動向が参考になる。単位労働コストは、時間当たり賃金を労働生産性で割って算出されるため、時間当たり賃金が上昇してもそれ以上のペースで労働生産性が上昇する場合には単位労働コストの上昇は抑制され、国内物価への波及も限定的となることが想定される。
(図表10)労働生産性および労働コスト ここで、単位労働コスト(前年同期比)の動向を確認すると、17年10-12月期は+1.7%と、17年1-3月期以来3期ぶりにプラスに転じており、物価上昇圧力は高まっている(図表10)。

10-12月期は、時間当たり賃金が+2.9%と15年10-12月期以来の水準に上昇する一方、労働生産性が+1.1%と賃金上昇を下回ったことが大きいようだ。

昨年12月に決定した税制改革では、法人税率の引き下げや設備投資に対する税優遇が実現するため、企業が設備投資を増加するとみられている。実際、全米製造業協会(NAM)の製造業調査では今後1年の設備投資計画が前年比+3.9%と、過去20年で最も高い水準になった。設備投資の拡大は、労働生産性を改善させる効果があるため、今後、労働生産がどの程度改善するか国内物価への影響をみる上でも注目される。
 

3.物価見通し

3.物価見通し

これまでみたように、原油や商品価格は14年後半にみられた物価の大幅な押下げ要因から足元は逆に消費者物価などの総合指数の押上げ要因となっている。原油価格はイランの核合意をはじめ中東情勢に対する不透明感などから足元で上昇スピードが早まっていることから、今後一時的に調整する可能性はある。しかしながら、世界的に景気回復が持続する中、原油や商品価格が今後大幅に下落することは考え難い。当研究所では18年末の原油価格を68ドル、19年末を69ドルと足元からほぼ横這い圏で推移すると予想している。このため、原油価格は今後も物価を下支えするものの、とくに、来年以降の物価押上げ幅は限定的に留まると予想している。

一方、労働市場の回復持続に伴う賃金上昇の持続は今後も物価を押上げる方向に作用すると予想している。
(図表11)米国潜在成長およびGDPギャップ さらに、金融危機後の大幅な景気鈍化によってマイナス幅が拡大したGDPギャップ1の改善も物価上昇を後押ししそうだ。GDPギャップとコアCPIの前年比の過去の推移をみると、GDPギャップがコアCPIに1年先行する傾向がみられる(図表11)。

議会予算局(CBO)によれば、GDPギャップは09年に潜在GDP比▲6.9%まで拡大した後、18年には漸く同+0.4%のプラスに転じることが見込まれている。このため、コアCPIは17年の+1.8%から18年以降に+2%超の水準に加速する可能性が高い。

当研究所ではCPI(前年比)を18年が+2.4%、19年が+2.3%と、17年の+2.1%から加速すると予想している。

一方、トランプ政権は今年に入ってから鉄鋼やアルミ製品、中国向け輸入品に対する高関税の賦課を示唆しており、保護主義的な通商政策に傾斜している。17年の米国の財・サービス輸入額は2兆9,000億ドルである。このうち、鉄鋼、アルミ製品は460億ドルと、輸入シェアは1.6%である。さらに、中国向けには第一弾として500億ドル、その後追加で1,000億ドルを関税対象にするとの報道がされている。このため、これら合計1,500億ドルでみると輸入シェアは5.2%となる。既に鉄鋼、アルミ製品で多くの適用除外国が提示されており、実際の関税賦課額は限定的である。さらに、中国向け1,500億ドルに対して25%関税が賦課される場合の輸入物価への影響は1%程度の押上げとみられる。このため、米GDP(19.4兆ドル)に対する輸入シェアの15%を考慮すると、1,500億ドルに関税が賦課されても、輸入物価の上昇を通じて国内物価に与える影響は0.1%~0.2%程度に留まろう。
 
 
1 潜在GDPと実際のGDPの差を潜在GDP比で示したもの。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2018年04月20日「Weekly エコノミスト・レター」)

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